表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
二人を誘う風
15/105

ヨナリアと白い迷宮

レオン達はメイラエ氏を救うため、街の中心にありながら位相がズレてしまった寂れた古城に足を踏み入れた。光を灯しながら先行したレオンは床の崩落に巻き込まれ地下に落ち、助けに飛んだサンリアと共に、そこで怪しげな扉を見つける。扉に触れると『待って!』と少女の声の念話が飛んできた。

『私はここに閉じ込められてるヨナリアっていうの。扉を開いちゃ駄目。貴方(あなた)達も閉じ込められるわ』

「閉じ込められて…だと?どうして」

『私が本当のオルファリコンの継承者だから』

「「!!」」

衝撃を受けるレオンとサンリアの気配を感じたのか、少女の声が小さくなる。


『…ここに来るってことは貴方達も七神剣の関係者でしょう…?

 そしてこんなあからさまなイグラスの罠に掛かりそうになるなら、私の仲間に違いないわ。ただし、本当のことは何も知らない。知らされてない。

 …そうよね?』

「…あぁ、そうだよ」

ちょっと、と(ささや)くサンリアに肩を(すく)めて見せ、レオンは続けた。

「俺は光の剣を持つレオン。隣にいるのは風の剣のサンリアだ」

『レオン、サンリア。初めまして。…なんて暢気(のんき)なことは言ってられないわね…。

 残念だけど、音の剣はもうここには無いわ。(うば)われてしまった』

「それはもしかして、灰色の髪の男だったか?」

『えぇ、そうよ。…まさか会ったの?』


さらっと返ってきたその言葉に二人は戦慄(せんりつ)した。

一体どこからが罠だったのか。


「会った。この城に一緒に来た。落ちたのは俺達二人だけだったけど」

『何てこと。そいつはイグラスと通じているのよ。

 この城に閉じ込めて、他の剣も奪おうって魂胆(こんたん)なんだわ』

「…でも、この城に連れてきたのは私のじーちゃんなのよ?」

『えっ…』

少女の声が動揺(どうよう)を見せた。


『…じゃあ、貴女(あなた)のおじいさんも裏切者なのかも』

「そんな筈無いわよ!何のショーコがあってそんな!」

『ここにはもう音の剣が無いのよ。それなのにここに連れて来ることなんて、剣に引かれたのでなければ道を知っている人でないと不可能よ。

 それに貴女のおじいさんも罠に掛かっていない』

「違うわ!私のじーちゃんはフクロウだから落ちなかっただけよ!」

『羽があるならどうして貴女を助けに来ないの?』

「それは…っ、でもそんなことある筈…」

涙目になりながら反論しようとするサンリアに、少女の声は同情した様に言った。


『誰が裏切者なのか、という話は後にしましょう。取り敢えず貴方達は脱出しないといけないわ』

「うん。でも、この扉の向こうにいる君を見捨てる訳にはいかない」

『…優しいのね。じゃあ、この扉を手前に引いて。押し開けると呪いが掛かって出られなくなるのよ、私の様に』

「分かった」

レオンはサンリアの手を握って扉を開いた。



そこは地下なのに妙に明るい空間だった。二人して辺りを見回す。壁、床、天井全てが白い世界。そしてそれは明らかに、

「…迷路、かな。俺苦手なんだけど」

少女の声の主はいない。そして背後の扉が音を立てて閉ざされた。

「…。行くしかねぇってことか」

そう(つぶや)いてサンリアを見たが、じーちゃんに裏切られたかもしれない、という言葉に動揺しているのか、(うつむ)いたまま返事は無かった。

レオンは溜息を吐き、サンリアの手を取って歩き出した。



もう長いことさ迷い歩いた気がする。

同じ所を行ったり来たりしている様な。

「なぁサンリア、何とか言えよ。俺迷路苦手なんだよ…

 このまま出られなくなるかもしれないんだぞ。助けてくれよ」


背後に声を投げ掛ける。サンリアは黙ったまま。泣きたいのを我慢しているかもしれず、振り向くのも躊躇(ためら)われる。しかし、それにしても…


何も言わない。


息遣(いきづか)いすら…聞こえない。


不意にレオンは恐怖を感じ身を硬くした。

(本当に俺が手を(つな)いでいるのはサンリアなのか…?実はまた何かの罠で、とんでもない化け物になってるんじゃ…)


迂闊(うかつ)に振り向いてはいけない予感。

彼は余った右手を(ひそ)かに剣の(つか)に伸ばした。



サンリアはさっきからずっとイライラしていた。

「ねぇレオン、ここさっきも通ったんじゃない?本当に合ってるんでしょうね…」

しかしその問いかけにも答えず、俺に付いてこいとばかりにしっかり手を握って、前の少年はずんずん進んでゆく。


「ねぇ」


もう何度目かの問いかけをしてから、サンリアは嫌な想像に捕らわれた。


(これは、本当にレオンなのかな…さっきキョロキョロしちゃったからその時に入れ替わって…前から見たら顔が無かったり、とんでもない化け物だったりするんじゃ…)



先に動いたのはサンリアだった。

「もうっ!」

手を振り払いウィングレアスを構える。

前の少年は振り向きざまに剣を抜き、躊躇(ちゅうちょ)無くウィングレアスを斬り上げた。

物凄い衝撃でサンリアはウィングレアスごと後方の壁に叩きつけられた。


(うぅ、強…!)

レオンの顔の少年が剣を構え、まだ立ち上がれないでいるサンリアに突っ込もうとする。

「レオン!?レオンなの!!?」

サンリアは渾身(こんしん)の叫び声を上げた。グラードシャインの切っ先があわやというところで止まる。

レオンの口元がサンリアの名を呼ぶ様に動いた。


(もしかしたら…)


サンリアは自分の口を指差し、それから手でアヒルの(くちばし)の様な形を作り口の前で数回開閉し、レオンの耳を指して、自分の顔の前でダメダメという風に手を振った。

(私の声は、君には聞こえないみたいなの。)

レオンは(しばら)くそのジェスチャーを眺めて(ようや)く理解し、首を縦に振った後同じジェスチャーをして返した。

(俺の声も、お前には聞こえていないんだな)

サンリアは(うなず)いた。

レオンは溜息を吐いた様に肩を落とし、サンリアの隣に座った。

(どうしよう…何もかも真っ白で目がおかしくなりそう)

部屋に入る前に聞いた少女の声も嘘みたいに静まり返っている。


ふと、肩を揺さぶられた。

ぼうっとしていたサンリアは、ハッとそちらを見る。

レオンが会心(かいしん)の笑みを浮かべて親指を立てていた。

サンリアが彼をまじまじと見つめると、彼は頷いた後立ち上がり壁に向かい、グラードシャインを抜き払って体ごと突っ込んだ。

ドオォォン、という轟音(ごうおん)と共に壁が一部崩れる。

「そっか!」

サンリアが歓声(かんせい)を上げるのと、

『何て乱暴な!』

慌てた少女の声がするのが同時だった。

『そんなことをしたら、城の上部もただじゃ済まないのに!』


「閉じ込められたと主張する貴女がどうして城の心配なんかするんでしょうねぇ?」


(りん)とした声に二人が振り向く。

そこにセルシアがいた。


『お前…!!』

「セルシア!」

「なんで此処にいるんだ?」

「何故って奈落(ならく)に落ちたお二人を助けに参ったまでですよ」

『だ、(だま)されちゃ駄目よ二人とも!』

「騙そうとしているのは貴女でしょう。

 しかし残念ですね?貴女の魔力が強すぎて、念話が宮殿中に丸聞こえでしたよ。

 あぁ、よりにもよってヨナリアなんて名乗るとはね…誰の記憶を読んだかバレバレだ」

『何よ、私がヨナリアって名前なのは元から…』

「この世界ではね、ア段で終わる名前は男性なんですよ。ご存知でした?」

『…!!』

間抜(まぬ)けな術士だ。メイラエさんの記憶を読んだんでしょう。

 ヨナリアは僕の兄の名前ですよ。可愛かったでしょう?

 あの人は本当に女の子の様でしたからね。よく親父さんと小母(おば)さんに娘扱いされていました。

 でも、…あの人はもう居なくなったんです。もう十年以上前に旅に出て、ね」

セルシアは天井を(にら)んで(うな)るように話し続けた。まるでそこに敵が(ひそ)んでいるかの様に。


「レオン君達が貴女の罠に()まったのはすぐに分かりました。でも普段の僕なら彼らを見極(みきわ)めるためにもう少し様子を見たかもしれない。

 あなたがヨナリアを名乗らなかったなら、ね!」


セルシアがティルーンから音の剣オルファリコンを抜き放った!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ