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七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
七神剣の森
104/105

魔女タナルキア

物語の終わりの日。

(ろう)()が一人、大樹の(こずえ)に座り、一服していた。

「…やれやれ、じゃ。寄る年波(としなみ)には勝てないねぇ…」

彼女は()(じょ)だった。(かみ)はすっかり黄白(おうはく)(しょく)になり、白い魔女(ぼう)と白いローブを着込んでいる。(さら)にシロフクロウまで連れて、何か白に(こだわ)りでもあるのかという出で立ちだった。

何故(なぜ)老いを選ぶのか、私には分かりませんね」

彼女の背後に満天の星空を切り取った様な夜の神が現れる。

「お前にゃそうじゃろうね、ラインハルト。相変わらず別嬪(べっぴん)さんだね。」

「私は美の神ですから。レオンの期待を(うら)()(わけ)にはいきません。貴女(あなた)と違ってね」

ラインハルトの(いや)()に、老婆はくつくつと笑う。

「そんで、相変わらず大馬鹿だわね。彼奴(あいつ)が私の今に納得(なっとく)してないとでも思ってるのかい?それとも嫉妬(しっと)かしらん?」

「現にあの方はこの六十年間、何度も貴女を止めたでしょう。納得していないに決まってます。嫉妬なんか、ありませんよ。美しくないものに嫉妬などしない」

「だが私はとっくに決めていたのさ。私はじーちゃんの様なイケババァになるってね。別に彼奴を残して死ぬ訳じゃあない。耄碌(もうろく)だって毛ほどもしとらん。それに、今日は流石にそろそろ(ねん)()(おさ)め時かなと思ってここまで上ってきたのじゃ」

「そうだったのか。有難う、サンリア」

瑞々(みずみず)しい少年の声がしたかと思うと、ラインハルトと魔女は、白い洋館のテラスに移動していた。

「…もうサンリアとは名乗っていないんじゃがな。エズベレンド十七世、エズベレンド公、タナルキア殿(どの)に直さんか?」

「ああ、そういう面倒くさいとこ、じーちゃんにそっくりになったな。あのサンリアが俺の中でサンリア以外であるもんか」

「誰が面倒くさいじゃと!?」

現れた少年に(しば)()がかって食って掛かり、それから二人はフッと笑った。

「…お帰り、俺の一番大切な人」

「ああ、帰ってきてやったわ。面白い報告もあるんじゃが、私の契約(けいやく)と、どっちを先にする?」

勿論(もちろん)お前だ。散々待たせやがって!本当に、お前は鳥みたいに自由に…いつ俺の見てないところで野垂(のた)れ死にやしないかと気が気じゃなかった」

「何じゃ、いつになくよう口が回るじゃないか。でも私が短命種のままでいたから、お前は(まご)の顔も見れたんじゃぞ」

長命種は子が出来にくい様だと分かり始めたのは最近のことだ。特に誰もそれについて(あせ)ってはいないが、レオンの孫は剣の仲間の皆に孫可愛がりされている。

「それはそうだけどさぁ…いやそれならマルタが産まれた段階で止めても良かったんじゃ…?」

「…チッ。本当に今日はいつになく気が付く奴じゃ。さては偽物(にせもの)か?」

するとレオンは魔女の(くちびる)にキスをした。

「おばあちゃんにキスする物好きなんて俺しかいねーよ」

「なるほどねぇ」

サンリアは悪戯(いたずら)っ子の様な目をラインハルトに向ける。

「…してませんよ、嫉妬なんか。」

ラインハルトはそっぽを向いた。


「……はい、終わったよ」

(あっ)()ないもんだね。もっと呪文とかあるかと思ったが」

「ディスティニーの権能使うだけだからな。相手の気持ち以外、何の準備も要らない」

「…契約とは言ってるが、実際は契約じゃないってこと?」

「ま、確認ってとこかな。本当に長命種になってもいいのか?っていう。俺との契約って言えば(かく)()も決まるだろ」

「そうか…。うん、やっぱり私は魔女タナルキアになれて良かった。レオンが待っていてくれたお(かげ)さね」

レオンは本当はサンリアに、常に一番(そば)に居てほしかった。しかしそれは彼女の意思を(そん)(ちょう)しない、彼の我儘(わがまま)だった。それが分かっていたからこそ、そして自由に飛び回るサンリアの(かがや)きを愛していたからこそ、彼は彼女が好きなだけ老いてゆくのを、ただじっと待っていた。

そして、小鳥は(ようや)く年老いて、彼の手元に安寧(あんねい)を求めに来た。もう二度と手放さない。それは言葉を交わさないまでも、確かに契約だった。

「しかし、年寄り(しゃべ)りが抜けないな…そのままだと長老(あつか)いになるぞ?実際は一番年下なのに」

「良いんじゃ。精神年齢は昔っから一番上じゃったしな!」

魔女タナルキアは呵呵(かか)と笑った。





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