表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七神剣の森【全年齢版/完結】  作者: 千艸(ちぐさ)
七神剣の森
100/105

唄の司教

夜明けの神が降臨なさってから四ヶ月後。

夜の神は(しい)(ぎゃく)され、夜明けの神に代替わりした。

今やイグラスの全員が、それを認識している。

何故(なぜ)ならば、夜明けの神の()(きょう)が一人、セルシアという名の長命種が、何度も人々に歌って聞かせたからだ。


大樹の(めぐ)みに(いだ)かれて 闇に眠りし者達よ

今イグラスの()は明ける 新たなる神迎え入れ

(せま)りくる朝に(そな)えよ 大聖堂の(かね)が鳴る

昨日に去りし夜の神 惜別(せきべつ)の波押し寄せて

世界は沈む海の底 二度と戻れぬ夢なれば

目覚めて(ふる)え明日の為 新たな神の名の元に

神の隣人(りんじん)迎え入れ 共に祖国を盛り立てよ

夜明けの神よご(らん)あれ!

夜明けの神のご加護(かご)あれ!


「聖歌隊でも、今度あのお歌をやるそうです。僕が司教様の役になりました!やっぱりお顔が似ているからですかね!」

ウルスラが(うれ)しそうに従兄弟(いとこ)に報告する。しかし、従兄弟はちょっと困り顔で微笑(ほほえ)んだ。

「ああ、あれね…。正直歌い()きたよ…。ホントはもっと自由に色んな歌を歌いたいんだけどね…」

「あらら…。それじゃ、僕がとびきり頑張って、セルシアお兄ちゃんの出番を無くしちゃいますね!」

「それは…有難いな。是非(ぜひ)頼むよ。…ところで、()(げき)()の件なんだけど。その後は大丈夫?何もされてない?」

「…はい、今のところは…。…僕の声ってそんなに大事なんですかね…」

長命種という存在が明らかになり、夜明けの神に仕える司教達が続々と長命種に転じていくと、人々の中にウルスラを子供の段階で長命種にしてしまおうという過激派が出て来た。天使の歌声を持つウルスラが、将来声変わりをしてボーイソプラノとしての価値を失うのを良しとしない一派だ。

一度だけ本当に危険な目に()って、ウルスラは(あや)うく去勢(きょせい)されそうになっているところをガンホム(ひき)いる黒天騎士団に助けられた。それ以来、ウルスラは歌をセルシアに、()(しん)(じゅつ)をガンホムに、それぞれ習いに通っている。

「やっぱり、人口自体がぐっと()っちゃったからねぇ。()(らく)()えているというか…君に救いを求める人達が出てくるんだよ。これは音の民の宿命だと思うしかない。」

過去の自分にも心当たりしかないセルシアは、強く生きてくれと願いながら小さい従兄弟の頭を()でた。

危険な目に遭わせたくないだけなら、歌など禁止してしまえば手っ取り早い。しかしそんな非道なことを、セルシアやディゾールが実行できる訳がないのだった。


「でも、そうだな…。ウルスラだけが注目されている現状が良くないと考えたら…僕がボーイソプラノで歌えばいいのか!」

何かトンデモナイ事を言い出したな、この歌の神様は。ウルスラは(ぜっ)()して従兄弟を見つめた。恐らくきっと、出来ないことではないのだろう。ウルスラは従兄弟の才能が(とど)まるところを知らないのを十分に理解していた。しかし。

「ちょっと…それじゃあ、セルシアお兄ちゃんを休ませてあげようっていう僕の計画が台無しじゃないですか!」

「いやいや、僕がボーイソプラノを歌えることが知られれば、僕に依頼される曲の(はば)もぐっと増える筈だからね。飽きなければいいんだよ」

「僕の出番を残しといて下さいよ!」

「えー?それは保証し()ねるなぁ。チャンスが与えられるのを期待するんじゃなくて、もっと貪欲(どんよく)に生きないと()()だよ?君はまだまだ若いんだから。その歳で街の女の子全員抱くくらいの…」

「セルシアさん。今はお歌の指導に集中して下さいね?」

それまでじっと(だま)って部屋のソファでニコニコしていたセルシアの最愛の人が、ニコニコ笑顔のまま彼を牽制(けんせい)する。

セルシアとウルスラは、お互いにそっくりな顔を見合わせて、そっと瞠目(どうもく)した。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ