山荘事件
習作です。宜しければ、感想を頂けると嬉しいです。
平成4年 第6回。
雨がザーザーと強く降り注ぎ、窓を叩く風の音が部屋の中を満たしていた。
部屋の中には、1人の人物が、男の正面に居座っていた。
「吾野さん、貴方は、例の場所で何を見たのですか」
と呼びかける声が、彼の意識を戻した。
「えっ、あぁ、そうでしたね」
返事をし、呆然とした記憶の中から、彼等が問いかけるものを呼び覚ました。
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1990年12月
私達は、男女5人のメンバーで青森の山奥、その山荘に遊びに行っていました。
「ソウマ、リンコ、大丈夫」
メンバーの一人、アカリがそう問いかけ、
「うん、だいじょうぶ」
彼等は、そう返答を返しました。
そこは、非常に寒く、凍えるほどだったのです。
私達は、3日ほどその場所に泊まる予定でした。
ですが、2日目の早朝。
事件が起こりました。
パリンと窓を叩き割る音が響いたのです。
何事かと思い、私とメンバーの一人であるカズマが向かうと、そこには、真っ黒な服に身を包み、大ぶりのナイフを持った男が居ました。
その男は、
「よくも!よくも!アカリちゃんを!僕の!アカリちゃんを!」
意味のわからないことを叫びました。
そしてナイフを突き出し、カズマを刺しました。
ですが、彼は、私を刺すことはなく、
「アカリちゃん!」
と何度も錯乱したように叫び、2人を叩き殺して、─そして、アカリちゃんを!僕の!アカリちゃんを!刺したんだ!何度も、何度も、何度も!
ねぇ、信じて下さいよ!ねぇ、刑事さぁん。
僕は、被害者なんだ!
僕の、アカリちゃんを奪われたんだ!─────
「埒があきませんね。彼の証言が変わったのは何回目ですか」
彼等の話を聞いていると、そういう声が響いた。
「しょうがないだろうさ、多分、悪気はないだろうしな」
「いや、ですが、流石に・・・一回目は、遊園地。二回目は、動物園。三回目は、別荘。四回目は、旅館。五回目は、水族館。六回目は、山荘。っていうのは、無理があるのでは」
「まぁ、そうだな、でも奴の話には、一部分にはなるが、一貫性はあるぞ」
男が返事を返すと、
「“真っ黒な服に身を包んだナイフを持った男”ですか」
「あぁ、その通り」
「それも疑わしいものですけどね。だって、状況証拠は、彼がやったのを指し示しているのですから」
「まぁ、そうだが」
「それじゃあ、どうしてそんな事をやってるんですかね」
「自白を取りたいんだろうさ。揉み消されないように」
「どういう事ですか?流石に、もみ消すのは不可能では?」
疑問の声が響く。
「いけるさ。奴の親は、どうやら御偉方に裏金を大量に渡してるみたいだしな」
「本当ですか?」
「らしい」
「不確定情報じゃないですか」
「まっ、世の中そんなもんさ」
数日後、ニュースの記事には、『一家を襲い殺した男』の責任能力が認められず、無罪放免となるそんなニュースが世間を賑わすことになるのだった。
『信用のできない語り手』
この技法の練習のための作品でした。
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