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永遠の弱者たち  作者: 影浦ねこぼ
19/28

19_【ライア】

「ほーら、綺麗にしてきましたよ。それにしても、元気な男の子ね」


 無事に出産を終え、助産師から我が子を受け取った。


 ――なんて、愛らしいのだろう。


 この子の名前はもう、夫と一緒に決めてある。


「マルス」――シネスタの昔の言葉で〝希望〟という意味だ。

 その名の通り、この子は私たちにとって〝希望〟そのものである。

 だが……なぜだろう? 私の心の中で、くすぶっている何かがあった。

 これは――〝不安〟?

 思えば、この子がお腹に宿ってから、〝不安〟が私を(むしば)み出していた。


 ――こんな私に、この子を無事に育てられるのだろうか? 

 ――夫も私も、それほど仕事の給料は高くない。経済的に、大丈夫なのだろうか? 

 ――この子が外の世界で、事件や事故に巻き込まれたりしないだろうか?

 ――この子を……私は守れるのだろうか?


「大丈夫? 具合悪いの?」

「え? ああ、いや……大丈夫よ」


 助産師からの一声で、我に返る。


「無理しないで。何かあったら、遠慮なく言ってちょうだいね」

「ええ、ありがとう」


 その心配りに、ほんの少しだけ癒されたような気がしたが、私の〝不安〟は増すばかりであった――。


 数日後、私は病室で身体の回復につとめていた。マルスは新生児室に預けている。


 ――大丈夫、大丈夫よ。なんとかなるわ。

 ――きっと周りの人だって助けてくれるはず。

 ――あの子の存在が、私を強くしてくれるはず。


 そう心の中で言い聞かせ続けた。

 だが、私の心の中に巣食う〝不安〟は拭えなかった。

 ふと、病室のテレビを点けてみる。そこに映っていたのは、シネスタの大統領ハラスであった。国民への定期演説の映像だ。


「我が国の国民全員に改めて呼びかけたい。決して、取り残されることなかれ。食いしばり、這い上がるのだ。強者になれ。そのために、あらゆるものを利用しろ! 手に入れるのだ、己の欲するものを! そして見せつけるのだ、己の力を!」


 這い上がる――強者になる――。


「私は国民を誰一人として見捨てるつもりはない。皆の者、私についてくるのだ!」


 これよ――これだわ――。

 私はあなたについていくわ、ハラス!

 私はあなたに従っていくわ、ハラス!

 私はあなたの言う通りにしていくわ、ハラス!

 ハラスこそが、きっと私の〝不安〟を取り除いてくれる! 

 ハラスこそが、今私が求めているもの全てだわ!


 それからさらに数か月後、世界は突如現れた謎の化物たちによって支配され、地獄と化していった。

 そんな中でも、私はハラスが言っていたことを忘れなかった。


 ――あらゆるものを利用しろ! 


「みんな大丈夫よ、安心して。彼はもともと人間だったの。それもラジュラに所属していた兵士だったみたいで、凄く強いわ。多数のクワイドと戦って、奴らを倒していたのをブラスと見ていたの。この通り、意思疎通もできるみたいだから、私たちの役に立ってくれるはず。そうよね、アルフ?」


 ――手に入れるのだ、己の欲するものを! 


「奴らはモースが言ってた病院に隣接するジュマーミと合わせて拠点にしている。食料も物資も豊富な環境で、私たちより安定した生活を得ているけど、それを私たちのものにしてやるわ」


 ――そして見せつけるのだ、己の力を! 


「なんで殺しちゃうのよ!? こいつには利用価値があったのに! こいつを捕虜として生かすことで、私たちの力を外部に見せつけることができたのに!」



 今にして思えば……私は間違っていた……ハラスはただの……疫病神にすぎなかった……。

 意識が、遠のいていく――。


「ライア……? ライアァァァァァ!」


 ――ごめんね……マルス……どうか……生き延びて……。

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