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魔力がみなぎる

「自らが神となれば、ずっと力を保ちながらこの世界に居続ける事ができるのだ!」

トロンさんは攻撃魔法の手を緩めない。


「トロンやめろ!」

カイナツさんは攻撃をやめ、私を守るためにシールドを何重にも張った。


私もなんとかしたいのに、上手く魔力が使えない。

むしろ、まだ、私に魔力があるなんて信じきれていない。


もしも魔力があったのなら、旅の途中で受けてきた魔力検査で「魔力がない」と判断されて通過できたのはなぜなのだろうか。


「カロリーヌ様!今は『魔力がある』と認識してシールドを補強してくれると嬉しいのですが」

カイナツさんは必死にシールドを張りながら私に言った。

攻撃の爆音の中なので大声だった。


「魔力があると認識する?」

私も大声で質問した。


「ええそうです。内なる声に耳を傾けてください!そのために目を閉じて、全ての音をシャットアウトするのです!」


カイナツさんの背中をじっと見て、私は何としても魔力を発揮しないといけないと思った。

攻撃をシールドで防いでいるカイナツさんと、笑いながら雨のごとく魔法の火の玉を撃っているトロンさんを見て、そして、全く動かないグラッドさん。

この状況をなんとしても打ち破ってみせる!


大きく息を吸って目を閉じる。

魔力って泉のように湧いて出てきて自分を満たすのかしら?それとも塊があってそれを見つけるのかしら?

私のチカラ。

私自身の事……。



突然静かになって周りが明るくなってきた。

そっと目を開けると、そこは知らないお屋敷の一室だった。

目の前のベッドにはストロベリーブロンドの赤子を抱いた、

アナベルさんがいる。

ドアが開いて、お母様が入ってきた。

まだ若くて美しいお母様は目の前に立っている私をすり抜けて、アナベルさんに駆け寄った。


過去の出来事だから、私が見えている人はいないようだ。

『アナベル!起き上がってはダメよ!貴方は出産で命を落としかけたのよ?』


『ケイトリン。ありがとう。私の体はもう限界まできているの。お医者様の話では、病気の治療を諦めてこの子を産むことを選んだから、病が進行しているらしいわ』

その言葉でお母様はアナベルさんの手を握った。


『私達の愛の結晶よ。名前は、カロリーヌに決めたわ。ケイトリン、私の娘をお願い』

そう言って、アナベルさんはまだ産まれたばかりの私のお腹の辺りを触った。するとその手から青色の光が放たれ私を包んだ。

でも、お母様はそれに気がついていない。


『あなたの子だもの。立派なレディに育ててみせるわ』

お母様はそう言って、アナベルさんから小さな私を受け取り、おでこにキスをした。

それでも私は青白く光ったままだ。


『ケイトリンはレディの中のレディだから、きっと厳しいわよ?カロリーヌ』

アナベルさんはおどけてそう言うと、疲れた顔を見せてベッドに横になった。


『元気に振る舞えるのもここまで』

『アナベル、無理をしないで。あなたの体に頑張ってもらって1日でも長生きをしてもらわないと』

そう言って青白く光る小さな私を抱いたお母様は部屋を出て行った。


ベッドに横たわるアナベルさんは再び上半身を起こした。


『そこにいるんでしょ?未来の誰かさん。いいのよ返事しなくて。私には聞こえないし姿も見えないから』

その言葉にドキッとして冷や汗が出てきた。


『貴方が男性なのか女性なのかわからないけど、少なくとも敵ではない事はわかるわ』

窓の外を眺めるようにしていたアナベルさんはこちらを見た。

その瞳は確実に私を捉えている。


『未来から来た貴方は私の子孫にあたるのだと思うわ。そんな気がするの。私達の一族での魔力持ちの子供は必ず特徴があるの。おへその下のハート型のアザよ。そこがカギ。それ以上は言わなくてもわかるわね。フフフ』

そう言ってから、鼻歌を歌い出した。


そのメロディには聞き覚えがあり、心臓がバクバクした。

今の瞬間までアナベルさんが産みの親だと言うことに対してどこか信じていない部分があったけど、この部屋の壁紙にも見覚えがあるし、この歌にも聞き覚えがある。



そこで真っ暗になった。



おへその辺りにたしかにハート型のアザがある。可愛いからあまり気にしてなかったけど、これが魔力持ちの証なのね。

そして私を包み込んでいた青白い光。きっとあの光が封印の光だ。

魔力を受け継いだとはいえ、封印がかかったままなのかもしれない。

グッとお腹に力を入れる。

あの青白い光から抜け出すイメージでお腹を押さえる。


内側から湧き立つ力が少しだけ感じられたので、それに集中する。

きっとこれが魔力のはず!


あたたかい何かが体を満たしていく。

それが身体中に満ち溢れてきたところで目を開いた。  



すると、そこには尚も攻撃の手を緩めないトロンさんと、シールドを維持するカイナツさんの姿がある。

後ろを振り返ると、ドロドロとした真っ赤な光が、すぐそこまで迫っていた。

カイナツさんの魔力より、トロンさんの魔力が上回っているから後退しているんだ。


私は先程から感じている身体中に満ち溢れる光を掌に集めるイメージを作った。

そして、カイナツさんの作ってくれているシールドの補強をイメージして周りを包んでいる光に向けた。


すると、指の先から柔らかい光が出て、シールドを包んでいく。

そしてシールドに溶けていくように混ざると、虹色に光った。


「カロリーヌ様!グッと押し返すイメージでシールドに力を込めてください」

カイナツさんに言われて、シールドにチカラを込めて、グッと押す。

すると、トロンさんが後ろに下がった。 


そのタイミングでグラッドさんはトロンさんに大きな火球を放った。


すると、トロンさんを包むシールドに亀裂が入った。

それを見たカイナツさんは、魔法で弓矢を作り出すと、激しく矢を放っていく。


薄氷が割れるような音が部屋中に響き、トロンさんのシールドが割れて粉々になった。

それと同時にグラッドさんの拘束が取れた。


「動けないだけで、聞こえてはいた!トロン、やめろ!」

グラッドさんは突然、セイレーンにもらった剣を自分に向けた。


「もしもやめないなら自ら命を絶つ。私が死んだらお前も消えるんだよな?」

それを見たトロンさんがここで初めて攻撃を辞めた。

そして両手を広げて降参を示すように両手を顔の横に持ってきた。


「早くトロンを拘束してくれ」

グラッドさんの言葉にカイナツさんが頷いた。


「魔封じをかけます」

そう言って、蜘蛛の巣のようなものを手から出してトロンさんを覆ったが、カイナツさんは怪訝そうな顔をした。


「魔封じが効かない?一体なぜ?そもそもグラッド様の受けるべき儀式をトロンが乗っ取る事はあり得ない。出来るはずがない事だ。一体どうなっているんだ?」


その言葉にトロンさんはニヤリと笑った。

「私達は『主人』がいない間、石になる。そう、それはわかっているとは思うが、私は沢山の血を吸い、そして最後にはクーリエ様の血も頂いたんだよ」


「どういう意味だ!」

グラッドさんはトロンさんに質問をした。


「クリーエ様の生きた時代は戦乱の世。私達、侍従はクーリエ様が複数持つ部隊の部隊長として活動していた」


「トロンは魔法部隊の部隊長をしていたということか。最前線にいたのか?」


「そうだ。私の部隊は先陣を切って敵国の兵士を排除する事だった」


「先陣をきって?もしや沢山の兵士を殺めたのか?」


「ああ!最初は大きな爆撃を放ち、敵陣を吹っ飛ばしていたが。いつからか相手も魔法部隊が先陣をきるようになってきた。その頃になると、魔法を駆使して戦ったあとは……クックックッ……」


そう言って、顔を歪めてトロンさんは笑った。

その顔はゾッとするような、酷く冷酷な顔だった。


「私達の仕事は主人が快適に過ごせるようにする事のはずだ」


「ああ。クーリエ様が快適に過ごせるように国を守ったのさ。残念ながらギルティロール魔法国家の再建を行うには、至らなかったがな」


「主人が快適に過ごすためというのは身の回りのお世話をしたりするのであって、代わりに戦うことではない!トロン、お前の仕事はゴート様の末裔を守ることだ。例え、戦乱の世に産まれた方だったとしても、防御魔法は発動しても良いが、故意に相手を殺める魔法を発してはいけない。それが救世主達の望んだ事だったはずだ」


「カイナツ、お前はわかっていない。本当に主人を思うなら、主人の脅威となるべきものは先に排除したほうがいいに決まっている。だから軍に参加したのだ」

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