表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/26

不思議な事は続く

そんなところで真新しいドレスを着た私は少しういている。

なんとなく居心地が悪く感じて立ちあがろうとすると、隣に栗毛の可愛らしい女の子が座った。


歳のころは10歳になったくらいだろうか。


「お姉さんのお母さんが会いに来てくれるのを待っていいるわ」

そう言って私の顔をじっと見た。


「こんにちはお嬢さん。私の母がずっと待っているの?」

笑顔で質問すると女の子は神妙な顔をして頷いた。


「そうよ。リネハン公国との国境線沿いにある常雨谷(レインバレー)で何年も前からずっと待っているわ」

修道女になるまで家族で生活していたのだからお母様が聞いたことのない土地で何年も待っているなんてあり得ない。

この子は誰かと勘違いしているのかもしれないし、もしかしたら空想の話をしているのかもしれない。


「私は母と一年前まで住んでいたのよ。だから何年も前から母が待っているなんてあり得ないわ」

私は女の子を傷つけないように優しい口調で話した。

「違うの。お姉さんを育ててくれたお母さんじゃなくて、お姉さんと同じピンク色の髪をした本当のお母さんよ」

尚もじっとこちらを見て真剣な表情で女の子は訴えかけてくる。


何故、私の髪がストロベリーブロンドだと知っているのだろうか。今は茶色に髪を染めているのに。

この子も何だかの魔力を持っているのかしら。

驚きをなんとか誤魔化していると尚も話しかけてきた。

「今まで住んでいた家でピンク色の髪なのはお姉さんだけだったでしょ?それに瞳の色も違ったはずよ」


そう言われて、両親や兄弟の事を考えると、皆、青い瞳ではあるが私のようにアイスブルーではないし、髪の毛も、私はストロベリーブロンドだけど、父は金髪の混ざった栗色で、母はダークブラウンだ。兄弟は皆、父の髪を受け継いだ。

ストロベリーブロンドは他にいない……。

それに先祖の肖像画にもストロベリーブロンドはいない。


はっとして息を呑む。

「ね?わかったでしょ?お母さんに会いに行ってね。あと、お姉さんのお腹に赤ちゃんがいない事はみんなわかっているからお腹を大きく見せるのはやめた方がいいよ」

まさか女の子に指摘されるとは思わなかったので恥ずかしくて赤くなってしまった。


「そうなの?」

「ええ。ここには沢山の魔法使いがいるの。だから、そのお腹の事はみんなわかっているよ。あっ、お姉さんのことをお兄さんが探しているわ。だから帰った方がいいわ」

女の子はそう言って立ち上がると、こちらに手を振ってどこかに行ってしまった。



私は困惑しながらグラッドさんを探しに行く事にした。

不思議な人に2人続けて出会った。

魔力のある人は、なんでも見抜いてしまうのかしら?

オルトナー夫人は本当に不思議だった。

あれは降霊術かしら?


そんな事を考えながらグラッドさんを探して甲板に出ると、ちょうど帆を張っていた。

初めて見る光景に目を奪われる。


何人もの船乗りが、共同で作業をしている。


全員、紺のセーラー襟のついた真っ白い長袖の服の袖をまくり、紺色の帽子をかぶっている。

ここにいる船乗り全員が逞しい体つきと、日に焼けた肌をしており、女性が憧れる男性そのものを体現している。


その船乗り達が、声を合わせ帆を張っていった。

初めてみるその作業に目を奪われていると、作業を終えた船乗りが1人、こちらに降りてきた。

その軽快な動きに合わせて動く白い上下の制服に女性達からため息が漏れる。


その人は他の船乗り同様に日に焼けており、短髪の少し透けるくらいプラチナに近い金髪に小麦色の肌、そして栗色の瞳の背の高い筋肉質な男性だった。

周りの女性たちが色めき立つ。

もしかしたら自分が声をかけて貰えるのではと期待しているのがわかる。


すると何人もの女性の前を素通りし、私の前にやってきた。

そして真っ直ぐ私の前に来る。

「お嬢さん、なんて美しい瞳なんだ。そのアイスブルーの瞳が美しくて、思わずここに来てしまいました。もしお暇なら、これからカフェでお茶でも?」


面と向かって美しいと殆ど言われたことのない私は照れてしまう。

私は船乗りの男性ににっこり笑って、

「夫がいるから、別の人を誘ってあげてください」

と言ったが、そんなの気にしないとばかりに豪快に笑った。

「形だけの結婚相手に義理立てするなんて面白いな。この船は魔力持ちばかりがいるから何を言ってもわかるんだよ。じゃあまたね」

そう言って立ち去った。


その直後、グラッドさんが甲板にやってきた。

「何か気になることでもあったの?」


「嫌。ちょっと……。でも大丈夫だと思う」

そう答えたグラッドさんは海からの風で髪が靡いて、邪魔だったのか前髪をかき上げた。

その仕草に急にドキドキしてしまう。

私達は白い結婚だけど、私はグラッドさんが嫌いなわけじゃない。


その日の夜、コルセットの詰め物を解いた。

女の子に指摘されたので妊婦のフリをやめる事にした。


詰め物の中のネックレスやイヤリングを布に包み、コルセットの一番下に縫い付ける。

ここはパニエで広がっているから多少何かを縫い付けておいても、ドレスの形は変形しない。


胸に詰める事も考えたが、私の胸は痩せてしまっているとはいえ、通常サイズだ。

先日の夜会では胸に詰め物をしたけど、アレは元の私と今も変わっていない事を演出するためだったし、それに夜会だった。


あの時の夜会……楽しかったわ。

今までの夜会は義務の一つだったのに、初めて自分の意思で夜会に参加してダンスを踊った。

笑いながら踊るダンスってあんなに楽しかったんだ。

夜会の事を思い出しながら作業を終えた。



朝食を食べながら『この船には魔力持ちばかりが乗っている』と船員に言われたことを考えていた。

魔力持ちって見つかったら捕まるんじゃなかったのかしら?

そんな事を考えていたせいで、グラッドさんの話に生返事をしていた。

最後に聞こえた言葉に返事をした時には倉庫に行く事になっていた。


「朝食の後、気になるものを見つけたから、みてほしいんだ」

連れてこられた場所は貨物室だった。


貨物室には沢山の荷物が積み上げられていた。

交易船とあって、ありとあらゆる荷物があった。

「気になるのはこれだ」

そう言われてグラッドさんが指差した荷物を見て驚いた。

高さ2メートルくらいの大きな木箱には、バーリエル国の王家の紋章が入っている。


私が警戒したのは、その横に分厚い布で覆われた檻があることだ。布にはリネハン公国の紋章が入っており、以前見た封印の紋章のような柄が浮き出ていた。

布の長さは檻より少し短いので、床に寝転んだりすれば中が見える可能性がある。

猛毒を持った魔獣だった場合、危険だから、檻には近づかないようにしないと。


「これって姿勢を低くしたり寝転んだりすれば中が見えますよね?」


「ああ。中を覗こうとしたが上手くいなかいんだ。多分、かなり獰猛な魔獣だと思うんだが。それならなぜ、檻を完全に隠してないのか」

グラッドさんは張り詰めた声を出した。


「気になる事はわかったわ。この檻を正面から見ているけど、裏からは見る事はできないの?」


「裏から見ようと思ったら、ほとんど隙間なく置いてある大きな荷物が邪魔なんだ。紋章を見る限りどこかの貴族のもので、大きさとして不気味なサイズだ。あれも檻が入っていてもおかしくない」


「真横の荷物はバーリエル国の王家の紋章よ。バーリエル国は魔力持ちは稀な国だから檻なんて入ってないだろうし、箱の上に乗って布がかかった檻を上から眺めましょう?」


「あの紋章はバーリエル国の王家のものか。わかった。ではあの箱の上に乗ってみよう」


「私も上から見てみたいわ。ほらあそこに梯子があるからアレで箱に乗るわ」

私の指差した方をグラッドさんは確認して梯子を持ってきてくれた。


梯子を使い箱の上に乗ると、ほとんどの荷物を上から見ることができる。

この檻の荷物を上から見て驚いた。

布は一度外されたようで、それを隠蔽するためと、檻の中を見えなくするために布を掛け直したようだ。


その証拠に檻の上には封印の紋が沢山ついた布が、折り重なって檻の中が少し覗ける隙間がある。


「これは誰かが封印を解いたんだ!封印の紋を無造作に置いてあるなんて有り得ない。これでは封印の意味をなさない」

グラッドさんはそう言って怖い顔をしている。


「上からも少し隙間がある!中には人が居たようね」

私の言葉にハッとしてグラッドさんはこちらを見る。

「今から捉えるための檻ではないのか?」


「まず布製の敷物が見えるので魔獣を入れるものではなよね?そして中のクッションか枕を破いたようで、羽毛の羽が散乱しているのが見えるわ。という事は中に人が居たという事だと思うの」

私の言葉にグラッドさんも中を覗いた。


「確かに。床は布というかじゅうたんというか何かが敷かれていて、羽毛が散乱しているな……。でもこれでは、中に居た人は、私のように捕らえられた者か、犯罪者だったのか判断ができない」


「確かに。でも、どちらにしても紛れ込むなら、一等客室は無理よね。二等でもかなり無理があるから、三等客室じゃないかしら?」


「善人か悪人かわからない人が紛れ込んだ。しかも、1人なのか複数なのかそれすらわからない……。怪しい人物を探そうにも善人かもしれない。こちらに接触してくる人物を警戒しないと」

この船に乗ってから出会うのは不思議な人しかいないわ、と思ったけど、その事は言わない事にして頷いた。


「魔力がある人に見つかって正体がバレて捕まるんじゃないかしら?」


「本人が堂々としていればわからないんじゃないかとおもう」


私達は顔を見合わせて、ため息を吐くと箱から降りた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ