15日間の航海が始まる
久々の投稿となります。
遅くなってすいません
客室は思ったよりも広かった。
窓もあり、部屋は清潔感がある。
しかし、シングルのベッドが一つ。
だから乗船券が安かったんだ。
でも、ダブルベッドだったり、ベッドが二つある部屋だともっと高いはずから、あのチケット売り場のおじさんも、なんだかんだいって優しかったんだ。
お金がないけどチケットを売ってあげようと思ってくれたのね。
その時、ノックの音がして
「お荷物をお持ちしました」
と全員がトランクを運び込んだ。
びっくりしてグラッドの顔を見ると、私と同じように驚いている。
運び込まれたトランクの柄はファレル商会の会頭に頂いた鞄と同じ。
会頭はこの手持ちの鞄以外にも服を用意してくれたんだ!
きっと馬車の後ろに積んであり、私達が手荷物検査をしていた時に、御者が、船内持ち込み荷物として手続きを取ってくれたのだろう。
あの短時間でこの荷物まで用意してくれたなんて凄すぎる。
先ほどの手荷物検査の時は、私達の魔力検査と共に行われていたから何が入っているか私達も見ていなかった。
まさか服が別に用意されていたなんて!
確かに、ドレスが2枚や3枚じゃ全く足りないけど、こんなに沢山用意したとはびっくりして言葉にならない!
シワにならないうちにクローゼットに片付けないと。
「トランクを開けてみましょう?ドレスがシワになるといけないわ」
私はそう言って、トランクを開けた。
すると一番上にはメッセージカードが置かれているのを見つけた。
《宝探しをする時は自分の目の前だけではなく別の部屋も探した方が良い。そして自分が探求者だと思っていたら、小さな手の中で転がされている宝の可能性もある。探すのか探されるのか、さあどっち?》
不思議なメッセージカードが置いてある。
意味がわからずに何度も読み返した。
グラッドさんと共に、この謎かけを何度も読み返したけどわからなかった。
「ファレル商会の会頭って不思議な人だったな。私達の荷物を10分で用意したって言ってたけど、これは明らかに、わかっていて詰めた荷物だ」
グラッドさんの言う通り、なにもかも見越したような感じだ。
服は上等な生地の物ばかりだ。
しかも、ディナー用のドレスとタキシード以外にも、ナイトガウンに小さなバッグ。
それから、日傘に靴に至るまで、全て入っている。
下級貴族の荷物だと言われてもおかしくない。
ここまで全てそろっているなんて、急ごしらえで用意したとは思えない。
「もしかして先読みの力があったのかしら?」
「あったのかもしれないな。なんとも言えないところだよ」
グラッドさんはそう言いながらクローゼットに洋服をかけていく。
私もシワにならないように伸ばしながら洋服を一枚ずつ手に取る。
「今、こうやってドレスを見て気がついたんだけど、会頭は『妊婦のフリ』をしている事に気がついていたみたい。だって、どのドレスも妊婦服ではないのよ」
「先読みなのか、それとも演技を見抜いていたのか。不思議な人だな」
「そうね。不思議といえば、何故、今回は魔力検査の機械が反応しなかったのかしら?」
「多分、さっき大量に魔力を使ったから魔力量が減っていたんだと思う。馬車の扉を壊す時と、馬車を操りながら飛んでくる沢山の矢を刀で叩き落とす時と。魔力量が枯渇するほどには使っていないけど、かなり減っている自覚はある。攻撃が長引くと魔力枯渇を起こしていたとは思う」
グラッドさんは考え込むように言った。
敵から逃げられた事と、その時ファレル商会の側にいたので船に乗り遅れなかった事と、魔力検査に引っ掛からなかった事と。
幸運が重なったので今ここにいる。
色々な不安を押し殺してきたので、やっと安心した。
不安な気持ちは陸地に置いてきた。
船が動き出したのを確認してから、私は甲板に出た。
港から出てしまえばもう安心だ。
私は、周りの人と同じように、陸で手を振る人に向かって手を振りかえした。
周りは海で、港が遠い。
やっと奴らを振り切ったんだ!
二人並んで遠ざかる港を見た。
港では手を振っている人が小さく見える。
海岸線沿いの沢山の建物が遠ざかっていく。
それを見ながら司教様の言っていた言葉を思い出していた。
オースブリング国につくまでは、私もグラッドさんも髪色を戻すなと言っていたし、メガネも外すなと言っていた。
エドモンド王子から逃れたから私は安全だというわけではないのかしら?
あの時、もう少し詳しく理由を聞けば良かった。
すると、私が入国について心配していると勘違いしたグラッドさんが私の隣に座った。
「この船は、ウィバリーという港町に着く。バクストン国には魔力がある人はそれなりにいるから、入国は魔力検査はない。だから、今までのように、魔力がある事によって捕らえられる心配はない」
「そうなの?よかった」
私は安堵して笑う。
「ただ、やはり大国なだけあって、色々な人種がいるし、貧富の差も大きい。だから、今までのように、何も調べずに馬車に乗ったりするのは危険だ。道も気をつけないと。貧民街に迷い込まないように」
「じゃあ、今までのように古着の方が安全って事?」
「古着を着ていて、貧民街の人間だと思われると、レストランなど大半の店で入店拒否されるし、酷い目にあうこともしばしばある。それくらい、貧富の差が激しい。ファレル商会の会頭はそれを知っているから、下級貴族に見える服を入れてくれたんだよ」
「そこまで気を遣ってくれたのね」
そんな話をしながら一旦部屋に戻った。
今日は航海初日なので、カフェテリアでパーティーを行うらしい。
基本的には全員参加なので、私達も着替える。
「コニーはメイクをすると、上流階級の人間だってすぐにわかるね」
そう言われてハッとする。
どうしても、フルメイクをすると、以前と同じようなメイクになってしまう。
「二等客室なのに、上流階級っぽいのはおかしいわよね。今すぐ直すわ。ねえ、二等客室に乗るのは裕福な職業の人か、下級貴族籍の方々よね。私達は聞かれたら何て答える?」
「じゃあ、商会の息子という事にしておこう。鍛冶屋のおじさんに鋼を打つ事や、武器の事は習ったし、辺境伯のところで使うことも覚えた。だから私は騎士を辞めて結婚した商会の息子」
「わかったわ。では、私は男爵の娘で商会に嫁いだって事にするわ」
「コニーは平民に見えないからそれがいいよ」
そう言って笑いながら、お祭りで見た若い女性達の化粧を真似る。
本当のグラッドさんって、どんな身分や職業なんだろうか?
聞くタイミングを逃してしまったので未だにわからない。
私はグラッドさんと結婚しているのに、未だにオースブリング国での職業や生い立ちを聞いていない。
つい数日前まで私も話さなかったから、人の事は言えないけど、私達はお互いに謎の多い夫婦だ。
でも、グラッドさんは私を気遣ってくれるし、優しくて武力に長けているのは本当だ。
真実を知るのはまだ先でもいいのかもしれない。
私達は支度を整えるとカフェテリアに向かった。
船では、ディナーの時間は決まっており、それを逃すと食事にはありつけないので、食堂に向かう事にした。
カフェテリアに入ると既に沢山の人がいた。
色々な言葉が飛び交っており、さまざまな国の人が船に乗っている事を知る。
ピアノとバイオリンの演奏が流れる中で、パーティーが始まった。
「聞いたことのない言葉が沢山聞こえるわ」
「本当だな」
私達が食事をしようとしていると、高齢の夫婦が話しかけてきた。
『ねえ、あなた。シルバーウルフに似てるわね』
とグラッドさんがバクストン語で話しかけられる。
「何の事ですか?」
グラッドさんはバーリエル語で答える。
『バクストン語は話せないの?』
不思議そうに老夫婦は聞いてくる。
『少し』
とだけグラッドさんは答えた。
本当は話せるのに、わざとなんだ。
『そうなの?船が着くまでに少しでもバクストン語を話せるようにしといた方がいいわ』
老婦人は笑顔でそう言った。
そして食事を終えたようでいなくなった。
「今のは何だったのかしら?」
突然知らない人に話しかけられてびっくりしてしまった。
グラッドさんを狙う敵ではないよね?
話しかけてくる人に下心があるのではと勘繰ってしまう。
「さあわからない。でもここまでの経験から知らない人に話しかけられたら、言葉がわからないフリをした方がなにかと安全だときがついたから、それを貫くよ」
と言いながら、グラッドさんは様子がおかしかった。
パーティー会場ではダンスをするカップルも多く、ワルツ以外にも民族音楽を奏でていた。
でも私達はパーティーには参加せずに、食事を終えると甲板に向かう。
ここは薄暗いから、他の乗客は私達の顔があまりよく見えないし、ほとんどの人は、パーティーに参加しているから人も少ない。
星まつりの時に、広場でエドモンド王子の侍従に遭遇してしまい、その後、大変な目にあったので、人混みには行かない事にしている。
私達が使える甲板は複数あるが、今日はその中で一番広い甲板にきた。外の空気を感じられるのはいい。
甲板は小さな灯りがついているが、心もとない光だ。
でもそのか弱い灯りのお陰で星が綺麗に見える。
私達は甲板に並んで立った。
「すごく星が綺麗ね」
「ああ。星座が見える」
「バーリエル国の辺境伯領で見ていた星座と随分違うわ」
「私は、剣術の練習に忙しくて、あの時は星など見ている余裕がなかった」
あの頃は自由な時間が沢山あったので星を眺めて眠る日が沢山あった。
侯爵令嬢だった時は、星を見る余裕がなかった。
修道女になっても、王都にいる時は、窓の外は見なかった。
辺境伯領に移ってから、雪の日は、空から降る雪を眺め、晴れた日は星を眺め。
朝日が登るのを見たり、夕日が沈むのを見たりした。
残念なのは、緑が芽吹くのを見られなかった事だ。
そう思いながら空を見上げる。
航海士が目印にすると言うアルメイタ星をグラッドさんに教えてもらい、図鑑で見た星座を一つ一つ確かめていく。
「本当に遠くに来てしまったのね」
呟くように言ったら、私の右手をそっとにぎってくれた。
思わず、右横に立つグラッドさんを見る。
すると眉を下げて私を見ていた。
「私のために祖国を離れて心細いだろう。本当にありがとう」
そう言われて私は少し涙が出そうになった。
それを誤魔化すために、グラッドさんの左肩にもたれかかる。
しばらくそうやって海を見ている時だった。
私達よりも上の階にある一等客室専用の甲板が騒がしくなってきた。
一等客室専用のスペースは甲板に続くスペースではパーティーが行われているようで、ドアが開くとオーケストラの演奏が外まで聞こえてきた。
「まあ!星が瞬いて綺麗ですわ」
一等客室用の甲板から一人のご令嬢の声が聞こえた。リネハン語だ。
「アンジェリカ嬢より美しいものはありませんよ」
追いかけてきたであろう男性の声がした。
アンジェリカ嬢?
その名前を聞いて少し不安になり、そっと一等客室専用の甲板の方を見上げると、やはりリネハン公国のアンジェリカ王女だ!
まだ私達には気がついていない!
私とグラッドさんは目配せをして、物音を立てないように船内に戻った。
せめてもの救いは、一等客室と二等客室は共有スペースも別々だし、食堂もカフェテリアも全て別々だ。
だから、目立たないように過ごせばいい。
誰かに気がつかれないようにしなければ。
警戒しながら部屋に戻った。
間が開いてしまったせいで、結末がわからなくなって現在、着地点が迷子になってますが。
なんとか完結目指していきますので最後までお付き合いください!