Ep02-05-06
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読みは未来と似通っている場合がほとんどだが、どこまで精度を上げたとしてもそれが読みである以上、相手の次善の動き、可動域への警戒、上記のすべてがフェイントである可能性、なども考慮に入れなくてはならない。自分が無警戒になりそうな攻撃までも、自身で予測しておく必要すらある。それに対し、未来視は視た未来を変えようとしない限り、そのとおりにしかなりようがない。その分考える時間を省けるのだ。できた空きリソースで先に身体の準備を済ませておき、行動間隔の短縮化を図れ、というのが景虎の助言の要旨だった。
つまりこれは実質的にピクスアの判断力、機敏さといった戦闘センスそのものを、一足飛びに引き上げてしまうほどの効果が見込めるアドバイスだったのだ。
それを理解したらしい兄妹は、服従心の土台である恐怖の上に、感謝と尊敬という緩衝材を乗せ、ほくほく顔で帰って行った。
午後からの授業もつつがなく終わらせた芙実乃は、放課後を普段どおりルシエラと過ごしたのち、夕食後の話題にそのことを改めて持ち出してみた。
「兄妹に恨まれない、ちょっかいを出されないようにする、ってことなら、間違いなく大成功だったと思いますけど、ピクスアさん、これからものすごーく強くなっちゃうんですよね」
「そうだな。未来視を持っておる、と知れてなくば、相手の打つ手もまず噛み合わぬであろうし、初見の月一戦くらいは乗り切れる……か?」
景虎がクロムエルに目を向けた。
「わたしが手合わせしたことのある級友に限れば固いかと。一つだけ怖いのは、初戦の相手との再戦でしょうか。意識の差で飛躍的に強くなるのは、この場合に限ってなら彼もですから」
「あの者の次戦がそれになれば、相手が戦い方を変えぬことを期待するしかあるまいが、この先となるのであれば話は別だ。そなたの腕の見せどころと心得よ」
かしこまりました、の一言とともにクロムエルが頷いた。と言うのもあのあと、景虎の意向で、クロムエルがピクスアの稽古に出向くことになっていたからだ。
「ピクスアさんが勝つことって、景虎くんにとっても、そこまで重要になるんですか?」
「逆恨みされぬ程度に、でよいのだが、別に残りを全勝されてもかまわん。興味はない。が、そやつを行かせるのは、あの者らに近寄らせず、且つ、動向を把握しておくためにだ」
「ああ、つかず離れず。クロムエルさんだけを窓口に、こちらとは接点を断つんですね」
あの兄妹とは距離を置くように、とは、常々言われていたことだから、腑には落ちた。しかし、敵対関係がほぼ解消されたいまもってそれを続ける意味に何も思い至ってないと、芙実乃はふと気づいてしまった。無知のままでいるよりいいだろうと思い、それを訊ねてみる。
すると景虎は、一瞬だけ深刻な表情を見せると、芙実乃とルシエラを見つめた。
「二人はよく胸に刻んでおけ。あの兄妹に対しては、未来永劫気を許してはならぬ。そのために向こうの自業自得が祟り、そなたらの態度が硬化したことにしておいた。それを口実に猜疑心を顕わにし、極力会話を避けられるようにとな」
単に芙実乃たちを、距離を置くだしにしたわけではなかったらしい。芙実乃たちがやりやすくなるよう、利益を確保しておくみたいなことだったようだ。ルシエラが真剣な表情になる。未来永劫、とまで景虎に言われ、襟を正したのだ。
「あんな兄妹、景虎が簡単にやっつけちゃったじゃない。それなのに危ないの?」
「そうだ。いくら始末したところでこの世界では生き返らされてしまうからな。優劣では片がつかぬ。よいか。未来視の忌々しいところは、信頼し合えた未来が今後訪れるというだけで、それ前提で明かされた事実を、信頼し合えていない現在にも持ち込まれるところにある」
「――――!」
芙実乃は愕然となった。なんという最低最悪のスパイなのだろうか。芙実乃の目的が、この世界でどう評価されるかわからない以上、それが達成されたことすら、未来永劫秘密裏にしておかなければならないのだ。
信頼する気を失くしてもなお、うそ寒い気分にさせられる。この気持ちさえ覚えておけば、演技などしなくてもいつでも、あの兄妹に胡乱な眼差しを向けられそうだ。
「貴重な能力なんだろうし、味方になったら心強いのかな、なんて思っちゃってました」
「芙実乃は単純ね。わたしは兄どころか妹だって最初から信用してなかったわ」
ルシエラはおそらく女の子というだけで、ずっとあんな態度だったシュノアすら兄よりは高評価なのだろう。感情的なのは正直だとも言えるからいまなら芙実乃も同感ではあるのだが、つき合いにくさという点では、今後もシュノアは厄介であり続けるに違いない。
確かに、接触は極力避けるべきだった。その念押しのように、景虎が未来視に言及する。
「役立てたいと思うのも無理からぬことだが、それには、連中を閉じ込め出歩きを許さぬくらいしておかねば危うい。それをしないこの国が甘いのか、それとも、個人に制約をかける厳格さが徹底しておるのか。後者寄りと見るが、それはそれで、易き半面の難きがある」
「未来視を使えば裏切りし放題でしょうが、そこまでしなければいけないものなんですか?」
「然り。未来視から味方を守るためにも、味方から未来視を守るためにも、必須のはずだ」
「味方から未来視を――そっか、そんな能力を持つ人がいるなんて知ったら、誰も気が気じゃなくなっちゃう。保護する意味もあるんだ。わたしも大概考えなしでしたね。よほど平和ボケしてなければ、そんな人たちを味方にだなんて、誰も思うはずはないのに」
「さりとて敵方に回られ手出しできぬ、ではな」
タフィールが、迂闊な未来視使用を窘めていた理由がわかった。敵にも味方にもしたくない能力の持ち主なんて、景虎の言うような処遇にでもしなければ、存在すら許されなくなる。
「しかもあいつら、景虎との約束を破ってたんでしょ?」
ルシエラに頷きつつ芙実乃は思った。あれは些末なようで、本当に酷い裏切りだったのだ。呑まされた約束を、景虎は同程度の一文を突き返すだけに止めたが、ここが戦国の世であったなら、あの兄妹は普通に許されなかっただろう。個人の自由を慮る建前を遵守するこの国に、死んだ人を生き返らす医療まであるから、景虎も共存を探らざるを得なかっただけだ。
どうも、そのあたりも承知しているらしいクロムエルが、兄妹の論評に加わる。
「しかし、未来での思考や感情を持ち込まれない、ことに関してなら、警戒すべき点を洗い出せはしましたし、少しはマシと思えなくもありません。もしも、未来での好悪の念が持ち込まれてしまう事態なんて、どれだけ彼らのことを考えれば足りるのかと気が重くなります」
頷く景虎を見て、芙実乃は今後のことを訊ねてみた。
「でも景虎くん。アドバイスをしてあげたり、クロムエルさんを貸してあげたりして、閉じ込めておけないんだから本当は、あの兄妹との関係は良好にしておきたいんですよね? なのにわたしとルシエラは嫌う態度だけしてて、ほんとにいいんでしょうか?」
「そうだな。その場限りの話題だけを貫けるのであれば、避けるほどでもない。理想は、こちらの利することが、兄妹にとっても利なのだ、と知らぬ間に思わせている、くらいか」
「最後はそれなりにマスターに心酔した様子でしたし、時間の問題という気もしますが」
万事つつがなく手を打っているんだな、と感心しながら、芙実乃は頷く景虎を見つめた。
「当面は任せきりにする。わたしの名を威しにでも使い、その分そなたに依存させておけ」
「かしこまりました。ピクスア殿は真剣に鍛えて宜しいので?」
「ああ。興味がないと言いはしたが、十二徒とやらにならせていたほうが、来年度の争奪戦で煩わされぬのやもな。成し遂げよとまでは言わぬ。気負わず相手をしていてよい」
景虎に臣従するクロムエルに依存させられれば、実質、あの兄妹を配下の配下という立場に納めることができるわけだ。絶妙な置所であることくらい、芙実乃にだって理解できた。
「あれ、だとすると景虎くん。景虎くんのアドバイスで強くなっちゃってもまだまだずっと、ピクスアさんよりクロムエルさんのほうが強いって評価なんですか?」
「それは間違いなく、な。映像でもそれは瞭然だったが、それでもまだ、未来視の全容が知れぬから油断なきよう、月一戦には臨んだ。それがあの体たらくだ」
言外にわかるだろうという言葉が含まれている感じだが、クロムエルよりピクスアがどう弱いかは、説明されなければ芙実乃にはわからない。
「マスターとわたしが立場を入れ替えて力較べをしましたよね。結局のところ、未来視を使っても、ああいった要所要所での地力の差が出る局面までは覆せないのです」
「それなら、前戦の相手のほうが強いみたいなのに、勝ててたのはなんでなんでしょう?」
「あれは奇跡の大逆転とでも言われるべき勝ちですね。もっとも、未来視でいつでも起こせる奇跡にしていましたが……。ただあの時の対戦相手は、それもピクスア殿の地力と認め、それを凌駕しようと挑まれていたのでしょう」
「つまりそうならなければ、いつでも起こせる奇跡を起こさせないように戦える?」
「はい。攻撃しないだけでもいいし、渾身で――荷重をかけ過ぎない振りを心がけても、ピクスア殿は決め手を失い自滅するでしょう。マスターのような受け流しをする技術が、まず彼にはありませんから、剣を持つ握力を削る戦い方をすれば、一時限もかけずに潰せますよ」
「それで地力の差。そんな話を聞くと、十二徒になれるかのほうが心配になっちゃいますね」
「ええ。ですがはじめから守勢に、それも返しを狙うでもない相手というのも、そういるものではないですから、いつでも起こせる奇跡の使いどころは、早々訪れるものなのですよ」
「未来視を使う、と知らない相手になら、ですか? あれ、れ? なんで……だったらなんで彼らは、わたしたちに未来視を教えに来ちゃったんでしょうか? 元々の元々も、景虎くんは対戦条件なんて放置してたでしょうし、異能を禁じたりはしないはずですよね?」
その質問に、予想はついても確信が持てないらしきクロムエルが、景虎に視線を送った。
「想像でしか言えぬことだがな、兄妹は確かに異能使用を第一に考えてはいたが、恩を売ろうとした動機は、魔法使用を禁ずることにあったのではないかと思う」
「魔法使用……ですか? 異能使用を禁じられない、でなく」
「そうだ。どうも未来視のことを知らされずに月一戦に臨んだわたしは、魔法を多用するのやもしれぬ。そして、兄妹には芙実乃の雷属性操魔法に打つ手がなかったのであろう」
「はあ。でもあれって、そこそこには痛いでしょうけど、人を倒せる魔法じゃありませんよ」
「それでも、散々それで動きを奪い、刀で止めを刺しにゆく、となればどうだ?」
クロムエルが身体をかき抱くようにして、身震いする。
「そんな展開になると知っていたら、わたしなら不戦敗になってでも行きたくないですね」
「そんなにですか? でもなんで景虎くんは、そんな試合をしようなんて思うんです? 魔法使用の成績を上げたいとかじゃありませんよね?」
「ああ。かなり想像しにくい想像になるのだが、未来視の存在を知らないわたしが、ピクスアの初戦を見たとすると、未来視などとは見破れずに、音やら気配やらで物の動きを察知できる使い手と判断するのだろう。それで様子見の手段として魔法を使うといったところか」
「その光景を妹が視て、魔法使用不可の工作に。じゃあ、異能うんぬんはブラフだった?」
「可能性としてはあるが、魔法不可は、異能使用可を確定させた上での画策であろう」
「確かにそっちのほうが重要ですもんね。ただまだ、課金で魔法不可にはできましたよね?」
「それをしなかったことを前提に考えるしかないが、おそらく交渉前には未来視で試合結果を視ておき、魔法が使用されない試合展開になるのは知っていたのだ。ただし此度の決着風景は視れてない。妹の様子からするとな。その時視たのは脇差を投げられた場合、あたりか」
「それで血だらけがどうとか言って、魔法より力場を優先しようとした。ってことは、最初の接触のころと、交渉前のころとでは、視ていた試合結果が違って……る?」
「つまり、マスターが未来視を知っているいないで、出方が変わるのですね?」
クロムエルの言い方には、ルシエラ殺害の期間が取り除かれていた。兄妹が接触しないのなら関連はないはずだが、仮に事件を防げた意識で景虎との月一戦交渉に及べば、その態度に疑惑を持たれながらの試合になってしまう。景虎がその期間の説明をしなくて済むように、クロムエルは試合結果に限って答えられるよう、絞った質問に言い直したのだろう。
「然り。ただ、別の状況でのわたしの気分なぞ未知としか言えぬからな。相手がありとあらゆる強さを持つと思い魔法を使ったか、戦う価値なしと思い憂さ晴らしの捌け口にしたのやら」
景虎はお手上げとでも言いたげに右手のひらを上にした。ちょっとダンスに誘われてるみたいで、芙実乃は場違いな高揚を感じてしまう。隣のルシエラもなぜだかそんな顔だ。
そのあいだにも、景虎はクロムエルと検証を進めていた。
「十日を視るのに一日、期間の飛ばし視には難あり、が事実であれば月一戦まで視れたのは、接触前に一度で交渉前に二度が限度でしょう。やはりそれなりに行き当たりばったりで、マスターとの交渉に打って出ていたのでは? 経過の感情は泣き喚いた感覚で想像はついても、言葉がわからずほぼ同感もない。結果の全能力解禁も、マスターが試合で魔法を使ってこないのなら上々。力場展開なしも、交渉内容を知っている未来視の中の自分や兄が、これ以上の条件達成は見込めないとつぶやいていれば、未来視を繰り返さずに諦める。そんなところかと」
「これで粗方の整理はついたか。些細なことでこうも状況が変転するとはな」
「それなのですが、その、要因は主にマスターにあるのではと思うふしがあります」
「どういうことだ?」
「些細なことで動向が一変してしまうのがマスターだからです。機を見るに敏、とでも言いましょうか、微妙な状況の違いでまったく違う行動を取られるのかと。だから兄妹は右往左往していた。想定外の連続だったのでしょうね。大雑把な例ですが、月一戦がただの一振りで片がついてしまったのも、防ごうとする気配を相手が見せなかったから。でもマスターはもっと微妙に相手の剣の傾きが違うだけでも、上下左右に前後どう出るかを変えるでしょう。そういう状況になってはじめてわかる、とご自身で仰っていらしてではありませんか」
結局、景虎の状況に対処する速さと多彩さが、未来視を凌駕してしまったということだ。
「てことはじゃあ、兄妹は未来の景虎くんに翻弄されていて、だけど、その翻弄をされて支離滅裂になる彼らの行動を、景虎くんはきっちりと読み切ってあらゆる意味で叩きのめし、いまのかたちに納めてしまった。という感じでしょうか?」
「ええ。身も蓋もない言い方をすれば、勝率ゼロをやり直してもゼロにしかなりません」
勝率という言葉に、芙実乃はここしばらくの誤解を氷解させた。
「わたし未来視は勝率を、二分の一から二分の二にもしてしまうもの、って考えてました」
「芙実乃はおばかさんね。そんなの、七十五パーセントに決まってるじゃない」
「相変わらず妙なところで頭がいいんだから。でもそれだって、統計の考え方でしかないんだからね。わたしは、勝率と戦闘中の読みとじゃ別物なんだなって悟ったところなの」
「負け惜しみ言って。ねえ景虎、七十五パーセントで合ってるでしょ?」
「合っておるが、芙実乃はそれを、過ぎた数として扱うべきと悟ったのであろう」
「それは芙実乃を買い被り過ぎよ。蜂蜜の時みたいな抜けがあるのが芙実乃だわ。違うって言うんなら芙実乃が説明しなさい。景虎に言わせて、そのとおりだなんて許さないんだからね」
「はいはい。ルシエラが言ってるのは、半分勝って半分負けの負けだけをやり直してまた半分勝つから、の七十五パーセントだよね。だけどそう考えるってこと自体がもう、勝負を勝ちと負けの統計で見ちゃってるってことになるんだよ。本当は勝ちとか負けの過程ってものすごく複雑な要因が絡んでるのに、丁か半かみたいに……ううん、丁や半だって本当に計算したければ、手の中にある賽の角度や投げられた方向に力の量、回転の速さ、空気の流れと地面の摩擦なんかで割り出さなければならない。そういう要因を見ることが、景虎くんたちの言う読みであって、相手が何をどうこうする確率が何パーセントとかとは別物。未来視で負けを回避するたびに、統計上の勝率は上がって見えるけど、以後をその勝率で戦えるわけじゃない。何度やり直してもゼロが変わらないのと同じで、五十なら五十で変わらないんだよ。何点取られても勝てたり死ぬわけじゃないスポーツとかなら、確率で戦っても問題ないかもしれないけど、現在や未来の、こと戦闘において確率を持ち出すのは、見当違いなんだなって感じです」
話に計算も含めたからか、ルシエラも納得した様子だ。景虎も頷いてくれる。
「確かに、初撃の九割が袈裟懸けという相手と戦うのでも、初撃は九割方袈裟懸け、と決めつけて戦いはしない。そんな予断に身を委ねて命のやり取りに臨める者は、戦いと賭け事を一緒くたにしている、ということであろうな。相手を見れておれば攻撃などいかようにも見切れるのだから、酔狂と言うしかない。クロムエル、そなたはどう相手を見切っておる?」
「そうですね、割り切った図式にすれば、右か左か、どちらかしかない行動の天秤を一パーセントでも傾けるため、残る可能性の分備えるためにするのが、わたしにとっての読みかと」
「それを本当に百パーセント視えちゃうのが未来視なんですけど、取り返しのつかない行動をしているわけじゃない景虎くんに、百パーセントの未来視と微妙に違う行動を見せてしまったから、未来視の中で起こっていたはずのことが起こらなかった。だけど、相手が荷重やらで取り返しのつかない行動をしている最中なら、相手を未来視どおりの行動にさせたまま、いつでも起こせる奇跡を発動させることができる。これがピクスアさんの勝因ですか?」
「そういう感じです。実力なら勝率ゼロなところを、その瞬間だけ五割以上の勝率に跳ね上がらせてしまう、というのが、ピクスア殿の未来視を使い未来を変える戦い方、でした」
「逆に、景虎くんがピクスアさんに教えた戦い方というのは、ずっと続く、実力の部分を底上げしてしまう、五十を七十五にするようなものだった。で、いいでしょうか?」
「はい。マスターは、読みを未来視で代用した場合の、時間と頭の使い方をやりくりする方法論を組み立てて教授し、ピクスア殿を非常に負けにくい使い手へと変貌させました」
スポーツ選手の回顧録とかでよくある、一言で選手を劇的に変えてしまうコーチングみたいなことだったのだろう。未来視の正しい使い方を教授するというのは、構造的には、隠された才能の使い道を教えるのと同じ意味を持つのだから。
「ちなみに、ピクスアさんが以後負けなくなって良いことって、結局どんなですか?」
「未来視の厄介さはもう理解したであろう? 完全な味方となるまで近くには置けぬ、敵としてその出方をいちいち考えさせられるのも煩わしい、使われようによっては手の出しようもなくなると来られてはな。なれば、あの妹はあの兄に手綱を引かせておくが、最も差し障りがない。それまでのことだ」
厄介な能力なら、凡庸な人間に担わせ、弱毒化しておく。
聞いてしまえば確かに、それ以外の置き場はない、という妙手なのだった。




