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異世界軍学校の侍  作者: 伽夜輪奎
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Ep02-01-06


   6


 昼食休み。芙実乃と景虎は学食へと足を向け、ルシエラ、クロムエルと合流していた。

 といっても、この四人は誰も日に三食を摂る習慣がなく、登校日の昼食休みはもっぱらお茶やスイーツを楽しむ時間となっている。

 ただ、生徒全体で見ると一日二食で済ませる生徒のほうが少ないせいか、きっちり食事を摂りたい生徒たちで席はどこも埋め尽くされていた。

 芙実乃はこの人の多さにいつも気後れしきりで、景虎の服の裾を掴まなければ足を進められない。芙実乃がそんなだからなのか、クロムエルが最後尾、ルシエラが先頭できょろきょろと空席を探す、というのがここのところの昼食休みでの隊列だ。

「今日も混んでるわね」

 ルシエラが辟易した声でお決まりの科白を口にした。

 何せ、一学年だけで八一九二名の生徒がいる学校だ。点在している学食も一つや二つどころではないと聞いた。が、それだけの人数を同時に着席させられるほどの収容力はなく、早い者勝ちの論理がまかり通ってしまう。

 だが、クラスの違う四人で集まるとなると、芙実乃たちのクラスにやや寄っているここ一択になる。

 互いのクラスに集まると、話しかけられたり注目を浴びたりと落ち着かない。誰かの自室に戻るというのも、どちらかの二人がクラスの行き来よりも歩くはめになるし、それまでに費やされた時間も毎日全員でロスすることになる。また、先に到着している芙実乃と景虎で四人席を確保しようものなら、相席の申し出をいちいち断らなくてはならなくなる。

 それでいつも出遅れたように席を探すという悪循環に陥ってしまうのだ。

 もっとも、この昼食休みは一時間よりも気持ち長めだから、そう焦ることもない。

 ただ、この気持ち長めというのは、芙実乃独自の感覚なのだ。

 芙実乃に馴染んだ時間の単位は、当然地球に由来する一秒、一分、一時間と刻まれるもの。見聞きする警告文や会話は、この馴染んだ単位で計算までされて芙実乃には伝わる。しかし、これまた当然の運用としか言えないのだが、学校で決められる授業や行事のスケジュールは、すべてこちらの世界の時間単位に準拠したものになるのだ。

 この差異を芙実乃は常々感じていなくてはならず、この世界できりがいいとされる事柄に対し、長いとか短いとかを感じてしまう。景虎やルシエラたちにはない感覚なのだ。

 なぜなら、生きた世界すら違うであろう芙実乃を除く三人だが、機械仕掛けの時計がなかったという意味では一致している。朝昼晩で一日という感覚で生きてきた、ゆえに、まっさらな状態でこちらの時間単位に順応できた。

 そばで景虎を見ていた芙実乃からすれば、あっという間のことだった。

 その、景虎に流れだしたこの世界の時間単位の下から三つまでを、芙実乃は一時間一分一秒というような補正ができないでいた。公転軌道を起点に赤道上の一点が一周する時間を一日とし、一日三十六ロムグリ、一ロムグリ三十六ロムグ、一ロムグ三十六ロムと刻まれる。

 最初芙実乃は、最小単位のロムを秒と頭の中で置き換えてみようと試みたものの挫折した。ロムは、芙実乃の脳エミュレータの記憶走査で割り出された秒の約一・六倍の長さ。つまり、一ロムが約一・六秒になる。こういう比較を列挙するとこうだ。

 一ロムはだいたい一・六秒。それが三十六ロムになると一ロムグ。

 一ロムグは五十八秒足らず。それが三十六ロムグで、一ロムグリ。

 一ロムグリは三十四分少々。それが三十六ロムグリで一日となる。

 一日に限って言えば、地球の一日より約三時間半短い計算になる。が、睡眠時間が地球の半分、四時間ほどでもその三倍熟睡したくらいの気分で目覚められるため、活動時間がほぼ同じとなり、芙実乃も混乱なく一日という単位を受け入れられている。

 六日しかない一週間も、気にしなければなんてことはない。三十六日もある一月はさすがに長いような気もするが、一月の呼称を拒絶したくなるほどではない。むしろ十二月で一年だと言われれば、それ以外の区切りで考えるのが面倒になる。

 日数だと四百三十二日にもなるこちらでの一年だが、厳密に時間の長さとして地球と比較してみれば、その誤差は、地球時間の八日ほどこちらが長くなるだけなのだ。

 つまり、地球の十歳とこちらの十歳では、平均して八十日ほどこちらの十歳が年長なだけ。同学年内における、最長誤差の四分の一にも満たない計算になる。

 だから問題はこのロム、ロムグ、ロムグリという時間単位下からの三つだ。たとえば、二ロムグリある昼食休みを、景虎ら三人が過不足ない時間と感じる一方で、芙実乃は一時間よりも長いと感じ、なんなら二時間あるくらいの錯誤をふと引き起こしてたりする。

 それでなのか、ルシエラはどうも芙実乃のことを、変なところで慌てて変なところでのんびりした子供、として見ている向きがあった。元々のきっちりした時間感覚のせいで、こういう混乱があるとなかなか理解してくれないのだ。

 だからこの時も、平常の足取りで歩く芙実乃に、裾を掴まれている景虎と最後尾のクロムエルが歩調を合わせる、という隊列から、昼食休みの限られた時間内で動こうと気を急かすルシエラが、先行して離れかけてしまっていた。その時だ。

 ルシエラが男性に突き飛ばされ転倒する。

「ああっ!」

 声を上げた芙実乃の脇を、クロムエルが進み抜けてゆく。

「いや! 来ないで!」

 ルシエラのその言葉はクロムエルに対してなのか、それとも手を伸ばしかけていた突き飛ばし犯になのか芙実乃からでは定かでなかったが、結果その両者の動きを静止させた。だけに止まらず、声が届く範囲の歩行者及び食事中の者の手までを止めさせた。その耳目を集めた。

 そんな中で動きを止めなかったのが、芙実乃と景虎だ。

 芙実乃に限って言えば、ルシエラが転倒したのを見て声を上げた瞬間こそ硬直しかけたが、歩みを止めなかった景虎に掴まっていたためついて行けただけだったりする。だが、景虎に立たせてもらったルシエラの小刻みに震える様子に気づくと、自ら景虎の服の裾から手を離してルシエラを両手で抱き締めた。

 ルシエラは色々とトラウマを抱えた子だ。

 荒事に発展するようなら芙実乃とルシエラはこうしていたほうがいい。

 ルシエラもまた、そうすることで精神の安定を図るかのように芙実乃を抱き止めた。身長差のせいで逆に芙実乃が甘えているような格好に見えるだろうが、まあ、気にすまい。

 景虎とクロムエルが目配せをし合い、クロムエルが喋りだした。

「わたしのパートナーが何か?」

 芙実乃に、ぴくりと震えたルシエラの怒りが伝わって来る。しかし、公的な関係性が確立されているクロムエルが口火を切るのが妥当、と景虎も判断したのだろう。余計な口出しをしないように、芙実乃はルシエラの胴に回している腕をぎゅっと締める。

 ルシエラから動きだそうとする気配が消えてゆく。

 突き飛ばし犯の男性は、クロムエルに詰問されて困惑気味だ。

 ルシエラを助け起こそうとするそぶりも見られたし、単なる事故だった可能性が芙実乃の頭をよぎる。だとしたら、こんなふうに非難の目が自分に集まるなんて思いもしなかった、なんて顔にも頷ける。芙実乃は男性から人の好さそうな気配を感じだしていた。

 そこに、動きを再開した一名が騒動の渦中に身を投じて来た。

「待って。お兄様はそこの子が後ろの子たちにぶつからないように動いただけよ」

 少女だ。年のころは十六、七。口ぶりからすると突き飛ばし犯の妹らしいが、こちらの少女の口調は、人が好いというより自己の正当性を疑おうともしない、お嬢様然とした押しつけがましさが感じられた。肉親を主張するだけあって、二人ともほぼほぼ同じ赤紫の髪色だ。

 それに景虎が応対する。品が良く優しい、とても感じのいい口調で、だ。が――。

「なればまずはそこな二人の娘に礼でも求めるがよい。それまで詫びは待つよう、連れに言い含めるとしよう。遠慮されず気の済むまで致すといい」

 そこには、容赦のない何かが含まれていた。

 美神の愛し子とまで称される景虎の優しげな微笑み。

 兄妹、らしき二人は凍りついた表情で見つめ合ってから、戸惑いつつ後ろを振り返った。視線の先にいるのは、器をトレーに載せた二人組の少女たちだ。

 とばっちりもいいところだったろう。少女たちは一瞬で涙ぐんでいた。

 また妹のほうも、そこで感謝の言葉を求めるほどには非常識なお嬢様ではなかったらしく、何かを口にしかけてはやめるという、口をぱくぱくさせた状態を繰り返していた。

「ぐすっ。わたしたち、何も関係ないのに……」

 とうとう、二人組の少女たちが涙ぐむという域を超えて泣きだしてしまった。

 彼女たちにとってこの状況は、事故の被害者と加害者がいる現場で、加害者に加害の原因だと名指しされ、被害者の前で加害者に感謝するよう求められているも同然に違いない。しかも被害者側の保護者として景虎のような憧れの人が目の前に現れては、仮に兄妹に感謝する気持ちがあったとしても、絶対にそんな表明はしたくならないはずだ。

「そなたらも無体を強いられたな。因果がそなたらにあったとは思わぬが、そこの者らとの行き掛かり上、巻き込むかたちとなった。こちらは詫びを求めておらぬ。泣かずともよい」

 景虎が少女たちに与えたその免罪の効果は絶大だった。

 彼女たちは阿鼻叫喚と言いたくなるくらいの勢いで泣きじゃくり、空間に固定されているはずもないオブジェクト製トレーを床に落とした。床に麺とスープが散らばり、高温であることを証明するかのようにもくもくっと白い湯気を立てる。

 それを見て芙実乃は、まずいことになるかもしれないと思った。

 事故が起きてから倒れているルシエラを見た周囲はたぶん気づいてないが、状況はきっと、あの妹が弁明したとおりなのだ。ルシエラは席を探そうときょろきょろしながら進んでいた。おそらくそのまま突き進んでいたなら、兄妹に隠されて見えてなかったと思われるあの少女たちにぶつかっていた。

 そうなれば、あの凶悪なまでに湯気を立てる麺やスープが、飛び出したルシエラに、あるいは少女たちに、最悪ならその三者に兄妹を含めた五人全員にかかっていたことになる。

 もちろん、火傷などこちらに迎えられた異世界人なら、翌日には跡形もなく消える程度の傷でしかない。しかし、熱さとか痛さは相応に感じなければならないわけだし、そこそこの惨事であろうことも否めなかったりする。少なくとも、ルシエラだけが尻もちをついた現在よりもきっと、ルシエラにとってもまずいことになっていたはずだ。

 だからつまり、あの兄はルシエラを助けてもくれていたのだろう。

 なのに、状況は一方的に景虎の味方をしている、雰囲気を醸していた。

 おそらく、泣きじゃくる少女たちが主な原因だ。彼女たちはたぶんだが百パーセント、景虎に手を差し伸べられたような安堵感でもって泣いている。

 だが、周囲は必ずしもそれだけとは見ない。半分は兄妹に責任を擦りつけられ、自白と感謝を求められて泣いているように見えている。いまはまだ、周囲は気まずげに沈黙を保っているだけだが、兄妹へのヤジでも飛ぶようになったら、目も当てられない。さらには、何かの拍子でその矛先がルシエラに向いたりしたなら……。

 妹が芙実乃を――こちらにいるルシエラを恨みがましい目で睨みつけていた。

 共感とまではいかないが、理解できなくもない態度だ。しかし、芙実乃にはこの妹こそが、事態をややこしくしたように思えてならない。

 だって、どういう意図であったにせよ、彼女の兄がルシエラを突き飛ばした、という状況があの場に生じてしまったのだから、まずはそれの収拾にだけ努めるべきだったのだ。

 もし彼女が先に謝っていたなら。もしくは、彼女がしゃしゃり出て来てなければ、あの兄が先に謝ってくれていたように思う。

 事態がそういうふうに推移していったなら、景虎も謝罪を受け入れ、ルシエラの不注意に触れて手打ちにする、くらいの問題だったはずだ。そこをあの妹が迂闊な弁明などをして、その真偽を確かめようだなんて方向へと、景虎に舳先を向けさせてしまった。

 先の読めない妹がいたものだ。

 そんな妹を庇ったり諌めたりしたげな兄の様子に、芙実乃は同情した。だが、兄妹でこしょこしょやり取りしているうちに、妹が芙実乃の懸念した熱々の麺とスープに気づいてしまったらしく、それとルシエラを交互に指差し、抗議を再開しだした。

「お兄様が放っておけば、その子もあの子たちも火傷を負っていたところなの。非難される謂れはないわ」

 景虎が、ルシエラ、床、泣く少女たちの順で視線を流した。

「なればそなたの兄に問おう。なにゆえルシエラを止めようと思った。そなたらの横をその娘らが抜けようとしていたのなら、そちらに声をかけるなり腕を伸ばして遮るなりするほうが、ルシエラの前に飛び出るよりも事故にはならぬであろう」

 そのとおりだった。ルシエラの過失責任がどうなるかとはらはらしていた芙実乃は、蒙が啓かれたような気分になる。そして、景虎の問いに急所を突かれたかのように息を呑んだ兄妹を見て、疑念を募らせてゆく。確かにあの兄は、ルシエラと少女たちが衝突する直前の状況で、ぶつかるのを見計らったように、ルシエラの前に飛び出した。

 それは、ルシエラを突き飛ばす選択をしたということに他ならない。

 芙実乃は、役には立たないと理解しつつも、ルシエラを抱く手に力を込めた。唐突に向けられたこの悪意らしきものに、一緒に対峙する意志が芙実乃にそうさせた。

 それにしても、景虎はさすがの慧眼だ。

 妹の様子はもはや絶句というより沈黙の魔法にかけられた魔法使いのようで、さらには混乱の魔法にまでかかったかのように、落ち着きまでをも失いだした。

 妹を庇うように、兄が一歩進み出る。

 二十歳くらいの青年で、身長は一八〇センチ前後。クロムエルより太く見えるが、それは彼より身長が足りないせいで、実際は細身の部類に入るのかもしれない。帯剣している。わざとこんな事故を起こす人物なのに、それが許されているのだろうか。帯剣は言動が挑発的なだけでも、わりと許可が下りない。

 熟考しながら、のように慎重に兄は言葉を紡いだ。

「そうだね。うん。済まない。もちろんはじめから悪いことをしたと思っていた。謝るつもりだった。だけど妹は僕が謝ると僕が悪者になると思ってしまったみたいだ。それで口を出してしまった。世間を知る機会を奪われて育った妹でね。許してやってほしい」

 そう言って兄は深々と頭を下げた。それに倣わなかった妹だが、何やら自責の念に駆られたような苦い顔を見せる。芙実乃は思った。少なくとも、この兄が喋った内容に嘘はない。

「問いの答えにはなっておらぬな」

 景虎は相も変わらず温かみのある口調で返していたが、内容だけを精査してみると、どこか真水のような冷ややかさで組み上げた言葉にも感じられた。無条件で謝罪するだけではすでに済まなくなっていると悟ったのか、兄が理路整然とした釈明をはじめる。

「正確に言えば、僕らは彼女たちの横を歩いていたわけでなく、立ち止まっていた僕らの後ろを通るのに気づいていただけだ。それで僕らの目隠しのせいで三者がぶつかると思ったら、止めようという意識が働いた。君の連れの前に出たのは彼女が見えていたから、というより柿崎景虎――最初から君を見ていたからだ。振り向いて後ろの彼女たちに声をかけるとかの発想はなかった。それと、僕のやりようが全面的に悪かったと認めた上で、一応の経緯を話させてもらえるなら、突き飛ばした、いや突き飛ばそうとしたのは君の連れのほうになる。彼女は目の前に僕がいるのに気づいた瞬間全力で両腕を突き出しにきた。それは体格差がこれだけある僕の体幹を狂わせかけるほどのもので、僕は咄嗟に体勢を崩されまいと身体を締めてしまった。その反動で彼女はひっくり返ったんだ。いや、これを彼女の加害行為だと言いたくて言ったわけじゃない。だがこちらが故意に突き飛ばしたとだけは取らないでもらえないだろうか」

 一応、ルシエラを転倒させる犯意だけは否定されているように思う。

 それに、ルシエラらしいと言わざるを得ない顛末とも言える。

 ルシエラには、好きとは欠片も感じないという理由だけで、憎悪にも似た行動に振り切れる瞬間がある。どうやら善悪と美醜を同一のものと捉えているらしく、女生徒や女教師を無防備に信用する一方で、男性を総じて悪と断じている。多少の例外があるとすれば、とびきり美しい景虎が絶対とか、女性的な美に通じる顔立ちの男子なら無視していられるとかだ。

 兄は美少女である妹と面差しは似ているが男性的。人の好さそうな表情をしているものの、ルシエラはそういう部分を見ない。見る間もなかったろう。

 景虎もどうしたものかという顔でクロムエルを見ていた。

 そういえば、ルシエラが引き起こすトラブルの後始末は、クロムエルがしているのだろうと芙実乃も思ったことがある。仮にそういう場面の目撃者がこの食堂に紛れていたら、心象を傾かす一役を買ってしまうかもしれない。

 芙実乃としては、ルシエラの旗色が悪くなるのが気懸かりでならなかった。

 そこで兄が動いた。幕引きを図るように、その場できちんとルシエラに向き直り、頭を下げたのだ。平均して十七歳前後で構成される生徒たちの中でその態度は実に大人然としていて、周囲の皆の緊張が解けてゆく徴候を、芙実乃はその高い共感力で察知していた。

「転ばせて済まなかったね。担任を通して抗議してくれてかまわない。僕が受け止められていたら良かったんだけど……」

 だが、その文言にルシエラは激昂した。

「どうしてわたしがあんたに抱き止められなきゃならないのっ!」

 弛緩しかけていた周囲を、怒声がしんとした空気に戻す。

 まずい。兄の態度が良かっただけに、この緊張が緩み静寂が保たれなくなれば、ルシエラへの不快感をつぶやく者も現れかねない。

 芙実乃はなけなしの勇気をかき集め、ルシエラをフォローすべく言葉を継ぎ足した。

「いくら危なっかしく見えたからって、男の人が知らない女の子に抱きついてもいいみたいに思ってるんだったら、女子はみんな一人でなんか歩けなくなっちゃいますよ」

 そして女子たちの共感を?ぎ取った。

 危うく、景虎の味方としてルシエラに与していた女子票が、浮動票化するところだった。言葉選びには成功したようだ。だが芙実乃は、その票田を得るために確実に一人を敵に回した。

 妹が今度はルシエラではなく、芙実乃を睨みつけてくる。

 その瞬間、脳裏に閃くものを見つけた芙実乃は、さらなる一石を気づけば投じてしまっていた。

「お二人は景虎くんを見てたって言ってましたが、授業がはじまる前もうちのクラスにまで来て、見てましたよね、景虎くんを」

 それは極寒の地で窓ガラスを砕いたかのように、凍てつく風を吹き込ませるのだった。

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