Ep01-03-06
6
クロムエル・テベナールは騎士の家系に生まれた。
高貴だったわけではないが、実直な父の恵まれた人脈のおかげで、幾人もの優れた騎士たちから手ほどきを受けることができた。彼は熱心に励み、身体の成長が早かったこともあって、将来を嘱望されていた。それが病に罹ると半年も持たずあっけなく死んだ。
それでかもしれないが、二度目の生を受け入れるのにも抵抗はなかった。いきなり病身から健康体になっていたのだ。手放しで喜ぶほどではなかったが、切り替えることはできた。先に迎えられていた六割ほどのクラスメイトたちと軽い手合わせができたのも大きい。十分以上にやっていける技量があると確認できた。
その認識が変わったのは一月後。担任から、面談中のルシエラの帰路付近で揉め事があり、迂回はさせるが、飛び火しないよう動いてくれと要請が来た。
ルシエラはクロムエルが近寄るのを嫌う。クロムエルは揉め事のほうを遠目で眺めることにし、そこでバダバダルを見た。規格外の怪物だった。徒手だったが、彼が振り回すであろう武器は、受けることも流すことも無理だと悟らざるを得ないほどだ。しかし、クロムエルの修めた剣術は、鎧の装着が想定されたもの。防御は回避よりも軽減が主体だ。
史上最強が集まるこの世界において、自分は最強ではない。
故郷ではなかった現実が、彼の生来の謙虚さを実のあるものとし、向上心を芽生えさせた。彼はそういう心中でセレモニーを観戦した。登壇した両者を今期最強の両翼だと信じた。
主催者側の思惑はともかく、クロムエルの先入観は事実でしかなかった。
その勝者である柿崎景虎。あのバダバダルさえ赤子のようにあしらってみせた、最強の中の最強である不世出の剣士との戦いを前に、クロムエルは静かに闘志を燃やす。力の限りを尽くして戦える機会など、幼少期にしかなかったことだ。勝利を確信せずに戦うのも久々。
だが、勝利を諦めているつもりはなかった。
闇の中で光を探す、という心境。景虎の技量を心から尊敬しているし、苛烈な部分に畏れはあるが、普段はそれを秘める在り方には、それこそ畏敬の念を覚える。こちらの世界で会った誰よりも惹かれる存在だ。ただ、それで遠慮することはない。失望だけはされたくない。
真剣勝負を求める気持ちが共鳴しているような連帯感を裏切りたくなかった。
試合がはじまる。景虎はセレモニーで見せた微加速の歩法で来る。止まればタイミングが計れるが、接触のスピードを景虎に委ねることにもなる。クロムエルは景虎の勝手を狂わすつもりで、進行に無駄を作る。減速の効果を減じさせるため、接触を遅らせるほどはやらない。
初撃は横薙ぎと決めていた。上段斬りと比して、威力にも速さにも欠けるが、回避しにくく受けざるを得ない。また、牽制にも優れて、相手が足を止めることもありうるのだ。邪魔されないうちに、前面に下げていた腕を左後方に引くべく備える。残り一歩で間合いとなる。
足を止める。直前から剣を引く動作にも入っている。
が、予想外の展開。景虎が抜いた。
なぜか投擲を意識したが一瞬で霧散した。届かない間合いで空振りとなる。
計らずも、バダバダル戦とは逆に、こちらの急停止で攻撃を回避することになった。しかしクロムエルにはそれを幸運と思う間も与えられなかった。
意味不明の切り返しと急加速で、景虎が縦に斬りかかって来る。柄の頭で握られた刀は、下手をするとこちらよりも長い間合いを誇るかもしれない。
しかもなんの詐術か刃が上を向いていた。
クロムエルは考える。おそらく鞘から抜いて斬り上げていたさなか、景虎は一度刀を手放したのだ。だから持ち手の場所が根元から頭になった。その時に振り下ろしに備えた腕の捻りにもして、余裕を持って切返しを完了させていたのだろう。
だからこそ想定より早い攻撃になった。投擲の気配とも合致する。
クロムエルは牽制のつもりだった横薙ぎを敢行し、攻撃を払いにいく。
高さの調整に膝まで使った最短の斬撃だが、刀の腹は叩けなかった。峯に直角に当たるよう、手首を捻られる。衝突。強引に振り抜こうとする。相手を遠ざけたかった。その目論見は成功しかけたが、さらなる衝撃で腕を落とされ理解する。そのための峯打ち。この攻防はこちらの横薙ぎを見越して、用意周到に練られたものだった。
追撃を仕掛けてくる景虎。
元から真っ直ぐでない刀が、手遊びのような動きで、うねうねと硬さをなくしたように見える。視線は常に合わされ、よそ見しない。なのに見られていないようにも感じる。こちらの視線を把握しながら、全身を俯瞰するような意識でいるのだろう。
だから、と言うべきか、逆に、と言うべきか、景虎は視線や切っ先から狙いを読ませてくれない。身体の使い方もまた流れるようで、動き出しの兆候が見えにくい。想定内の応酬が続くうちはいいが、別の動きにされたらもう手遅れ、という怖さがある。
想定外のすべてに備えておく必要がある。無理だ。
クロムエルは痺れている最中の腕を無理矢理振るう。精緻な攻撃はできなくても、全力攻勢になら出れなくもない。幸か不幸か、景虎は安全マージンを残すような余裕ある動きしかしない。クロムエルの速度が上回っていると見ると、攻撃から回避に移行した。
なのに足は止められない。詰められる。
空振る。まずいまずいまずい。
窮屈に感じる間合いは、景虎の得意とするところなのだろう。落ち着いた距離で仕切り直すためにも、接近はさせたくない。全力攻勢を続けつつ後退する。しかし、なんという攻防だ。ほとんど歩いているだけの相手に、自分だけ全力で攻撃を仕掛け、消耗も著しい。移動速度という観点で見ると、攻撃しながらの後退は、単なる歩行と拮抗しているのかもしれない。
進みながら攻撃を避けるなんて、クロムエルにとって論外だったが、そっちが正しいのかと思わせるほど景虎は余裕だ。避ける前には刀で流せる態勢まで整えられている。
目の動きと剣を引く肘の立ち方で、振る前から軌道が読めているのだ。絶好調時に格下相手なら、クロムエルもその域に踏み込みかけたことがある。つまり実力差はそれ以上。逃げの主導権がこちらにあるから、壁に追い込まれずに済んでいるが、それもいつまで持つか。
腕の痺れが引き、クロムエルは開き直ることにした。身体に馴染んだ連続攻撃を繰り出すことに集中する。避けられるのは変わらないが、手数が増えた分、剣が景虎の近くを通るようになる。後退しながらの連続攻撃など初めてだが、迷わず続けるしかない。
その念願が叶ったのか、ついに斬撃が刀身を捉えた。火花が散る。
景虎も足を止めて受け流す模様だ。が、クロムエルが最速で次撃に繋げようと振り抜こうとするなり、身体のバランスを崩された。
咄嗟にできたのは、真後ろに跳び退くだけ。
その際、刀の峯の残像が脳裏に焼きついた意味を考える。峯側で受けられた。峯側の反りが、身体が外に流れた要因。ただ、外回りで剣を振り戻そうとしていたところなのに、この事態になったということは、切っ先が想定より上に来ていたことになるはず。
つまり景虎は、クロムエルの斬撃を高い位置で外側に逸らすべく、受け流しながら刀を前にずらしていた。さらに、柄の根元を持つ右手を進めつつ柄頭の左手を止める、ということと身体の捻りを同調させ、瞬間一点に人の身体を弾くほどの力を生み出してみせたわけだ。
なんという技量。
相手の力の流れさえも見極めて己がものとする。クロムエルは、これこそが受け流しの極致かと感動すら覚えた。何せ、それだけで姿勢を保てなくされるのだ。
もう迂闊に攻撃できない。散らした攻撃の中に、避けられない本気の一撃を潜ませるしかない。そういう組み立ての算段がつくまでは、一旦距離を取り防御に徹するべきだろう。
ただ、これ以上退くと、背後に壁を背負う。逃げの選択肢を狭めることになる。
刀の切っ先が浮いた。刃はこちらに向いている。まずはこの一撃を捌かなければ、つぎも何もない。クロムエルは背後にぎりぎりの余裕を確保し、防御を固める。
最も基本の構え。正面以外から攻撃されれば、そのどれもが不意打ちになるが、一騎打ちでなら鉄壁だ。防御を重視した剣技が隆盛を誇った世界の神髄。バダバダルのような規格外の筋力や速度がなければ、こちらを消耗させることすら至難だろう。
だが、景虎は届く距離でも刀を振らない。さらなる一歩を踏む。
肘。心臓を目指すそれが、攻撃の主体だと判断するしかなくなってくる。刀身が背中に隠れるほど戻されていたからだ。肘を前に出した弊害。あんな位置からでは大振り過ぎて見え見えになってしまう。しかし心臓か。鎧を着用してない以上、受け止めるわけにはいかない。下手すれば昏倒するし、確実に身体の硬直は起こる。致命的。
だが、得物の攻撃を払うように、突進を払えるものだろうか。景虎は細身だが、突進の重さならバダバダルの大剣に引けを取らないだろう。不意をつかれている時点で、進行を剣で塞ぐのにも手遅れの感がある。心臓を守るべく構えをずらすことも可能だが、それでは大振りするスペースを空けてやるも同義だ。肘か大振りの二つを可能性として残しているなら、それらを同時に止めさせなければこの場はしのげない。クロムエルは肘を出す景虎の右腕と自身の左腕を衝突させることで、双方の阻止を同時に成立させようとタイミングを合わせに行く。
が、意識外から景虎の左手が伸びて来て、クロムエルの右手首を掴み、押し除けた。
押す力に抗しきれない予兆。
筋力でなく、腕の出し方の問題だ。正面に構えて剣の重さに耐えているクロムエルの腕と、身体を支えに突き出す景虎の腕。それを馬鹿正直に横方向で力較べして、勝負になるはずがない。体格の優位性は崩壊している。そもそも、わずかな時間の浪費すら許されない局面だ。
クロムエルは剣から右手を離し、左での片手持ちの自由を確保した。
しかし、クロムエルはすでに時を逸したことを悟る。景虎の刀はもう止めようもないところまで通過していた。大振りの準備と思われた右手は、実際には無駄のない最短の斬撃だった。勘違いをしていた。攻撃に備えれば備えるほど、見たくなるのは光を湛えてゆらめく切っ先だが、危険なのは何もそこばかりではない。間合いの最大値がそこだというだけ。
今回のこの場合。最小値を想定するならば、注視すべきは刀の根元。根元ならば、身体に接した領域でさえ自在に動かせる。小さな円の軌道を描ける。最短の振りで急所に斬りつけられる。景虎は、徒手空拳よりも至近の距離でさえ、相手に致命傷を与えうるのだ。
力や速度に拠る衝撃を応酬するのが、クロムエルの世界の剣だった。それに対し、景虎の斬撃は得物の鋭利さや動かし方で切断力を生じさせている。自身の剣を最大限鋭利にしてみたところで、そういう哲学の剣技との差を埋められていたはずがない。実際に首を切る場面まで見ていたのに、刀の根元から切りはじめる軌道を、読みの中に意識し続けられなかった。
剣を内側に引けば、景虎の左腕に触れるくらいのことはできようが、鋭利さを使いこなせていないクロムエルでは、袖の繊維をほつれさせることも難しい。仮にそんな斬撃を修めていたとしても、真っ当に振る景虎の斬撃とでは、速度でも負けるだろう。構えの内側にある左手にクロムエルの剣が届く前に、景虎の刀がクロムエルの首に達するはずだ。
完全に詰んでいる。だが、クロムエルに後悔はなかった。あるのは、智恵も手も尽くしたという充足感だけだ。それにもう時を待つ必要すらない。頚脈に刃が触れる。その時。
勝者・クロムエル・テベナール。
眼前に幻でない文字が止まっている。理解不能。文字の意味は理解するが、理解不能だ。流れる時間の中で、クロムエルも景虎も止まっていた。先に口を開いたのは景虎だった。
「ふむ。決まりにでも背いたのであろうか」
「まさか! そんな設定はしていません。魔法を使わないと口にされてましたが、使っても違反にならない取り決めでもありました。この試合に反則負けはありえません」
喋りながら、クロムエルは自分が不正を行ったかのような気分に陥っていった。彼はまだ混乱から立ち直れていない。しかし、景虎はすでに事のあらましが読めているようだった。
「どうやら、こちらが棄権したということのようだ」
景虎が走らせた視線の先をクロムエルも見上げるが、人影はなかった。景虎側のパートナーがいるはずの窓。クロムエルも察する。景虎が掴んだ手を放し、離れて言った。
「芙実乃が殺生を厭うたのであろう。そなたは首を落とされずに済んだと喜ぶがよい」
その言葉にクロムエルは頷くだけの返事を返す。首の皮が裂けているものの、血が滲んですら来ない。防御力場が展開されて以降、刃が押し込まれるような感触もなかった。理由を問いたい気持ちは残る。が、それを口にすべきではないこともわかる。
芙実乃という少女の行為を無為にしてしまう。
主な気遣いの対象はルシエラや景虎だろうが、恩恵を受けたのはクロムエルだ。本来それをすべきパートナーはルシエラなのだが、クロムエルに失望はない。ルシエラの事情は知っていたし、拒絶されるのも受け入れていた。愛されたいとも思っていない。
唯一の同郷人だが、初対面からこれだけ拒絶されれば、そんな甘やかな感情は生まれようはずもない。同郷人として、精神的外傷をどうにかしてやりたいのと、心身の無事を守ってやりたいのに偽りはないが、それは愛情からではなく自身に課した責務のようなものだった。
芙実乃が下りて来る。遠目に見える彼女の衣服は、道なき森を抜けてきたような乱れが見られた。脇目も振らず駆けて来たのだろう。景虎は刀を鞘に納め、泣きじゃくる彼女のほうへ歩いて行った。クロムエルは立ち尽くしているしかなかった。
景虎は罪悪を並び立てる芙実乃の頭に手を置く。
「芙実乃。ここの者が決める勝ち負けに、喜び悲しむ値打ちをわたしは認めぬ。そなたが殺生を見たくないのなら、好きに止めてよい」
景虎はぐずる芙実乃を宥め泣き止ませると、試合場を出てしまうつもりのようだ。
クロムエルは慌てて二人を追い越し、その眼下に跪く。クロムエルを見下ろした景虎が、発言を促すかのように相槌と逆の動きをした。
クロムエルは景虎を仰ぎ見ると、ここ一月、言いあぐねていた願望を口にする。
「貴方に忠誠を捧げさせてください。叶うなら、貴方からの導きを賜りたい所存です」
景虎に師事したいとは、バダバダル戦を見てからずっと思っていたことだ。
景虎の戦いは真似できる類のものではないが、その一端に触れられれば、どういう狙いをどういう形にしているのか見えることもある。あとはそれを、どう自己流に実現させるか、だ。が、何も、クロムエルは景虎に剣技の助言をさせたくて忠誠を捧げる気になったのではない。導きを賜りたいと言った真意は、この場で生き方に感銘を受けたのが大きい。
パートナーの心を肯定し、実状に合わない敗北をも享受してみせてなお気高く在る姿に、クロムエルは騎士の理想を見た。
景虎が刀を抜き、クロムエルの肩に乗せる。クロムエルの請願を受けてのことだ。彼は景虎とは反対に剣を鞘に収め、腰から外したそれを両手で捧げ。
誓った。
「この日この時よりいかなる場合も、わたしは貴方の敵の敵として在りましょう」
「重畳。然らばここな芙実乃は我が庇護の下にあると心せよ。また稽古の相手と致すゆえ、そばに侍ることを許す。意に添えぬ用向きがある時は言え。無断での反故は不忠と見做そう」
「御心のままに。わたしはマスターの指示を常に第一とし、日々を過ごしましょう」
景虎は頷き、芙実乃の手を引いて試合場を去った。
普段はずっと景虎の服の裾を掴んでいるあの少女も、今日ばかりは自ら手を伸ばせなかったのだろう。景虎に手を引かれ、しゃくりあげながら連れられて行った。
背後の気配にクロムエルが振り向くと、ルシエラが心配そうに二人を見送っていた。クロムエルは意を決して、ルシエラに近寄った。ルシエラは逃げなかった。クロムエルが膝を折る。
「この度、柿崎景虎様に仕える仕儀と相成り、控えていた帯剣は、貴女への配慮を優先できなくなります。その上で厚かましく頼み事を口にするのをお許しくださいますか?」
ルシエラは比較的冷静に「何?」とだけ先を促した。クロムエルは続ける。
「不相応な勝利を返上すべく、担任に申し出ようと思うのですが、同行願えませんか?」
ルシエラは承諾した。景虎の勝利だけでなく、芙実乃の復調も願っているのだろう。
ルシエラの美徳が失われてないことに、クロムエルは安堵を覚えた。これまでクロムエルの存在は、ルシエラを歪めてばかりだった。クロムエルはルシエラを、世界に一人きりの肉親のつもりで見守ろう、と胸の中で改めて自身に課した。優先順位こそ替わってしまったが、景虎が芙実乃を庇護するように、自分もルシエラを庇護しよう、と。
「この世界で、貴女が貴女の幸せを見つけるまで、わたしはできうる限りにおいて、貴女の安全に配慮するつもりです。帯剣したわたしが近くを歩いても、恐れずにいられますか?」
「それはつまりあれね。アンタは景虎の家来になったわけでしょう? だから景虎が命令でもしない限り、アンタはわたしを害せない。守らなくちゃいけない」
クロムエルは頷いてみたものの、心の中では疑問符混じりの呻り声を上げていた。解釈に微妙なずれがある。ただ、行動原理としてはまったくそのとおりで、否定のしようもない。おそらくルシエラの中では、芙実乃とともに景虎の庇護下に入っているという認識なのだろう。
内々で景虎に許可をもらわなければならないが、それで良いなら、クロムエルとしてはむしろ面倒がなくなる。ルシエラに気を配ることが、自分の都合ではなくて、景虎への忠義という意味合いを帯びてくるわけだから。
「わたしは景虎のお嫁さんになる。それがわたしの幸せよ」
「……マスターの選択に口を挟む立場ではありませんから協力は致しかねますが、貴女が幸せでいることをわたしも願っていますよ」
だがそうなると、あの泣いていた少女だって黙ってはいまい。せっかくなかよくしてもらっているのに、ルシエラが変に波風を立てないことを祈るばかりだった。
クロムエルの見立てでは、景虎と芙実乃の二人のうち、恋愛感情を持っているのは芙実乃だけ。その芙実乃にしても、崇拝を筆頭にそれ以外の感情が同じ熱量で並び立っている感じだろう。彼女が純粋に恋愛感情のみに目覚めたら、内向的な気質が邪魔をして、景虎に近寄ることさえできなくなるように思えた。
ルシエラはどうも芙実乃を子供と認識しているきらいがあるが、そう見えるのは外見だけで、クロムエルからすると、両者の精神年齢はむしろ逆だ。景虎と芙実乃は同じ人種だから、もしかすると、外見的な幼さは芙実乃を不利にするものではないのかもしれない。
もっとも、すべては景虎次第で決まること。
クロムエルは、景虎にまつわる恋愛事情には静観でいようと割り切ることにした。




