助けるかは、別ですけど!
自分の欲に忠実な子って好きですよ。
いつも通り、深く考えずに読んで頂ければ光栄です。
乙女ゲームってあるじゃないですか。…はい。私は最近ありふれてきてる異世界転生者というやつなんですけど、悪役令嬢ものが流行っている中、悪役令嬢でもヒロインでも無く性転換でヒロインの婚約者でも無く、さらにその次にあるなーってくらいのヒロインのお助けキャラに転生しました。
いや、いいんですよ?別に。ヒロインになってイケメン達にチヤホヤされたーいとか近くでイケメン鑑賞会したーいとかいう願望無い訳では無いんですけど(鑑賞用イケメン最高)、ただ、寧ろ女の子の方が好きですしね?まあだからと言って前世女な私がイケメンになって女の子達からチヤホヤされるというシュチュエーションに若干エモの波動を感じない訳では無いんですけど、性別変わるってちょっと抵抗ありそうじゃないですか。何とは言いませんけど、ナニとか。
けほん。……という訳で、1番美味しいのはイケメンじゃないけど役割的に同世代の女性達に侍られる事も多い悪役令嬢ポジと思ってる……時もありました。
今では違いますとも。
"この乙女ゲームの悪役令嬢"は、"あの方でなくてはならない"。
そうでないなら世界の損失。私の生きてる意味もない。数年後に悪役令嬢として立つその方を初めて見た時、私はこの世界が乙女ゲームの世界で、私は転生者であることを思い出した。
その瞬間から私は、しっかりと、ヒロインのお助けキャラであり、元令嬢の現商家の看板娘であることを認識しました。…いや、暫く…えっと、没落して隣国に流れ着いて商会の看板娘として前世の記憶を利用してガッポガッポ稼いでいたこr…。けほん。
……商人魂が身に付いてきた頃には。
私は全て物語を識った状態で、学園に入学しました。父親には私には商才あるから別に学校行かなくてもと言われたけど、そこはちょっとよくよくお話した(行かせないならもう商品のアイディア出さないって駄々こねた)。……脅したともいう。後悔は全くない。
そして私はヒロインを物凄く応援してました。だって、悪役令嬢が私の好みどストライクだから。王子気に入らないし、ヒロインとくっついて別れて仕舞えばいいんだ。大丈夫、悪役令嬢のあの方にはお前よりも何倍どころか天と地というか、雲泥の差という言葉ですら表せないほどの高スペックな、超ベストマッチな天上人いるから。
そんな訳で私はヒロインのお助けキャラ全うしようかなと思ってましたよ。
「ふふ…。あんな醜い顔を隠した女なんて、ズタボロにして地べたを這いつくばらせてやるんだから…!牢屋に入れられたあの女を、見世物みたいに嗤ってやるわ」
…という、ヒロインの超小さい呟きを入学式の最中に聞くまでは。職業柄耳は良いもので。……あ、商人の方が副業です。本業はとある方を見守ることです。
それにしても…ヒロイン、転生者か…。性格もの凄い悪そう。ついでに頭も悪そう。どうしよう、女の子なのに私の心がときめかない。
それでも私は頑張った。
勿論ヒロインのためなどではなく、最推し(悪役令嬢)の為に。
待っててください!貴女を陥れさせなど万に一つもさせません!王子とヒロインくっ付けて丸っとくるっと縁切って捨てさせて差し上げますから!!
王子とヒロインをシナリオ通りの対応でくっ付けるのにひと役買いつつ、裏では本業の延長で推しの人脈強化に努めて、断罪の為に台無しになる卒業式の日までにしっかり仕事をこなしました。商人たるもの、納期は守ってこそ。信用信頼は一晩じゃ築けない。
スキンケア用品は偉大なる武器。
ご令嬢方、化粧水欲しさに私との繋がりが欲しかったから、無料テスターしつつ世間話としてヒロインの教養やら淑女としての状況について軽く触れておきました。
いやあ、聞きたいっていうからさ。そしたらよく染み込んだんだよね。化粧水と一緒に。
そして遂に、物語は最高潮!
私の最推し(悪役令嬢)は無事、婚約破棄。ヒロインと王子は纏めてお掃除。周囲の令嬢令息は、ヒロインに毒されちゃった人達以外は非常に迷惑そうにヒロインを見るばかり。因みに私もこちら側。
達成感半端ない。
その後、どこから嗅ぎつけたのか悪役令嬢(推し)の従兄が現れて、私の活躍に対して褒賞をくれました。怖っ。どこから聞き付けたんだよ。シスコンが過ぎんだろ怖っ!
そんなこんな、私は何と令嬢に返り咲いた。しかも前は子爵家令嬢だったのに、今度は伯爵令嬢だって。しかも私自身に爵位くれるんだって。
「マジですか」
「ええ。とても感謝していますよ。我が従妹の番もね。……ところで、どうしてここまで回りくどく足を掴ませず、周囲を取り込めたのですか?」
にこりと笑うイケメン。だがしかし、私には効かないぞ。どうせならその従妹様の姿絵持ってこい。一から十までベラベラと、ウチの主力商品の企業秘密すら話してやるから。でもそれが無いんじゃ仕方ない。商人は無償じゃ動きませんて。
「秘密です」
それは残念、と言いながら溜息を吐くこの人に私が何か話すとするなら、
初恋相手に尽くしたいだけです。…くらいですかね?
数年前、官僚である父に連れられて、私は王城を訪ねました。用事で父を探していた同僚の方が来て、父を借りていき、私はお花を摘みに行って案の定迷子になりました。
そしてそれから時計の針が一周する頃、消えた私を真っ青になって探している父の所へ親切な騎士が連れていってくれました。
私の姿を見て安堵した父は、恐らく1番気になっている事を聞いてきました。
「ミミ、迷子になったのにどうしてそんなに笑顔なんだい?」
「いえ、ちょっと尊…。天使…可愛らしいご令嬢を見かけて昇天でき…あまりの麗しさの前には迷子の心細さ等は微塵も残れ…。
………可愛らしくて麗し過ぎて尊いご令嬢を薔薇園で見かけました。眼福です。天使が迎えにきたのかと思い、何度か鼻血で意識が飛びました。我が人生に一片の悔なし。今なら私、空も飛べる!という訳で自分が迷子だとか本当にどうでも良くなってたんですお父様」
「うん。開き直ってぶっちゃけるその切り替え具合は見事だけれども。一応ここ、王城だからもう少し言葉を選ぼうか我が娘よ」
あの日の事を思い出すだけでもう胸がいっぱいです。あ、また鼻から…。興奮ってどうしてこうも冷めてくれないんでしょう。
私は、あの日王城でたった一目見たその人に、熱烈に惚れてしまった。
お父様は大混乱、お母様は大興奮後相手を聞いて大混乱。
それからは、お相手の事を調べて調べてできる事を尽くして、それから数年間の片想いの果てに私は!
「あらミミ。いたの?」
「はい!いつ何時でも!滞在許可と侍る許可が出ている間は!!」
寝ても覚めても頭の中は貴女(最推し)でいっぱい。
あの茶番に潰れた卒業式から程なくして、私の一家は帝国へ戻り、カティア様(最推し)が帰還されてからは、畏れ多くも友達としてこうして度々カティア様の側にひっそり置物として風景に紛れるという充実した日々を、歓びに震えながら過ごしている。気を抜いたら涙と一緒にカティア様(最推し)への愛が溢れそう。
「まあ。ひっそり忍んでいないで、お茶でもどうかしら?」
「…女神が、私を誘っている…?すぐに滝に打たれて煩悩追い出して着替えて来ます!!」
都市部に滝なんてあったかしら?と首を傾げる姿も麗し過ぎる。このまま額に入れて飾りたい。背景ならば煩悩まみれでもいい。けれどカティア様の友人としてティータイムに誘われているというのなら、煩悩塗れで側に控えるなど烏滸がましい。
「ご心配なく!先日当家の地下に職人を呼んで作らせました!!」
それでは後ほど!
騎士達の見張りすらもするりと抜けて王城外へ。待たせていた馬車をフルに飛ばし、先日父に無理を言って王城の目と鼻の先に作った別荘に駆け込む。
「お嬢様!そんなに急がれては…!」
「カティア様がお茶に誘ってくれたの!急いで準備よ!恥も外聞もどうでもいい!」
その名前が出ると使用人達は私よりも早く動き出す。まあ当然ね!私はカティア様の為に生きている!いえ!カティア様を見守り侍りたまに友人として交流を持つ為だけに存在していると言ってもいい!
これぞ私の本業!
あの日王城でカティア様の姿に一目惚れし、想うあまり、私は数年間でカティア様の護衛も真っ青な隠密力を手に入れ、今や自他そしてカティア様ご本人すらも認める立派なストーカー(おともだち)になりました!
ヒロインのお助けキャラのその後なんて、シナリオに出て来てないし、別にいいよね!だってシナリオ通り動いたし!
助けるかは、別ですけど!!
読了ありがとうございました!