第73話
2〜3日立つとようやく子犬も俺に慣れてきたのか、部屋で寝転んでいると体をこすりつけるように近づいてくる
そして、普通に触れるようになったのだが、これを一番楽しみにしていた葵はまだ触れられないでいた
「早く!早く!輝!早く帰ろうよ」
葵は俺の手を引きながら家路を急いでいた
たぶん・・・というか確実に今日こそは子犬に触るためだろう
あの子犬が来てからまだ葵は一回も触れないでいた
「葵、そんな走るなって。急いでもあいつはまだ寝てるって」
「わかんないでしょ、早く早く!」
葵は走って俺の手を引いている
そして、家に着いたと思うと俺の部屋に走っていった
「葵・・・勝手に俺の部屋入るな・・・」
「かわいい〜」
「・・・聞いてねぇ」
籠の中で寝ている子犬を見ながら顔を緩みまくっていた
そんな葵の横で俺は制服から私服に着替えようと脱ぎかけると葵がこっちのほうを見てきた
「・・・何じろじろ見てんの?」
「・・・・」
「あの〜・・・葵さん?さすがにじろじろ見られると着替えずらいんだけど」
「・・・・」
「葵さん?」
葵はじーっと何も言わずにこっちを見てくる
そしてしばらくして顔を赤くして部屋を出て行った
勢いよく閉めたドアの音で起きたのか子犬が籠から出てきて俺の脚にくっ付いてきた
俺は子犬に待て!っと言って待たせ、その間に着替える
「よし、よくできたな」
俺は解放されてすり寄ってきた子犬の頭を撫でる
最近“待て”ができるようになった
というか岡村さんの家でしつけがある程度できていたのか、待てとかはできていてトイレの場所もすぐに覚えてくれた
「そういや、おまえの名前まだつけてなかったな・・・ん〜・・・そうだな・・・確かお前は豆柴だっけ?」
ふと子犬に問いかけてるんだろうと思ってしまい、ちょっと恥ずかしくなった
「そうだなぁ・・・柴ってのはどうだ?」
「・・・・・」
子犬は気に入らなかったらしい
「ん〜柴ってのは?・・・ダメか。それじゃ・・・茶色ってのはどうだ?」
茶色の色をしているから茶色って決めたのだが、これも気に入らない
「子犬のくせに贅沢だなぁ・・・それじゃ〜肉球ってのはどうだ?ぷにぷにしてそうで可愛いだろ?・・・いたっ!」
噛まれた・・・甘噛みだけど噛まれた
それだけ嫌だったのだろうか・・・俺的には可愛いと思ったのに
「ん〜じゃ・・・もういいや、豆で」
めんどくさくなって見た目通りに言ってみると、豆は尻尾を可愛く振って喜んでいるみたいだった
「豆でいいのか?豆」
正直本当に嫌だったら変えるつもりだったが豆は本当に喜んでいるみたいで、頻りに俺の手を舐めてきた
「それじゃお前の名前は豆で決定だな。改めてよろしくな、豆」
豆は小さく吠えて答えてくれた