第70話
「モッコちゃ〜ん♪モッコちゃ〜ん♪私のモコちゃん〜♪はっやく会えないかな〜♪」
葵はいつもじゃありえないほど上機嫌に俺の前を歩いていて、変な歌まで歌っていた
それにしてもモコちゃんって犬の名前だろうか?
いつもよりハイテンションな葵がカバンを大きく振りながら、ものすごい良い笑顔でこっちを見てきた
「ね!輝!今モコちゃん飼いに行こっか!!」
「テンション高いとこ悪いんだけど、モコって名前は俺嫌だから」
「えぇ〜なんで?モコモコしてるからモコちゃんでしょ?」
「・・・はぁ・・・安直・・・とにかく帰ろう」
いつもと違うテンションの葵に付き合っていると疲れてしまいそうだったから俺はちょっと急ぎ足で家へ向かった
「それじゃ俺、一旦着替えてそっち行くから」
「うん、待ってるね」
葵と一旦別れて階段を上り自分の家のカギを開けるが、玄関にいつもと違う雰囲気を感じた
しかし、何が違うのかわからないため、部屋の中に入るとすぐに違和感が分かった
「・・・な、なんじゃこりゃ・・・」
いつもなら仕舞うのがめんどくさいからそのままにしてあるコタツ、お気に入りの音楽を聴くために愛用しているコンポ、ゲーム機、テレビ、漫画など部屋に置いてあったものがすべて無くなっている
「泥棒?でもちゃんとカギ閉めたし・・・それにしても取りすぎだろ・・・」
あまりの変化に俺自身戸惑っていて、何が何だかまったくわからない
とりあえず、ここは葵のおばさんにでも相談しないといけないと思い、急いで葵の家に走った
葵の家に着くとベルなど押さずに直接家に上がる
「お、おばさん!!た、大変!!」
「あらあら、どうしたの?輝ちゃん」
「お、俺の!俺の部屋に泥棒入ったんですよ!」
おばさんは目を見開いて俺の方を見てくる
「俺の部屋の物が全部無くなってたんですよ!これってやっぱり警察に!」
あまりの混乱ぶりにおばさんは耐えられなくなったのか、いきなり声を出して笑い出した
「あはははは〜輝ちゃん、そんなに混乱しちゃダメだってば。とりあえず〜私についてきて」
「はい?」
「まぁまぁとりあえず私についてきて」
おばさんは俺の手を取って、2階に上がり葵の部屋の隣の部屋のドアを開けた
「・・・あ・・・・な、なんで・・・なんでここにある!!」
部屋の中には、愛用のコンポ、コタツ、ゲーム機、テレビ、漫画が置いてあり、漫画は本棚の中に綺麗に入れてある
驚きのあまり口から言葉が出てこなくておばさんの方を見るとニコッと笑いかけてきた
「言ったでしょ?葵が勝ったらこっちに住んでもらうって」
「・・・・はい?」
「缶けり負けたんでしょ?葵に」
「そうですけど・・・」
「だから、前に言った通り賭けは葵の勝ち、だから輝ちゃんは今日からこっちに住むことになりました。
もちろんご両親の許可はもらってるよ
よろしくおねがいします。だってさ」
おばさんはそれから、遠慮せずにゲームもエアコンもなんでもしてもいいとか、ご飯の時はちゃんと一緒に食べるとか、風呂は気にせずいつでも使ってくれて良いとか色々言って部屋から出ていった
俺は急な展開に付いていけず、とりあえず落ち着くためにコタツに足を入れて寝転ぶ
しばらくして、やっと頭が展開についてこれそうになったとき葵が部屋に入ってきた
葵の表情はかなり落ち込んでいて、今にも泣きそうな感じだ
なんとなく俺は体を起こして葵の方を向くと飛びついてきた
「輝ぅ〜、モコが・・・私のモコがぁ・・・うえぇぇ〜ん」
「うわっ葵泣くなって、おまえ以上に俺はもっと泣きたいんだから」
それからしばらく葵は泣いていて、ずっと「モコがぁ・・・私のモコがぁ〜」っと俺の胸の中で言い続けた