第38話
それから、俺は涼が残した5つの約束を守ることにした
もちろん、1つ目の「涼を忘れる」以外のことを。
でも、やっぱり涼のことを思い出しては泣きそうになる
涼が死んでから数カ月経って、俺は中学3年になった
空とは3年になって学校で会わなくなった
そして俺は学校で1人になってしまったが、気にならなかった
雲を見れば涼が見ていてくれる。だから笑顔で雲を見る
そうすれば雲に乗って見ている涼も安心してくれると思ったから
どこかの不良生徒に喧嘩を売られても、絶対買わないようにして、避ける
そうしているうちに、俺に喧嘩を売る人はいなくなった
もしかすると、空がそういう人を抑えててくれたのかもしれない。
すると、学校で恐れられていた俺にも学校で友達ができるようになった
それでも、俺の心にはポッカリと穴が空いていて、俺はその友達と遊んでいて楽しかったが、遊んでいる途中で“涼が生きていればこうしてまだ遊べたんだ”と思いだして悲しくなったこともあった
それからまた数カ月が経って、俺は電車で1時間以上かかる高校に入学した
俺は周りの人が涼のことを知らないところに行きたかったのかもしれない
別に忘れたいと思ったからじゃない。ただ涼のことを知っている人がいると気を使ってくれるがそれが逆に涼のことを思い出して泣きそうになるから
だから遠目の学校を選んだ
そこは涼のことを知っている人はいなかった。でも俺のことを知っている人はいっぱいいた
それでも、友達ができた
そして、告白してくれる人もいた
だけど、告白のたびに俺は涼のことが頭の中に浮かんで、断った
そして告白した子がいなくなると俺は雲を見て自分を笑う
涼が言っていた通りになっている自分に
それから数カ月が経ったある日に親が海外に転勤するということになり、俺は涼との思い出の場所を離れたくなかったが、半無理やりに離れることになった
そして俺は葵たちのいる故郷に戻ってきたのだ
長い時間、葵は俺の話を聞いてくれていた
そして俺が話終わった後、葵はしばらく俯いたままだったが手で涙を拭いて俺のほうを見た
「涼香さんは幸せだね。輝に愛されてさ」
「・・・・」
「輝、おつかれさま。今までよく頑張ったね」
「・・・・ああ・・」
俺は涙が流れそうになるのを止めるために上を向く
「・・っ・・・」
「いいんじゃないかな?泣いてもさ。ここには私しかいないし、ほらっ涼香さんも許すってさ」
さっきまで雲があったのに、いつの間にか雲ひとつなく月が輝いていた
それは涼が俺に笑いかけていてくれて、葵の言った通り少しの間だけ泣くのを許してくれたような気がした
「ごめん・・・涼・・・葵・・・」
すると、火葬場のときから今まで我慢していた涙が次々と流れだす
その間、葵は俺の手を握ってくれていて、横でまた泣いているようだった
しばらく俺は涙を流していたが、雲が再び出始めるとそれを無理やり止める
「・・・すぅ・・・はぁぁぁ・・・うん。もう大丈夫だ」
「そっか」
「ごめんな。葵」
「ううん」
俺は笑顔で葵のほうを向き、そして雲を見る
俺の横で一緒に雲見ていた葵が小さな声で、そしてはっきりと話をし出した
「私ね・・・輝のこと好きだよ。もちろん幼馴染としてじゃなくて、異性の北谷 輝として。それでね、涼香さんのこと聞いて私ちょっと嫉妬しちゃったんだ。いいなぁそんなに愛されてってね」
「そっか・・・」
「うん・・・」
「・・・・俺もさ・・・葵のこと、幼馴染じゃなくて中村 葵として好きだよ。・・・・・でも、まだ俺の心の中が整理できてないんだ・・・だからもうちょっと待ってくれないか?整理できたら俺から言うからさ・・・」
「・・・うん」
おそらく俺も葵も顔が赤いのだろう
そして、雲に乗ってこっちを見ている涼は笑っているのかな・・
俺は心の中でつぶやいた
“やっと5つ目の約束が守れそうだよ・・・涼・・”