第29話
「こんちわ〜」
「輝どうしたの?」
「いや服どうなってんのかなぁって」
文化祭の計画が決まってから1週間が経った
そしてあと1週間で文化祭が始まる
服は葵のおばさんが作れるということで任せっきりになっているのだが、少し心配で見に来た
「見たらわかるよ」
葵がそう言って家の中に入っていくから、俺も入ってリビングに行く
「こんちわ〜・・・・すご・・・」
リビングに入っておばさんを見た瞬間変なオーラが見えた
おばさんは俺が入ってきたことすら気づいてないぐらい集中していて、その指は高速で生地を縫っていく
「はい。すごいでしょお母さん」
「サンキュ。すごすぎるな・・・」
葵がジュースを持って俺が座っていたソファの隣に座ってきて色々話を聞いた
葵が言うには、クラスの全員のスリーサイズを聞いて、おばさんにそれを教えてクラスの軍資金で服の生地を買った次の日からあの調子らしい
「あとどのくらいでできるの?」
「んーとね、確か前日までには絶対全員分できるって言ってたかなぁ」
「そう頼んでおいてアレだけど恐ろしいな・・・その生産力・・・」
「あはは」
うちのクラスは全員で26人男女ともに13人だ
俺たちが衣装を決めてから全員のスリーサイズを聞いて、生地を買ってくるのを4日間でやったとして、残り10日で26人分の服を生産することになる
しかし、衣装は文化祭前日までにしてほしいと言ってあるので残りは9日間
ということは1日で約3着
服を作ったことはないが、和服でこの生産力は化け物レベルってのは俺でもわかる
しばらく、おばさんの驚異的な生産力を見ていると、視線に気がついたのか、こっちを見た
「あら。輝ちゃん来てたの?」
「こんちわ」
「ごめんね〜なんか夢中になるといつもこうなの」
「いえいえ、頑張ってください!俺らのために」
「ええ、頑張るわ!あっそうだ!今日夕飯食べていきなさいね」
目が子供だ
純粋に服作りを楽しんでくれているみたいでなんか嬉しかった
おばさんは、再び自分の世界に入ったのか周りが見えないってぐらい集中して、手がものすごいスピードで動いている
「なんかここにいちゃ邪魔しそうだし葵の部屋移動しようぜ」
「別にいいけど、なんもないよ?」
「いいの。漫画あるし」
俺と葵はリビングから出て、葵の部屋に行く
「それにしても葵ってちょいオタクだよな」
「そ、そんなことないよ。優美のほうがすごいよ」
葵の部屋に入って漫画を読む
この前遊びに来た時に見つけたのだが、ベッドの下に漫画とライトノベルの山が隠されていた
見つけたときは驚いたが、今となっては漫画喫茶のような感じで気に入っている
2時間後
「葵〜これの次の漫画取って」
「それはそれが最後だよ。まだ出てない」
「うわっ気になるじゃんか」
さらに2時間後
「葵〜これの次取って」
「ダメ。今、私が読んでるから」
「はやく読め〜」
さらに2時間後
「葵〜この小説の次どこ?」
「目の前にあるでしょ」
「あ、ほんとだ」
数時間後
「葵・・・腹減らない?」
「すぅ・・すぅ・・・」
「寝てる・・・」
「だ、だめだよぅ・・・輝・・・傘で空は飛べないよぅ・・・すぅ・・すぅ」
「こいつの夢の中での俺って・・・」
葵の寝言を聞いてから、おばさんのいるリビングに行くと、まだおばさんは服を作っていた
俺が入ったことさえも気が付いていない
時間的にはもう夕飯を食べている時間帯なのだが、俺たちのために服を作ってくれてるので邪魔するのも悪いから、また葵の部屋に戻った
「どこ行ってたのぉ」
「下だよ」
「お母さんまだやってたぁ?」
「ああ。すんごい集中力でな」
葵は眠たい目をこすりながら話をする
その姿はさっきのおばさん同様子供のようで、笑いそうになったがなんとか耐えた。
「ご飯、俺らで作ろうか。おばさんへの感謝の気持ちも含めてさ」
「うん!」
俺と葵の二人でリビングを抜けキッチンまで行く
「さて、何作ろうか・・・」
「焼きそばでいいんじゃない?」
「お前、焼きそば好きだな・・・それだけじゃなんかさびしいから他に俺が作るよ。ただし味付けは俺にさせてくれな」
「なんで?」
「なんでって・・・・そりゃおまえ・・・あれだ・・・葵の味だとビックリできないだろ。俺いろいろ世話になってるからその感謝の気持ちもあげたいし、お願い俺に味付けさせて」
「んーしょうがないなぁ」
なんとか承諾してくれた
本当にビックリさせたいなら葵の味付けがいいのだが、あれは頭がビックリすると言うより体がびっくりしてしまって今後の作業に支障をきたす可能性がある
だから、葵には味付けさせられない
俺は焼きそばの他に何を作るかを考える
「葵、焼きそばの他に何食いたい?」
「んーハンバーグ」
「合わないだろ・・・」
「それじゃ〜から揚げ」
「却下」
「んじゃラーメン」
「お前なんで麺類作るのにまた麺類なんだよ・・・」
「わがままだなぁ輝は」
「そもそも焼きそばの他に作るのって考えにくいんだよ」
野菜を含み、肉も入れれて、なおかつ簡単な焼きそばの隣に置く料理なんてあんまりない。あるとしたら白いご飯ぐらいだ
とりあえず、焼きそばの味を少し濃くして、もう一つ作るのはあっさりしたやつを作ることにした
焼きそばのほうは葵に任せ、俺は冷蔵庫から卵、トマト、葵の焼きそばの残りのキャベツを使って軽く炒めた
「良い匂いね〜ごめんね。料理のこと忘れてたわ。」
匂いにつられてさっきまで服を作っていたおばさんがキッチンに来た
「いえ、これは感謝の気持ちですから、もうちょっとでできるんで待っててください」
「はーい。くれぐれも葵に味付けさせないでね。あっそうそうお父さんの分はいいからね。今日帰ってこないってメール入ってたから」
「了解です」
おばさんにそう言ってから葵のほうを見ると焼きそばソースを入れようとしていた
「葵、味付けは俺がやるって」
「いいよ〜私がやるよ」
「お願い。今日は俺の味でおばさんに食べさせたいから。ね?」
「・・・うん、わかった。はい」
納得したようなしてないような顔で葵は焼きそばソースを俺に渡してくれて俺が作った料理をテーブルに運んでいく
俺は焼きそばの味付けをして、麺に絡ませて皿に盛り付けてテーブルに持っていく
「おまたせしました」
「それじゃ食べましょうか」
「うん」
「「「いただきまーす」」」
一斉に食べ始める。
ちょっと俺の作ったものはあんまり自信がないが、まぁ食べられないものでもないだろう
「これ輝ちゃんが作ったんだよね?」
おばさんはトマトと卵の炒め物を食べながら聞いてくる
「そうですけど・・・どうですか?」
「とってもおいしいわよ これ!あとで作り方教えてもらおうかしら」
「簡単なんでいいですよ」
「ほんっとにおいしいわ。これ」
「うん。まさか輝の料理がここまでおいしいとは・・・」
葵もおばさんも俺の作ったトマトと卵の炒め物をパクパクと食べてくれてるので安心した
夕食も食べ終わって、食後のコーヒーを淹れ、ちょっと休憩をするとおばさんは再び服を作り出した
「それじゃ俺そろそろ帰るな」
「うん。ありがとうねご飯作ってくれて」
「いや別に俺にはこれぐらいしかできないからさ。んじゃおばさんによろしく」
「おやすみ〜」
「おやすみ」
俺は葵の家から出て、自分の家へと戻った