第25話
次の朝、昨日言った通り、葵の家に向かう
「おはようございます」
「輝ちゃんおはよう」
おばさんの目の下にクマができている
葵のことが心配で寝れないのだろう・・・
「それじゃ葵の部屋入らせてもらいますね」
「ごめんね・・・」
俺はおばさんの許可を得て、葵の部屋の前に行く
「葵 入るぞ」
そう言って中に入ると昨日と同じく、布団を全身に被っていた
「おはよう 葵」
「・・・・・・」
無反応ですか・・・・
せめて
「おはよう」ぐらいは言ってほしかったけど、そうは言ってられない
この布団を退かす方法を昨日のうちに考えておいたのだが、まったく思いつかなかった
無理やり布団を取るってのもあったけど、それはなんか俺は嫌だった
この部屋に来てから10分ぐらいずーっと黙ったままだったから、
時間はもう遅刻ギリギリだった
「輝ちゃん そろそろ行かないと遅刻するわよ」
おばさんが部屋に来て、俺に言う
「別にいいですよ それより葵を学校に連れて行く方が俺にとって大事です」
「でも・・・」
「大丈夫っす 下で待っててください」
俺は笑顔で言った
おばさんは納得してない顔をしたが、なんとか許してくれたようで部屋を出て行った
すると、葵が小さな声で言った
「別に行ってもよかったのに・・・」
「んじゃお前も学校来いよ」
「・・・・・・・・・・・」
そして、再び黙りこむ
俺は翔にメールで
「今日は行けないかも」と送っておく
返信には
「了解」と返ってきた
それからしばらく、葵の布団を退かす方法をベッドにもたれながら考える
どのくらい経っただろうか、いつの間にか俺は寝てしまっていた
葵のほうを見るとまったく形は変わっていない
「葵?起きているか?」
「うん・・・」
葵は起きていた
またしばらく葵の布団を取る方法を考える
そして、ふと葵の布団を取る良い方法を思いついた
「葵 そういや、お前って日記つけてるよな」
布団がビクッと揺れた
「えーっと葵の隠し場所は・・・昔と同じなら机の椅子のカバーの下だっけ?」
また布団がビクッと揺れる
「お、あった あった 葵見ていいか?」
「・・・・・・・・・・」
「返事がない・・・ってことは中見てもいいってことかな?まぁいいや 葵の恥ずかしい日記公開ー」
「だ、だめー!!」
葵は布団を飛ばして、俺の行動を止めようとする
が実際、俺は動いてなくてただ言ってただけ。
素早く葵が飛ばした布団を取り、葵の逃げ道を無くす
「あははははー ひっかかった。てゆうか、日記書いてんのかよ。それも、まだ椅子のカバー下に隠してる」
「うぅー・・・」
葵は顔を真っ赤にしてこっちを睨んでくる
「あははははー・・はぁ・・・はぁ・・ふぅ・・。やっと出てきたな 葵」
「・・・・・・・・・・・・・」
「さっきから言ってるけど、学校行くぞ」
「嫌・・・私が悪いんだもん」
葵はうつむいて小さな声で言った
「まだ言うか・・・悪いんだもんってまぁそう思う奴もいるだろうな。 でも皆が皆そうじゃないだろ?少なくとも俺と翔と優美は思ってないし。たぶんクラスメイトの奴らもそんなこと思ってない」
「・・・・・・・・・・・・」
「葵がここから出ないことで心配している人もいるんだよ。おばさんにおじさん、それに翔に優美、あと俺もだ。他のやつは知らない。少なくとも5人はお前を心配してるし、おまえのために何かしようと思ってる。お前が自分をどう思おうが勝手だ。だがな、俺らのことを忘れるな」
「・・・・・・・・・・・・」
葵はうつむいたまま黙っている
「葵?あのな・・・正直言うよ。俺な、お前の居ない学校なんてつまらないんだよ。お前と喋って学校に行って、昼休み翔たちと一緒に喋って、帰りにまた喋って、最後に「また明日」って別れる。それがこっちに来てからの俺の日課になっている。だからさ、俺のためにと思って学校行こうよ」
「・・・・・・・・・・」
葵の体が少し震えているけど、ここは言い続ける
「お前には俺がいる。翔がいる。優美がいる。皆、葵のことが好きだから心配してる」
「・・・」
「よく頑張ったよ 1人で。でもさ、今度からは俺に頼れ、助けてやるから」
「うぅ・・・・うぅ・・・・」
俺は葵の横に行き、葵を抱きしめた
これ以上葵に我慢させないために。
「泣いていいんだよ?泣きたいときに泣け。どうせ泣きそうになっていつも我慢してたんだろ?今はいいよ。本気で泣いて。ここには俺しかいないから。な?」
「うぅ・・・うぅ・・・うぁあああああん、あぁぁああん」
今まで我慢していた分の涙が一気に流れ始めた
昔の葵も今の葵も変わらない
変なところでは甘えたりするくせに、こういうのは絶対人に甘えない
自分の中で抱え込んで、解決できないまま心の奥にしまってしまう
「うぅ・・あぁああ て、輝ぅ ひぐっ あ、ありがと、うぅ・・ぁぁ・・」
「あぁ もういいから。しゃべるな。舌噛むぞ」
俺は葵を力強く抱きしめ、少しでも心の奥に溜めこんだものを出せるように背中をさすり続けた
どんぐらい泣いていただろう?
その間ずーっと葵を抱きしめて背中をさすっていた
すると葵が小さな声で話しかけてきた
「あのね・・・」
「ん?」
「私ね・・・辛かった・・・輝が入院してたときも、なんで私が助かったんだろうって・・・何度も思ったの」
「うん」
「でもね、輝がね・・・私が入院したほうが辛いって言ってくれてうれしかった・・・」
「うん」
「でね、輝のね・・ためにもね・・・頑張らなきゃて思ってね・・・学校行ったら皆見てくるの・・・でね、ノート開けたらね・・・うぅ・・・ひ、人殺しってね・・・うっ・・・」
「いいよ・・・もう言わなくて」
人殺し。俺は死んでないけど、あの時の葵には絶対言ってはいけない言葉だ
それを聞いて、俺はますます、そんなことをした奴が許せなくなる
「でね・・・ひっく・・・他にもね・・・色々書いてた・・・それでね・・・私・・・耐えられなくなってね・・・」
「もういいよ・・・もう耐えなくていいから。俺がいるから。辛くなったらいつでもお前の横にいてやるし、助けてやる」
「うぅ・・・うぅう・・・うぁあああん」
葵が泣き始めてから1時間ぐらい経って、ようやく泣きやんだを思い、腕の中にいる葵を見ると、葵は泣き疲れたのか眠ってしまった
俺は葵をベッドに寝かせ、長く泣いていたから目が腫れないように濡れタオルを目の上に置いて部屋を出た
「葵どうだった?」
「なんか泣き疲れて寝ちゃいました」
リビングに行くと、おばさんがコーヒーを2つ用意してテーブルに座っていた
俺はコーヒーが置いてある おばさんの向かい側に座る
「葵が声出して泣いたのって6年ぶりね・・・」
「そうなんですか?」
「ええ それからは涙は流すけど、どんなことがあっても声を出して泣くことはなかったわね」
「へ〜」
おばさんの話を聞きながら淹れてくれたコーヒーを飲む
ちょっと苦めだが、おいしかった
「ありがとうね。輝ちゃん」
「いや、別にいいですよ。俺が招いた種でもあるんですから」
「でも、本当に助かったわ。あの子、輝ちゃんの病院行く時以外あの部屋から出てこなかったから・・・」
「・・・ご飯はどうしてたんですか?」
「あの子の部屋の前に置いておくの。しばらくしたら取りに行くのよ」
「そうだったんですか・・・」
そこまで葵は追い詰められてた。ノートに書かれた言葉のせいで。
「でもまぁ、今日は出てくると思いますよ」
「そうなの?」
「俺の勘ですけどね」
「そうね」
俺とおばさんは笑った
俺が入院してから今までの中で一番の笑顔で
それからは暗い話をやめ、いつも通りのおばさんになり、いきなり「今日は学校行かなくていいわ!私の心の悩みも聞いて!」と“ただの愚痴”を夕方の夕飯の支度が始まるまで聞かされ続けた
そのお返しなのか、夕飯は俺の大好物ばっかりだ
「輝ちゃん、葵呼んできてくれない?」
「下りてくるでしょ。腹空かせて」
「おか〜さん お腹すいた〜」
「ほら」
「さすがね!輝ちゃん!葵の将来のおっ!」
「違いますよ。ただの勘です」
おばさんが言い終わる前に話を終わらせる
これ以上遊ばれてたまるか。
葵も下りてきて、おじさんも帰ってきて、久々に俺を含めて4人で夕飯を食べる
色々と話ながら夕飯を食べ、ご飯を食べ終わると葵が両親に謝った
「ごめんなさい。お母さん、お父さん・・・心配かけました。もう大丈夫」
「「そっか」」
おばさんもおじさんもその一言で済ませて、他の話に切り替えた
たぶん、二人とも恥ずかしかったのだろう。自分たちの娘に真剣に謝られて
しばらく、4人で話をしていたが、葵がお風呂に入ると言って俺、おばさん、おじさんの3人になった
「輝君、事故のことも今日のことも本当にありがとう」
さっきまでバカバカしい話をしていたおじさんが真剣な顔で言ってきた
「正直、こっちに来る前に輝くんのご両親から中学のことを聞いて俺はあんまり葵と合わせたくなかったよ。でも輝くんの目を見てあの小学4年生のときと変わらない目で俺は安心したよ。この子は何も変わってないってね。だからこれからも葵のことを頼むよ」
「ちょ、ちょっと頭上げてください」
おじさんはテーブルに頭が着くくらい下げている
外では何をしているかわからないけど、この人が頭を下げることはあまりないだろう
むしろ下げられるほうが多い人だ この人は
なんとか頭をあげてもらい、いつも通りでいてくれるように頼んだ
毎回あんなことされていては俺が持たない
すると、わかってくれたのかいつも通りのおじさんに戻り、無理やりあり得ない量の酒を飲まされ俺は気を失った