勇者カードを確認する。
胸元に、無職レベル1と書かれた勇者カードを貼付ける。カードは魔法かなんかでぴったり貼れるようになっている。取り外しも簡単で。しかしなんとも恥ずかしい。無職レベル1、か。
ララの勇者カードを覗く。
ヒーラーレベル1。
「お前もレベル1かよ!」
「う、うるさいわね!」
「裏面はどうなってんだ?」
ララはむすっとしながらも勇者カードを俺に渡す。裏面を見る。
筋力E俊敏性E剣術A魔法F魔力量360 特記事項 イリリア教会の洗礼(+)ヒーラー検定2級取得。
「ごりごりのソードマンじゃねえか!」
初期値としてはDでかなり優秀だとか言ってたな。こいつめちゃんこ優秀じゃねえか。ソードマンとしては。
「ヒーラーで応募したシスターにいいなさいよ!」
とララは俺の手元から勇者カードをぶんどる。
「ヒーラー検定2級ってのは?」
ふふん、と俺の問いに、ララは胸を張る。
「難関資格よ。イリリア教会の修道女はみんな取得を目指すわね。ヒールってのはとても緻密な魔力コントロールと膨大な知識が必要なの。ただ洗礼を受けるだけじゃあダメなのよ」
「に、二級。すごい」
とノアが呟きながら、ララを憧憬の目で見る。
「そんなにすごいのか?」
「これだから異世界人は」
はあ、と飽きれたようにララは俺を見た。異世界差別だ。
「毎年合格率2%、勉強時間1300時間とも言われる難関資格よ!実技試験の魔力コントロールも針に糸を通すほどの細かい魔力操作ができないと合格できないのよ!しかも、2級を取得すると、なんとなんと一人にだけ洗礼を与えることもできるのよ!」
とララは、服の中に隠れていたネックレスを取り出した。ネックレスの先には、小さく透明な玉があり、『2』と黒い字で書かれていた。デザイン性のなさよ。まあよくわからんが、ヒーラー検定2級というのはすごいらしい。簿記二級とどっちが難しいんだろう。しかし。えへんと胸を張るララに、問う。
「なんでそれでヒーラーレベル1なんだ」
「うるさああい!魔力量がうん、こーなのよ、うん、こー!めちゃくちゃ勉強して2級取得して、まさか私もこんなに魔力量少ないとは思わなかったわよ!シスターも驚きの少なさよ!」
「自分で言うなようんこって」
と言いながら、改めてララを見る。ひと目でヒーラー職とわかる修道服に、やはり大事そうに持つのはしっかりと梱包された大きなロッド。しかしその少ない魔力量のせいでペーパーと化している難関資格と、そしてなぜか剣術Aという。何かが色々と複雑に間違っている。
「あんたは?」
とララが、俺の胸元から勇者カードを取る。
「ひひひひ、何これ、超初期っぽい数値って、、、魔力量!?」
「はっはっは、だからソーサラーなんだよ俺って。俺ってさ」
「わ、私の倍以上、、、なんで」
珍しくもララは落ち込んでいる。
「まあ、才能ってやつかな。才能」
落ち込むララにほくそ笑みながらも
「ノアは?」
と無言でついてくるノアの勇者カードを見る。
グレードシールドレベル1。
なんかそんな気はしていた。
「裏面見せて」
とお願いすると、ノアは無言でこくりと頷き、カードを俺に渡した。
筋力G俊敏性G剣術G魔法A魔力量980 特記事項 ターゲットオン魔法(大盾)
「魔力量980!?」
俺が驚きの声を上げる。よくわからんが、すごい数字に違いない。
「980!?」
とララも驚いているのでやはりすごいんだろう。
カードを返しながら、改めてノアを見る。
大きな木の盾を背負い、腰にはぎりぎり引きずらない程度の長さのショートソードを差している。何かが間違っている。
「魔力量すげえな、ノア」
ノアは、照れたように笑う。可愛いな。
「えっと、なんでグレートシールドなの?」
俺の素朴な問に、ノアは真っすぐな瞳で答える。
「前線、みんなの盾。かっこいい」
「そ、そうだな。しかし、その、大盾と片手剣、よく持てるな」
ノアの能力値の筋力Gとあるが。
「うん。浮遊魔法、使ってる。杖がないから、簡単にだけど」
その膨大な魔力量を、こんなところで無駄に消費なされておられる。
「もったいねえだろ!」
と突っ込むと、「うん、でも、頑張る」とノアは真っすぐな目で頷いた。それ以上なにも言うまい。