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魔法の説明を受ける。

「お名前を」


 と職員に訊かれる。


「ゆうきです」


「ユーキ様ですね。少しお待ちください」


 と何やら探しに職員は立ち上がった。

 簡易な仕切りがあるとはいえ、隣のブースの声はほぼ聞こえる。左隣から声が。聞き耳をたてる。


「リン様、ですね。申し訳ございません、こちらの不手際で書類に不備がございまして、勇者カードの発行が本免許取得後になります」


「は、はい」


 と職員の問いに、リンはやや緊張気味に答えている。

 勇者カード?そんなものがもらえるのか。30歳にして勇者カードか。なんとも言えない。

 さらに左隣のブースより、職員の声が続く。


「一応検査結果の適職も伝えることになってまして、ソーサラーのご希望でしたが、測定の結果、リン様の高い身体能力を鑑みますと、レンジャーでしたらかなりのレベルからスタートすることができますが」


「ソ、ソーサラーでいいです」


 とやはりリンは、緊張気味に答えた。しかし今度はちょっと意志を込めて。


「ですが、レンジャーとしてならかなり優秀で」


「ソーサラーで、いいの!」


 とリンが、今度はだだっこのように答えた。


「そ、そうですね。出過ぎた真似を、すみません」


 職員が丁寧に謝った。


「う、うん。うちも、ごめん」


 とリンも、謝った。二人ともしゅんとしているのが、仕切りの向こうの声だけしか聞こえないが、わかった。なんだか俺ももやもやとする。気まずい。

 今度は右隣のブースから声が。耳を傾ける。


「ええっと、ジョブはグレートシールドで?」


 職員の問いに、少しの沈黙があって、再び職員が言う。


「そうですか。ノア様の検査結果ですと、ソーサラーなら、高レベルからはじめることができますが、、、」


 やはり沈黙があって、職員が言う。


「、、、そうですか」


 とやや残念そうに、職員は言った。

 職員が独り言を言っているように聞こえるが、実際はノアも頭を上下右左にと、ヘッドランゲージで意思表示していたに違いない。仕切りの向こうで表情も見えないが、なんだか職員の残念な気持ちが伝わってくる。


「すみません、お待たせしました」


 と俺の担当の職員が、紙を片手に戻ってきた。


「こちらが今回の検査結果になります。仮免許取得おめでとうございます」


「仮免許?」


「ええ、説明いたしますね」


 職員は、俺が何もわかっていないのを察し、丁寧に話し始めた。


「本日していただいた基礎検査項目を受けていただくと、勇者組合より勇者仮免許を取得することができます。まあ、なんというか、記念品のようなもので、仮免許は一般の方誰でも取得できるものです。仮免許取得後、次の実践演習を行い、それに合格いたしますと、本免許取得となります。本免許を取得していただくと、正式に勇者組合のリストに名前が載り、組合が受けたクエストを受注することができるようになります。ユーキ様は、この次の実践演習をお受けになられますか?」


 なるほど。仮免までは商売なんだな。勇者組合が発布してる免状がもらえると。職業勇者となると、次の実践演習をクリアする必要があるらしい。受けないわけにもいくまい。


「はい。受けさせていただきます」


「わかりました。実践演習といいましても、演習ですので命を落とすまでのことはありませんが、怪我は負う可能性が出て参ります。そちらの保証はいたしかねます。演習の参加と、先の説明にご了承してくださる場合は、こちらにサインを」


 職員の示す場所に、ゆうき、とサインする。


「では次に、ユーキ様は現在無職でして」


「はい」


 と少し情けなくなり答える。


「検査結果がこちらにあります。私のほうから、ジョブの説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 と職員が優しく微笑んだ。

 何だこの人。俺が何もわからないのをすぐに理解し、丁寧に優しく説明してくれている。優しい。


「お願いします」


「剣術の経験がないということで、ソードマンやグレードシールドはなかなか難しいかと。身体能力テストの結果を見ても、レンジャーやアーチャーも厳しいかもしれません。ヒーラーは、教会での洗礼が必要となりまして、ですが、ユーキさん、こちらの魔力量測定の数値をご覧になっていただきたいのですが」


 と職員が指で示す。

 魔力量測定。あのインフルエンザのやつか。

 850、と書かれている。高いのか、低いのか。


「これはかなりの数字でして。本年度の、同様に測定を受けられた勇者資格受験生のなかでも、上位4%に入る数字です。検査結果をみたところ、ユーキ様はソーサラーが向いているのかなと」


「え、まじっすか?!ソーサラー、いいですね!」 


 年甲斐もなくテンションが上がる。魔法使いだよな?まさか、炎とか雷と、だせちゃうのか。


「ソーサラーと一概に言いましても、とくにこのジョブは枝分かれしていまして」


 職員が別の紙を取り出す。

 紙の上半分に『+』とあり、火や水、雷などなどが書かれている。紙の下半分は『−』とあり、毒、呪いなどなどが書かれている。そして、その枠外に『無』と書かれた欄もある。


「魔力も大きく正と負の二つに分かれているのですが」


 と職員は一度溜めると、紙に書かれた『無』の欄を指差し


「ユーキ様の魔力系統は、正負ではなく、『無』になります」


「無、無、ですか」


「え、ええ。みなさん大抵どちらかに振り分けられるのですが、これはもう、生来のものと、それと、えっと、人生経験の結果がでてくるものでして。むしろそれが逆に個性になっているというか、『無』はかなり稀であることは確かです」


 と職員がなんとかフォローする。

 心が痛い。俺は魔力にすら個性がないのか。まあいい、と『無』の欄を見る。

 占星術、瞬間移動、精神感応、魔力付与


「一つずつ説明いたしますと、占星術、はそのままですね。水晶などを使用し、大まかな未来を予測します。占星術師になりたい方にはおすすめですが、職業勇者の方にはあまり、というか全く人気がありません」


 そりゃそうだ。戦闘に必要がない。瞬間移動、これはなかなかいいんじゃないの。


「瞬間移動、テレポーターとも言いますが、移動範囲がせいぜい10数メートルと限られていること、かなり魔力を消費すること、少しタメが必要なこと、遮蔽物があると使用難度が上がること、自在に操るまでには結構な訓練が必要なこと、といったマイナス点が結構あります。一時期は話題になった魔法ですが、今は人気がありません」


 ほぼ、というか説明の全てがマイナス点である。名前の響きほど使い勝手は良くないようだ。


「精神感応ですが、テレパスとも呼ばれていますね。相手の心に自らのことばを直接送ることができます。極めれば同時に何人もに命令を送ることができます。指揮官タイプならいいかもしれませんが、直接戦闘に加われる魔法ではないのと、瞬間移動と同様に自在に操るまでには結構な訓練が必要なこともあって、こちらもあまり覚えようとする方はいませんね」 


「ふむふむ」


 と相づちを打つ。

 ここまで全部人気がないんだが?


「最後の魔力付与ですが、こちらは他の三つと違い、すぐにでも使用できます。ただ」


「ただ?」


「同系統の魔力にしか付与できません。なので、火や風、毒といった、別系統のソーサラーに魔力を付与することはできません」


「つまり、この『無』の欄の魔法使用者にしか、魔力を付与できない?」


「そうですね」


 占星術、瞬間移動、精神感応。

 誰に付与するんだよ!

 枠外に、『※治癒』とあった。「これは?」と指差す。


「治癒、ジョブとしても分かれているのですが、ヒーラーですね。ヒーラーも魔力を使用することはするのですが、こちらは洗礼が必要になります。洗礼を受けた瞬間から、魔力は強制的に『無』となり、さらに聖なる力も帯びます。だたの『無』ではなく、『無(洗礼+)』といった、変な表記になりますが。ヒーラーはかなりの魔力コントロールと知識が必要なこと、そもそも洗礼を受ける機会を持つことができないこと、など、とても貴重な職となっています」


 へえ。ララのやつ、かなり貴重なんだな。どっちにしろ俺には無理だ。魔力付与はすぐにできるらしいので、とにかく、俺が選べるのは

 

 占星術、瞬間移動、精神感応

 

「どれもすぐには難しいですよね」と苦笑いで職員を見ると「そ、そうですね」と職員もぎこちなく笑った。


「なにもできないんですが、実践演習は受かるでしょうか?」


「お一人では難しいかもしれませんが、パーティで行動するのであれば、大丈夫かと。みなさん即席なり縁故なりで、3〜4人のパーティを組んで実践演習に臨むと思いますので」


 そうなのか。ララとノアに付いていけば大丈夫か。

 ララとノアに。

 大丈夫か?

 背後から肩をぽんと叩かれ、びくりと驚く。


「何、ソーサラーになるの?」


「なんだ、ララか。俺の魔力系統は『無』らしい」


「あら、私と同じじゃない」


「ヒーラーと違って、なんもできねえぞ俺は」


「あんた、誰とパーティを組むと思ってるの。私についてきなさい」


 とララはやはり謎の自信に満ちあふれている。まあ、付いてくほかないんだが。


「丁寧な説明、ありがとうございました」


「いえ、そんな。では、仮免許取得ということで勇者カードをお渡ししますね」


 職員からカードを渡される。 

 いつとられたのか、顔写真と、隣にはジョブとレベルが書かれている。無職レベル1、と。また『無』だよ。


「裏面を見ていただいて」


 と職員がカードを裏返す。

 表と同様レベル1、と書かれており、その隣に、筋力、俊敏性、剣術、魔法、魔力量、その他特記事項、といくつかの項目が列挙されている。レベルはやはり1、筋力F、俊敏性G、剣術G、魔力量850と書かれており、魔法と特記事項は空欄になっている。


「ステータスは、A〜Gでランク分けされています。現在初期値ですので、Dであればかなり優秀ですね。レベルは、選んだジョブとしてのレベルです。無職ということで1となっておりますが、初期値が高いと初めから数値が加算されレベルに反映されます。もちろん、クエスト達成、モンスター撃破などでも経験値として反映され、レベルが上がります。レベルとともにそれぞれのステータスも上がっていきます。ユーキ様ですと、ソーサラーを選んでいただければ魔力量を鑑みてもいくらか高いレベルからスタートになると思います。実践演習後に再度更新されますので、そのときに反映されます。魔法もその際にランクとして現れます。特記事項は資格であったり、それぞれ選んだジョブの特殊なランクが書かれていたりします。以上が実践演習前の説明になります。なにか質問はございますか?」


 F、G、G。最低ランクではないか。実践演習も聞いている分にはそんなに危険もなさそうだし、本免許後にまた面談があるとのことで、とりあえず試験に臨むか。というより、後ろの込み具合が気になるところである。結構説明待ちの受験者が並んでいた。俺でめちゃくちゃ時間がかかっている。こんなにも何もしらない受験者もいないだろう。


「いえ、ありがとうございます」


 と席を立った。


「うお、ノアもいたのか」


 ララの隣に、ノアも立っていた。

 ノアは、無言でこくりと頷く。


「行くわよ!」


 としゃかりきにララは歩き出した。


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