勇者仮免を取得する。
さて、残った最後の項目、魔力測定検査。ララはヒーラー職用の検査があるらしく、俺とノアの二人で魔力測定検査の場所へ向かう。
病院のような待合室に、ちらほらと受験者が待っている。ノアとちょこんと端に座る。
「ノア、大きな盾持ってるけど」
俺が話しかけると、こくりとノアが頷く。
「ジョブは?」
「グレードシールド」
とノアはぽつりと答えた。そして、俺に訊ねる。
「一号は?」
「俺は部下一号じゃねえ!ゆうきだゆうき!ちなみに無職だ」
と俺はララを真似てか、胸を張った。
「大丈夫、ユーキ。今から見つかる」
ノアは、憐憫の目で俺を見た。
優しさが心に痛いよ。
「リン様、ノア様、ユーキ様、どうぞ」
白衣の職員が、バインダー片手に名前を呼んだ。
俺とノアは、のそりと立ち上がる。
もう一人、俺たちが立ち上がるのを待ってか、分厚く裾の長いローブを引きずるように褐色の女が立ち上がった。肩口まで伸びた茶色い髪の毛は、ウェーブがかかっている。頭からは耳が二つピンと出ている。獣人というやつか。淵のない小さな丸めがねを鼻に乗っけるようにしてあり、その奥の大きな目は、マツエクをしているからか、さらに大きさが際立っている。ギャルだ。髪型やらマツエクやらはギャルなんだけど、服装やメガネが、鍋をゆっくり回していそうなオールドスタイルの魔女という。なんともアンバランスというか、何かが反比例しているようなよくわからない矛盾感のようなものを感じる。さらに、ギャルにしては、先端が星型のかわいらしいステッキを持っている。子どものおもちゃのような造形だが、銀製で、質がいいのか謎の重厚感がある。まあ、ギャルってかわいいもの好きか。
俺とノアが、そのギャル獣人よりも先に案内された部屋へと入っていく。
「あ、リン様が先で」
と職員に言われ、そのギャル獣人、リンに道を譲る。
リンは、ややきょろきょろと緊張した様子で、無言で俺とノアの前を通り過ぎる。
緊張するタイプのギャルか。
病院のような間仕切りの白いカーテンがあり、リンが先に通される。
カーテンの向こうから、声が聞こえる。男の声だ。
「はーい、ちょっと奥までいれますねー」
なんだ。何をしているんだ。
「ふご、はがっふっ」
とギャル獣人リンの小さな呻き声が。
なんだ、なんだ!?
「はい、オッケーです」
と終わりを告げる男の声。何がオッケーなんだ!?
「次、ノア様」
と白衣の女がカーテンから顔を出すと、呼んだ。
ノアが、こくりと頷くと無言でカーテンの向こうへと入っていく。
再び男の声。
「ちょっと開いて、はい、奥までしますね」
「はっはあ、ふごっ」
ノアの小さくうめく声。
「はいオッケーです」
何がオッケーなんだ!?
「次、ユーキ様」
白衣の女の声に、俺は「はい」と立ち上がり、間仕切りの向こうへと入っていく。お尻がきゅんと締まる。
メガネをかけた白衣の男がいた。聴診器を首にぶら下げている。
「はい、どうぞお座りください。魔力測定検査しますね〜」
「はあ」
と俺は丸い椅子に座り、男のアクションを待った。
男は、何やら綿棒のようなものを取り出し、俺の鼻へとそれを伸ばす。これって。
「はい、奥までいれますねー」
鼻に棒をつっこまれる。ごりごりと、奥の方が削られるように。
「ふがっ、んんが」
ツーンと鼻奥が痛い。涙がでる。
インフルエンザじゃないよな?
「はい、オッケーです」
何がオッケーなんだ。
そばで立っていた白衣の女が言う。
「これで検査基礎項目は終わりです。一階の広場で、検査項目の不備がないかの確認と簡単な面談を行って、最後の実践演習に向かってもらいますね」
とのことで、階段を下り一階へ。
反復横跳びとかの検査を行った大部屋だ。それぞれの器具は撤収されており、横に長い折りたたみのテーブルが並べてあった。席がいくつもあり、受験者が職員と一対一で面談のように話している。一応席と席の間には簡易の仕切りがしてあり、ブースのようになっている。
「どうぞ」
と空いた席の職員に呼ばれる。
右の席にはノアの、左の席にはさっきの獣人ギャル、リンの背中があった。