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二人のプリンセス。


「ユーキさん、ルルの様子はどうです?」


 下に聞こえないように、小声で、やはり機械的に、ダヤンさんは問うた。


「それは、王としてですか、親として、ですか」


 俺が問い返すと、ダヤンさんは、ふむと考え込む。

 その様子に、ブブさんがけらけらと笑う。


「珍しいな、お前が悩むか、ひひひ」


「どちらも、と答えておきましょう」


 また、なんとも言えない答えであるが。


「子が喜んでいる。親としてはいいんじゃないかなと」


 と俺も曖昧に答えた。王としては、ルルがまず外にでないと行けない。

 下を見る。

 缶蹴りも一段落したようで、ララが問う。


「ルル、外には、行かない?」


 ルルは首を振り、俯く。


「怖いのよね。私が、私のせいで」


 ララが、ルルの手を握る。

 俺とダヤンさんとブブさんは、上階から二人の様子を伺っていた。ブブさんの方を見て、説明を求める。


「昔ララがこっそりルルを外に連れ出してな、怪鳥が襲ってきて、危うく連れてかれそうになった。運良くか様子を伺ってたのかは知らんが、ダヤンが現れて怪鳥を追っ払ったってことがあった」  


 ふーんとダヤンさんを見る。特に反応はない。


「ねえねと、パ、パパもいるなら」


 ルルの答えに、ララがぎこちない笑顔をつくる。ダヤンさんは、ぴくりとこめかみを動かす。

 静寂が、誰かの行動を待っていた。あと一押しなんだが、どちらもプライドが高いと言うか、意地っ張りと言うか、やっぱり親子なんだなと思う。ララとダヤンさんは、互いにその存在を認識している。が、どちらか一方が他方を見ることはあっても、双方が、互いが目を合わせることをしない。それは、王の間のときからそうだった。二人の間に何があったのか、もともと性格の不一致があったのだろう、たぶん、ルルのことで散々喧嘩したのだろう、だが、今どちらかが歩み寄れば、ルルは外に出られる。

 ララは、意を決したように息を吐くと、こちらを見上げた。そのとき、ようやく二人の目が、合った。


「お父様。ご指名です」


 ララのことばに、ダヤンさんのこめかみが、やはりぴくりと動いた。

 ルルも、ララの視線にこちらを見る。


「パパ!ブブも!」


 と屈託のないルルの笑顔があった。


「お前の負けだ、ダヤン」


 ププさんが言うと、ダヤンさんはすっと上を見たかと思うと、ゆっくりと階段を下りて行った。 

 もう、ダヤンさんとララが目を合わすことはなかった。ルルの笑顔のもとに、三人の形があった。扉を出る。相変わらず、大気は暗雲としていた。だが、ルルはとびっきりの笑顔だった。二人は、ルルを守るように、開いた冥界の方へと向かって行く。ルルが、ふと振り返る。


「みんなも、行こ!」


 ノアとリンが続く。俺とブブさんも、みんなに続いた。

 冥界の穴の前までやってくると、ルルはいくらか怖じ気づいた。それだけで、ぐにゃりと空間が揺れる。それほどルルの魔法は強力に空間に干渉するのだ。冥界の穴からは、未だに屍鬼や大蜘蛛などのモンスターが出てくる。ルルと、ララと、ダヤンさん。三人を守るように、リンとノアが敵を倒して行く。


「ルル、大丈夫よ。安心して」


 リンとノアだけではない。エルフの方舟が上空から下りてくると、隻腕の帝が船先にあった。「ララ、無事で何よりだ。ブブ、ダヤン、久しぶりだな!知らせを受けて、勝手に助けに参った。許せ、ダヤン!」


「いえ、私も総意を待たずに早計でありました」


 とダヤンさんは、お辞儀をする。

 ケンタウロスの族長が、「王族お揃いで。仲間のララ殿の窮地に我々いてもたってもおられず。ん?プリンセスが二人?」と訝しげながらも、何か納得したように頷くと、やはり敵に突っ込んで行く。エルフやケンタウロスらによって敵が蹴散らされると、ルルも安心したようで、空間のゆがみも消える。


「みんな、強い。ルルを守ってくれる」


「うん!本当だね!パパがみんなを呼んだの?」


「違うよ、ねえねだ。パパは何もしていないよ」


 ダヤンさんのことばに、ララが言う。


「恩着せがましいのは嫌いよ。あなたの政治があっての結果よ」


「ふん、私だけではこうはなるまい」


 と双方そっぽを向く。

 ルルは、きょろきょろと二人を見ると、「喧嘩してるの?」と心配そうに訊ねた。

 後ろで、ブブさんが笑いながら言う。


「いつも通りだ、心配すんなルル。さーて、時空間魔法のご鞭撻はじいじに任せてもらおうか」 


 ブブさんがルルの背中に手をやる。


「ルル、今度は、ルルがみんなを守ってくれるか?」


 ダヤンさんが問うた。ルルは、不安そうな表情を浮かべる。


「大丈夫、ルル。私たちがいる」


 ララは、ルルの手を強く握った。

 ルルは、「うん!」と強く頷く。


「ルル、あの黒い穴を見ろ。それを閉じるイメージだ」


「わかった、じいじ」


 ルルは、真っすぐに冥界の方を見た。


「行くぞ!」


 とブブさんがルルの背中についた手に力を込める。

 冥界が、ゆっくりと、閉じて行く。ゆっくりと、ゆっくりと。

 ルルの息づかいが荒くなって行く。


「頑張れ、頑張れ、ルル」


 ララが祈るようにルルの手を握る。ダヤンさんもまた、ルルの手を強く握っている。

 すっと、ルルが倒れた。

 ダヤンさんが、受け止める。


「ルル!ユーキ、こっちに!」


 俺はララに呼ばれ、ロッドを渡す。ララの背中に手をつき、魔力を流し込む。ララが、ルルにヒールを施す。

 ルルが、「ねえ、ね?」と目を開く。雲の隙間から太陽が覗くと、スポットライトのようにルルとララを照らす。やはり、当たるところに当たるようになっているらしい。


「ふう、もう大丈夫じゃ」


 ブブさんが、額を拭った。そこにすでに空間の穴はなく、冥界が閉じたことを示していた。


 城の周りは、沸きに沸いていた。 

 6年ぶりにプリンセスが姿を現す。それも、数日前に冥界を閉じたのはそのプリンセスらしい、と。それまでプリンセンスを人柱にしようという案にいくらか賛同もあったらしいが、まあこの民意の変わる早さはどの世界も変わらないというか。

 頑固にも修道服で出るというララと、正式な服を切るべきだと言うダヤンさんの冷戦はあったが、ララはかたくなに譲らなかった。その代わりというか、ルルは、きらびやかなドレスを着ている。つまり、だ。

 観衆の前に、ララが出た。歓声が上がる。ララは、後ろを振り返り、ルルを手招きした。

 ルルは、よろっとこけそうになりながらも、ララに支えられ、観衆の前に出た。驚きの声はあったが、すでにそれは歓喜に変わり、波となって国中を沸かせた。二人の英雄は、すでに古い禁忌を打ち破っていた。



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