缶蹴りする。
広間の中央に、缶を置く。
「いいか、鬼は一人だ。誰かが缶を蹴飛ばすだろ。鬼はそれを拾いに行って、もとの位置に戻す。その間に、鬼以外は隠れる。鬼は、隠れたやつらを探しに行く。探してるときに、ほかのやつに缶を蹴られたら、鬼の負けだ。鬼は、見つけたら、相手よりもさきに缶を踏まないといけない」
「ああ、ホールタッチね」
ララが、心得たように言った。
「ホールタッチ?」
「丸い円を書いて、子が隠れる。鬼は、子を見つけて子よりも早く円にタッチするの」
「うちも知ってるよ」
「ノアも」
とどの種族にもどの世界にも似たような遊びはあるようで。ルルは、わくわくとみんなを見ている。
「なんだ、あんのか」
「これね。缶っての。これを使うのはいいじゃない。面白いわ。さあ、蹴るわよ!ユーキが鬼よ!」
「はあ!?」
まあいいんだけど。
ララが缶を蹴飛ばす。高そうな像に当たる。俺は缶を拾い、もとの位置に戻す。
この間10秒もなく。
「短すぎるわよ!」
とララを筆頭に全員から苦情が。
「悪い悪い。蹴るのはいいや。30秒数えるから、適当に隠れろ。はい、イーチ、ニーイ」
目を瞑り数えながらに、会話が聞こえる。
「ちょっと、ルル、リン、付いてこないで!一網打尽よこれじゃ!」
「だって、ねえねと一緒がいい!」
「うちもうちも!」
「ここは戦場よ!ほら、離れて!」
うーむ。女子っぽい。ノアは一人隠れているのだろう。
「30!」
数え終わり、辺りを見渡す。
リンのローブの裾が、銅像からすっと隠れるのがちらっと見えたが、かわいそうなので後にしといてやろう。
椅子の向こう、ぬいぐるみの背を慎重に見る。が、いない。仕方がねえ。後にしようと思ってたが、やっぱりとりあえず。
「リン見っけ」
「あっ!」
と銅像の向こうのリンを見つけ、缶を踏む。ローブの裾を踏みこけそうになっている。
「なんでバレたの」
とリンは落ち込んでいる。
さて、あと3人。
柱の向こうを見ようと缶から離れる。反対の柱から、ララが出てくる。この距離は、ミスだぜ、ララ。一瞬早く、俺が缶を踏む。
「くそっ」
とプリンセスとは思えない言葉遣いで、ララは言った。
さて、ララがあの柱にいたということは、多分。
ララがいた柱の影を覗く。
ルルが、やはりいた。離れられなかったようだな。
「み、みつかったあ!」
とルルが走り出すが、俺は圧倒的早さで缶を踏む。
「大人げないわね」
「戦場に年齢はないんだよバーカ」
さて、あとはノアだ。
ごとりと、入り口の方で音がした。
柱の影にあった大盾が、何かの拍子に倒れた。
あそこか、と向かう。いや、違和感がある。わざとらしすぎる。柱まで行かずに、はっと、反対側を見る。
ノアが、走ってくる。
「ノア!早く早く!」
走り出したノアに、リンが言った。
「頑張れ!ノアさん!」
とルルも声援を送る。
トラップか。ノアのやつ、エルフの王族出にしては慣れてやがる。が、俺のほうが一枚上手だったようで、ぎりぎりのところで先に缶を踏む。
「はっはっは!雑魚どもが!」
「鬼役がお似合いねユーキ」
「次はリンが鬼だな」
「うちかあ」
と渋々リンが数を数える。
さて、リンが鬼の番で、事件が起こった。俺はひっそりと階段の影に隠れていた。缶からかなり遠い。これは、缶を蹴りたい、というよりは、鬼になりたくない、という消極的な隠れ方だ。さすがに30歳なので、同じ手を何度も使おうとは思っていないが、童心に帰った気持ちで、最後の一人になったという興奮を、みなが見つかって行くなか一人密かにほくそ笑む快感を、ふと思い出してしまったがための選択である。まあそれはいいのだが、リンの怒ったような声が響く。「ノアが魔法使った!今のはなし!」
「ダメって言ってない」
「みんな使ってないじゃん!せこい!」
喧嘩しだしたので、渋々出て行く。
「どうしたのよ、あんたたち」
とララもちょうど出てきたようで、二人に尋ねた。ルルは、恐る恐るリンとノアを見ている。
「いつものことだから」
とララはルルに言った。
「うちがノアを見つけて缶踏もうとしたら、ノアが風で缶を飛ばしたの!」
「ノア、本当?」
ララの問いに、ノアは目を逸らした。ララはため息をつき、「魔法禁止!わかった?」と言った。
さて、缶蹴りが再開する。
俺は、やはり階段の影に隠れる。
声が聞こえる。ふふふ、ノアが捕まったな。ララとルルも、捕まったらしい。
「ユーキどこお?」
とリンが困った感じで探しているのがわかる。ははは、なんだこれ。おもしれえ。まさかこんな遠くに隠れてるとは思うまい。ちらりと様子を覗く。リンめ、ローブを脱いでいる。あいつ、自分のスピードがチートなことわかってんのか。
リンが、とうとうこちらに近づいてくる。
「ユーキ、見っけ!」
と余裕しゃくしゃくで、リンは缶のほうへと走って行く。
ふと、いたずら心が沸いた。
怒るだろうか。怒るだろうな。ははは。
俺は、缶の側を見て、集中する。
その手前で、余裕綽々のリンが、鼻歌まじりにいた。
缶のそばにテレポートすると、「ひゃっぽー!」と思いっきり缶を蹴飛ばした。
「あ、あああああああ!」
とリンが、俺を指差して、ことばにならない声を上げた。
ノアがほくそ笑んでいる。やべえ、おもしれえ。
「ユーキ、あんたねえ!」
ララが、肩を怒らせてそこにいた。
「すみません」
ララのとなりで、ルルもけたけたと笑っている。この子も、ノアや俺よりのタイプなのかもしれない。
リンはローブを着て、魔法はなし。ルールの追加をし、缶蹴りが続いた。30歳にはそろそろきつい。ふと、上を見た。上階のスペースに、ダヤンさんとブブさんが、俺たちを眺めるようにいた。俺は、缶蹴りを抜けさせてもらい、二人のもとへと向かった。




