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武器を入れ替える。


 はっと目を開けると、森の中だった。膝に手をつき、ぜえぜえと息荒いブブさんが、前方を指差し言う。


「っつ、前を、はあ、行け、この森を抜けた先に、ララが、いる」


 空は暗く、雷が近くで落ちた。空の一部がぐわりと開いている。暗い空にあって、その一部は、何種類もの黒をぐにゃりとまぜたような色をしている。

 木々を縫うように走る。走りながらに、怒りが沸いてくる。冥界の敵にか、あの王様にか、何も言わず全てを背負おうとしているララにか、もしくは、18歳の女の子に全てを背負わせんとしている、この世の不条理にか。

 違う。

 たった数日だ。たった数日の関わりだ。だけど、俺は、ララに助けてもらってばかりで。ルルが原因で俺はこっちに来てしまったのかもしれない。だがな、ララ、お前に会わなかったら、俺は野盗に殺されてただろう。日本じゃ泊まれないような高級ホテルにも泊まれなかっただろう。魔法を使うなんてこともできなかっただろう。人を救うことなんて、できなかっただろう。リンと仲良くなることもなかっただろうから、ギャルは全員ノー天気で悩みのない生き物だと勘違いしたまま生きていたことだろう。随分年下のノアにくだらないいたずらをされて、謎の癖を発症することもなかっただろう。ララを、誰かを支えたいと思うこともなかっただろう。

 勇者になることも、なかっただろう。

 俺は、この世界にきて、お前の大きな背中を見て、安心したんだ。お前に会えて、お前と旅ができて、嬉しかったんだ。お前に、何も言えていない。お前の背中を、守ることができていない。そんな自分が、何よりも、くそ、くそ、くそ、あああ、ムカつくんだよおおおお!

 木々が開ける。 

 空に開いた穴が、随分近くにあった。

 雷が、そのそばで再び落ちる。

 向こうに湖が見えた。その手前に、ごちゃごちゃと影が、何かを取り巻くように蠢く。

 視界を遮る黒い影があった。その影よりこん棒が振り下ろされる。

 人の体の二倍はあろうかと思われる大きさ。トー婆さんの魔法空間で見た、この時代にはいないはずの屍鬼だ。屍鬼の振り下ろすこん棒を、帝より授かった盾でノアが受ける。盾から風がぶわりと噴くと、こん棒が弾き飛ばされる。

 視界の先に、大蜘蛛がいた。二体、三体と。


『エターナル・フレーム!』


 リンの声が響く。

 炎が、今や中火と言えるほどになった炎が、大蜘蛛に向かって行く。

 大蜘蛛の一体に当たると、どさりと倒れた。

 見えた。

 視界が、その先が、開いた。

 どす黒く変色した湖の手前、幾何学模様の円陣が光っている。その、円陣の真ん中にいる丸まった小さな背中。

 お前の背中が小さいなんて、らしくねえだろう。

 てめえが俺をもとの世界に返すって言ったんだろうが!やっぱり、お前が悪いんだ! 一人でどこ行く気だ!


「ララぁ!」


 テレポートする。

 その大きいはずの小さな背中が、そこにあった。

 びくりと、ララが丸まっていた背筋を伸ばした。


「おらああああ!」


 とばしりと背中を叩く。


「いったいわね!」


 しかし、ララは振り返ることはない。声が、鼻声だが。


「風邪でも引いたか」


「睫毛が入っていたいのよ!」


 とララが振り返った。涙が、ぽつりぽつりと流れている。


「ひひひひひひ、何泣いてんだ、はははは」


「うるさい!なんで来たのよ!国が崩壊するのよ!」


「知らん、俺のエゴだ」


 ララは、口ごもる。

 辺りを見渡す。

 屍鬼、大蜘蛛、マッド、こん棒を持った一つ目の巨人、超でっかいトカゲ、剣を持った骨の兵士、空には怪鳥、色とりどりの冥界に封印されていただろう敵が、大きな幾何学模様の円陣の周り、つまり俺たちを囲んでいた。


「とりあえず、逃げんぞ!」


 ララの手を掴む。

 ララは、はっと俺の手を振りほどく。


「ダメ、ダメよ。今私が逃げれば、多くの人に被害が」


「ララ、ルルがいる。ルルが、お前を待ってるんだ」


「なんでルルのことを知って、いや、あの子は、不安定なの。私が、犠牲になれば」


「お前が犠牲になれば?違うだろう。お前がいれば、ルルも立ち上がれるんだ!ルルが、お前に会いたいって、ねえねはどこだって!」


 はっと、ララは俺を見た。


「俺がお前を救ってやる!だから、お前はルルごと国も救ってやれ!」


 無理くりララの手を握り、辺りを見る。周囲にはやはり有象無象の敵がおり。ダメだ。テレポートしようにも、これだけ敵が多いと。


 そのとき、空が轟々となると、その暗雲を吹き飛ばすほどの強い風が噴いた。


「ふ、船!?」


 上空に漂う木の船があった。


「あれは」


 とララは、その船に目を細めた。

 船から、ふわりと風に舞うように、見覚えのある影が一つ、二つと下りてくる。

 ぶわりと強い風が吹くと、辺りのモンスターがいくらか弾ける。


「エルフの方舟よ!」


 ララが、驚きのなかで声を上げた。


「プリンセスララ、助けにきたぞ、下界もいいものだな!ははは」


 長い耳、白い肌、俳優のような顔立ち。ノアの兄、トモ様だ。悪気なく下々を馬鹿にする様は、セノに似ているなそういえば。その隣には、あのいけ好かないジンもいる。

 森の中を、今度は凄まじい足音が響いた。

 ケンタウロスの一軍が、「うおおおおお!ララ殿はどこだああああ!」とやはり猪突猛進に駆けてくる。


「エルフに、ケンタウロス。みんな、お前を助けにきたらしい」


 ララは、袖で顔を拭くと、はっと大きな息を吐き、顔を上げる


「で、ユーキ、剣は?」


「あ」


 ととぼけた顔をする。ノアの剣は、ノアが持ったままである。


「あんたねえ」


 と呆れ顔のララの手を再度握る。

 道が開いた。ノアとリンの姿が、見えた。

 ララの手は冷たい。それを温めるように、しっかりと、握る。


「行くぞ」


 俺が言うと、それに答えるように、ララは俺の手を握り返した。

 テレポートする。

 リンとノアの間に。

 ノアがケンタウロスたちに続き突っ込もうとしていたので、「こら、待てノア!」と止める。ぶすっとしたノアであったが、ララの顔を見て「ララ!」といつもの5倍の感情を込めて言うと、ララに抱きついた。


「ララちゃああああん!」


 とリンもララに抱きつく。


「ごめんなさい、二人とも。勝手をしたわね」


「おいお前ら、戦場だぞ。ほれ、ノア、剣をかせ。大盾も一旦置いとけ」


 俺がノアの剣を催促すると、ノアはぶすっとしながらも大盾と剣を渡した。


「リン、ローブ脱げ、杖を渡せ。ララの十字を持て」


 とリンもまた俺を睨みながらも、ローブを脱ぎ十字を持った。

 杖をノアに渡す。

 剣をララに渡す。


「うし、行ってこい!」


「楽なポジションね!」


「ララ、セッティングが一番大変なんだよなあ」


「はいはい」 


 とララが、剣を片手に走りだす。


 リンも続く。


 ノアが、『テンペスト』と唱えると、風が舞い、敵が散って行く。


「おや、パーティに遅れたかな」


 はっと振り返ると、セノがいた。勇者らしきものを10人ほど従えている。


「セノ。ありがとう」


「いやいや、プリンセスは、助けるものと相場が決まっているからね」


 ときざに言い、剣を構え敵に向かっていく。

 モンスターが、次々と倒れて行く。

 問題はこの後だな、と一抹の不安を覚えながらも、その場の優勢とララの気丈な態度に、それでも今は、これで良かったと思った。

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