バンフレートにて、二人して旅行気分になる。
道中のララに話を訊く。
ララいわく。
この世界にはモンスターがいて、それを退治する職業がある。それが勇者で、勇者を取りまとめているのが勇者組合。この東の森は比較的モンスターは少ないらしく、勇者の出入りも少なかったり、護衛なしに往来する人が多かったりして、逆に野盗が増えていて問題になっているという。ララは、ここよりさらに東にあるイリリア教会というところから来た。世のため人のためと、教会から勇者になれる逸材が出れば勇者資格を取らせているらしい。ララもその一人だが、教会から勇者になる修道女はヒーラーが常であるが、ララの場合は剣の腕がなぜか立った。ヒールはからっきしだという。
「そして、私は、勇者として成り上がり」とララは一度ことばを止める。充分に、ないスポットライトが当たる時間を溜めると、「ゴージャス絢爛な教会を建てるのよ!」と天にその丁寧に梱包されたロッドを突刺した。
「いや、教会でゴージャスって」
「新時代よ。教会もゴージャスにいかないと」
「そのロッドは」
「シスターにもらったのよ。とっても高いのよ」
なんて嬉しそうにロッドを抱きしめる。そんなんじゃ金があっても使わなそうだが、ケチで貧乏臭い教会を建てそうである。
そうこう話しているうちに、木々が開け、街が見えた。コバルトブルーの湖を越えると、街の手前に馬車の停留所が円を描いてあった。中世ヨーロッパのような格好をした人々が、賑やかにいた。大きな鞄を持っている人も多い。
そこを過ぎると、賑やかな一筋の通りがあった。タイル状の道路はなんとも情緒に溢れ、両脇に並ぶ露天には活気があった。遥か向こうには雄大な山々があり、街はだだっ広い平原に囲まれていた。
「イルダビア王国東の街、バンフレート。昔話の舞台にもなった観光地でもあるわ」
とルンルンとララは歩き出す。確かに、大自然に突然現れた賑やかなストリートは、異世界にいながらもさらにどこか浮き上がったように日常からかけ離れた高揚を齎す。なんだろう。いるだけで楽しい。
賑やかで活気に溢れた市場を抜ける。
「裏路地も楽しそうよ、ユーキ」
とにこにことずこずことララは歩いていく。
細い通りがあった。両脇にはびっしりと飲み屋が並んでいる。また開店するには早い時間に思えるが、それでもちらほらと店が開いている。飲んべえが昼間から飲んだくれている。恨めしそうにララと俺は通り過ぎる。いかんいかん。俺たちは、そうだ。勇者になりにきたのだ。勇者になる?まあいいか。
飲み屋の通りが終ると、突き当たりに細長い川が蛇行していた。川沿いにはいくつもの露天が出ており、観光客が何人も歩いている。ビールを片手に歩く客とすれ違う。露天の一つで、ビールを売っていた。
秋風はあるものの、日は明るい。
昼間の、ビール。
ビールは万世界共通らしい。
「い、一杯ぐらいいいかしら」
とララが、ごくりと唾を飲み込む。
「い、一杯ぐらいいいよな」
と俺はララと顔を見合わせる。
「うっまああい!」
口の端に小さな泡をつけ、ララは言った。
「うめええええ!」
と俺もビールをぐびりと飲んで言った。
なんでこんなにも旅先のビールはうまいんだ!
なんか一緒に売っていた小魚のフライも食べる。
ああ、うめえ。
ビールをあっという間に飲み干すと
「土産屋があるわよユート!」
「おう!」
と店に入っていく。
物産もあるし、旅はがきみたいなのもあるな。
「これはシスターに、これは修道院のみんなに」
とあれこれカゴに入れているララに、言う。
「ララ、けちらねえんだな」
「ユーキ。覚えておきなさい。旅行先でケチるのは、ただのバカよ。ふふふ。これも買っちゃおうかなあ」
ほう。こいつ、ただのケチではないようだ。いいことを言う、なんて感心して俺もお袋とかわいい姪っ子のためにお土産を選ぼうと物色する。
はたと手を止める。
「旅行中じゃねええ!」
はっと、俺のことばにララもぽとりとカゴを落とす。
「それもそうね」
いそいそと商品を棚に戻し、さすがのララも背中を丸めて店を出た。