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先代の王と居酒屋へいく。

 指定された場所と時間に三人で向かう。道中、「号外号外!」と新聞を配る男がいた。新聞屋は、投げるように配りながら言う。


「冥界が開いて10日以上たつ!つい昨日、冥界に封印されし魔法使いスピリタスと黒い魔法使いたちは、プリンセスの身柄を要求したよ!それを王族が受けた!6年の間顔を見せなかったプリンセスが、とうとう現れる!」


 と新聞を渡される。おいおい、俺を日本に戻してくれるはずのプリンセスが人柱になったらだめだろうよ、とプリンセスの身も按じぬ自分に辟易しながらも、城にいるララは大丈夫かと不安が募る。その不安が、足取りを早くさせる。街の西にある、小汚い通りだった。飲み屋がいくつか開いており、昼から酔っぱらいが歩いている。先代の王がこんなところに?しかし、セノは横柄だが嘘をつくようなやつではない。飲み屋の隅に、頭の禿げた猫背の男がいた。その手に持つタバコを見て思った。この人か。いや、しかし。風貌が先代の王とは全く思えない。だが、この世界にないはずのタバコを吸っている。


「あの、先代の王ですか?」


「ん?」


 と男の赤ら顔がこちらを向く。


「セノの伝手で、お会いできたらと。平田さんからの封筒もありまして」


「おおおお、ヒラタの友達か。はははははは」


 となぜか笑い出し、「立ち話もなんだ、店入るか」と一軒の飲み屋に入って行く。


「だ、大丈夫なの?」


 リンが、心配そうに俺を見た。

「さあ」と種族は違うが同じ王族のノアに訊ねる。


「どうだ、なんか王っぽい感じはあるか?」


「ない」


 ノアはきっぱりと答えた。そりゃそうだ。エルフの王族はわかりやすくみんなザ、王族だったから。


「おうい、行くぞう」


 うきうきした様子で、男は俺たちを促した。俺たちは顔を見合わせながらも、しかし男に付いて行く他なかった。


「何飲む、兄ちゃん。飲めんだろ?」


「じゃあ、生を」


 別に飲みたい気分ではないが、合わせておこう。


「お嬢ちゃんたちは、どうだ、こっち座るか?」


 とにやにや笑う男に、リンは分かりやすく表情を歪め、ノアはじっと目を細めてみた。


「なんだなんだ、そんな警戒するこたあねえだろ。あ、生2、オレンジジュースでいいか?オレンジジュース2つ」


 ドリンクが運ばれてくると、男が「これがうめえんだよなあ」と2、3の料理を注文した。


「ほい、かんぱーい」


 と陽気に乗せられて苦笑いながら乾杯する。リンとノアは全く乗っていなかったが。しかし、これは騙されたか?いや、平田さんを思い出す。平田さんと馬が合うなら、こんな人かもしれない。だが、先代の王がこんな感じってあり得るのか、なんて考えていると


「ララ、どこ」


 とノアが、唐突に訊ねた。


「おっほほ、孫の名前が出てくるとはなあ、なんだ、ヒラタの手紙だとユーキ、お前がニホンに戻るのを手伝えってだけだと思ってたんだが」


 俺は、そこでようやくほっと胸をなで下ろす。ニホンのことを知っている。この人が、先代の王なのだ。


「ええ、そちらもお願いしたいのですが、別件も出来てしまって。ララが」


 とことばを止める。孫?目の前にいるのは、先代の王で、その、


「マゴ!?」


「あれ、これ言っちゃまずいやつだったか、なはははは」


「ブブさんの話は半分で聞きなよ、あんたたち」


 とカウンターの中から、膨よかな女将さん的な人が言った。先代の王、ここではブブさんと呼ばれているようで、いや、そんなことよりも、と新聞屋のことばを思い出す。ララがプリンセスだと、いや、おいおい。

 女将が、ビールを入れながらにことばを紡ぐ。


「昔は大魔法使いだっただの、若い頃の先代の王妃に一目惚れされて婿養子に入っただの、ほんと、ほら吹きにもほどがあるよブブさんは」


 俺はブブさんを訝しげに見る。


「ほんとだほんと!つうか俺がその先代の王だってのよ!嫁いでから怠けたんだ。金もなんもかんもあるもんだからなあ、はっはっは、逆にあいつが女だてらにいいリーダーになった。俺は子どもが出来ても変わんなかったからなあ、周囲の反対押し切って俺なんかと結婚しちまったんだ、なんとかせにゃってもんよ。その結果良い国になったもんさ。息子も今や立派な王さんだ、俺は反面教師として一役買ったのよ、ひっひっひ」


 と酒を飲む。色んな笑い方をする親父だなと思いながらも、疑問がわく。


「ヒラタさんの話では、プリンセスは時空魔法が使えると。ララの少ない魔力では到底使えないはずの魔法。ララがプリンセスというのは、話のつじつまがあいません」


「それは、まあ、少し複雑でなあ」


 ここにきて歯切れが悪い。ブブさんは、何かを誤摩化すように酒を飲む。くそ、いらいらしてきた。


「ララは、冥界が開いたことを気にしていました。今は、城にいるはずです。なんとかララに会いたいんです。お願いします」


「んなこと言われてもなあ、まあ、そのうち帰ってくるだろうよ」


 こいつ!一言言ってやろうと口を開きかけたそのとき、リンがどんとテーブルを叩き、言う。


「ラ、ララちゃんが死んじゃうかもしれないんだけど!」


 声は震え、目には涙が溢れていた。

 ノアも、きっとブブさんを睨む。


「死ぬったって、そこまでのことにはならんだろう。息子も頭でっかちなところはあるが優秀だから、冥界のこともなんとかするさ」


 あまりにも暢気なブブさんに、違和感を覚える。新聞の内容を知らないのか。俺は、号外で配られていた新聞をテーブルにバンと乗せ、意地悪にも突き放したように言う。


「こんな状況でも大丈夫なんですね」


 ブブさんは、新聞に顔を近づけ、にらみ合いっこする。


「こんなことになっとったのか」


 と開いた口が閉じないようであった。

 からんころんと、店の扉が開いた。二人のおじさん客が、入ってくる。


「冥界が開いたってな、6年も姿を見せなかったプリンセスを魔法使いが要求だと」


「ああ、ずっと表に出てこないから、もう死んでると思ってたよ。どうせいないようなもんだったんだ、それで世界が平和になるなら、万々歳だ」


 二人の客の会話に、ブブさんはどんと立ち上がり、両方の襟首を掴み、言う。


「うちの孫がなんだってえ!」


「ブブさん、やめな」


 と女将が間に入る。


「おい行くぞ、ガキども」


 と猫背に丸まった背中であるが、その喧嘩っ早さと怒った背中はなんとなくララのお爺さんだなと思う頼もしさがあった。いや、良くはないんだけども。


「ブブさん、お会計」


「王族につけとけ」


「はいはい」


 と女将はため息をついた。


 怒るブブさんと、俺たちは店を出た。

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