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燃える大盾。

 どうしよう。ララを、リンを見る。

 黒い魔法の装束を来たリンに、さっき海岸に打ち上げられていた黒い鳥の屍体を思い出した。どこで見た。どこかで以前、見たんだ、あの黒い鳥を。エルフの国に入って、ボアと遭遇して、マタ爺の小屋に案内されて、依頼を受けて、村へ向かう。待て、そこだ。マタ爺の小屋を出たときに、森から飛び立った黒い鳥がいた。マタ爺は、宮殿内にいる協力者とどうやって連絡を取っていた?なぜ打ち上げられていた黒い鳥の羽は切られたようにあった?


ーーーその黒い鳥を、ただ、跨いでいった。


 連絡は切れたのに、なぜこんなにもすんなりと侵入できたんだ?

 静寂の中、奥座敷の暗闇よりゆっくりと歩いてくる音が響く。全員の視線が、その闇に集中する。帝の足下が、暗闇より現れる。腰、胸元、まだ顔は見えない。すらりとした右腕が見える。

 まて、まてよ!

 はっと俺は、後方を振り返った。

 と同時に、リンもまた、その殺気を感じたのか、後方45度を振り返る。俺は急いでリンの視線の方向を見る。

 マタ爺が、遥か後方で小弓を構えていた。目がぎらりと壇上を睨んでいる。

 くそ、武器がねえ、いや。


「後ろだ!」


 と静寂のなかを叫びながら、俺はパーカーのポケットにあった缶コーヒーをマタ爺に向かって投げた。


「ぬう」


 と缶コーヒーは、矢を放つ寸前だったマタ爺の腕に当たる。矢は壇上へと向かうが、少し方向が逸れ、かん、と壁に刺さった。

 悲鳴があがる。

 ララが素早く人を避け、マタ爺のもとへと向かう。懐に踏み込むと、二の矢を番える間をあたえずに、肘をマタ爺の腹に打込んだ。ぐうとマタ爺はくの字に倒れる。

 王族の取り巻きたちは、「帝様!」と壇上へと向かう。そのなかに、ノアも心配そうにいた。解決か。マタ爺が、絡新婦だったのか。いや、出会ってすぐのとき、小屋から黒い鳥を飛ばしたあのときまでは少なくとも、マタ爺は普通だったはずだ。


ーーー絡新婦は、人を操る魔法がある。


 誰かが言ったことばを思い出す。

 マタ爺は、操られていただけだ。どこかのタイミングで、操られたんだ。

 絡新婦は、まだ、いる。

 後方から、壇上の騒ぎを見る。後ろからだとわかる。帝に近づくもののなかで、一人、カホ様、トモ様、ノアに隠れるように、しかし、確実に距離を伺うように近づくもの。


「ジンだ!そいつが、絡新婦だ!」


 俺が叫んだと同時に、慌ててジンが右手を突き出し、暗闇の中の帝の胸に向けてきらりと光る何かを射出した。帝のそばにいた女が、その緩やかなスカートのなかより小刀を抜くと、すぱりとその糸を断ち切った。片目の、帝の側付きの、美しい女性。ヒサさんだ。ヒサさんは、落ち着き払った声で言う。


「ジン、お前が乗っ取られていたのか」


 王族たちは、さらに悲鳴を上げ、ジンから離れる。エルフの兵士たちがジンを囲む。エルフ側も、いやに準備がいい。

 ジンは、邪悪に口元を歪ませると、その変声期のかすれた声をこれでもかとかすれさせ言う。「ヒサ、50年前、マタナキにお前がされたように、こいつの片目を切るか?!」

 ヒサさんは、「クテンコウ」と小さく呟くと、しかし冷静に、いや、冷徹に、小刀を構えた。


「待って!」


 ララの声が響いた。ララは壇上へ上がると、「ユーキ、こっちへ来なさい。ヒサさん、小刀を貸してください」と言った。ヒサさんは、あっさりと小刀をララに渡した。俺も「おう」とララに従う。何をする気だ。同じことを思ったのか、


「何をする気だ」


 とジンを乗っ取った絡新婦が、じりっと後ろへ下がる。

 ララは、ふっと息を吐いたかと思うと、瞬時にジンの懐に入り込み、「な、」とことばを紡ぐ暇も与えず、ジンの下腹部を刺した。「がはっ」とジンが、息を詰まらせる。これは、勇者試験のときにも見せた、ヒールを伴った剣。俺は、ララの背中に手をつき、魔力を注ぎ込む。その1分、2分が、とてつもなく長く感じる。ぽとりと、ララの顔から汗が落ちた。何か、抵抗するようにびくっびくっと体を痙攣させていたジンであったが、「ぐ、ぎゃあああああ」と途端に、ジンの体から影が飛び出した。ララは、ゆっくりと、慎重に剣を抜き取る。ジンが力なく倒れる。ジンの出血は少量のみで、荒いながらも息はあった。ジンから飛び出た影を見て、俺は後ずさりする。蜘蛛だ。大きな蜘蛛だった。蜘蛛の顔が、エルフなのだ。いや、エルフの顔から蜘蛛の体が生えるようにある、と言ったほうがいいか。しかし目は真っ黒で、口元も切り裂かれたように大きく開いている。


「くそ、もう少しで、もう少しであいつを殺せたのにいいいいい!」


 金切り声を上げながら、蜘蛛は口から多量の糸を吐き出した。周りの兵士たちが、糸に絡まれ動けなくなる。カホ様とトモ様は、ノアを抱え下がって行く。エルフの風魔法は、蜘蛛の強力な体と糸の前にあっては効果をなさず、エルフたちの悲鳴のみが上がる。ララも、小刀では糸を弾くのが精一杯で、帝を守るように下がる。

 俺は、植木のそばを見た。急げ。視認し、テレポートする。

 植木の後ろに隠すようにあった武器の入った袋と、ないよりましだろうとノアの木の大盾を持ち、再び壇上へテレポートする。ララに片手剣を渡す。


「リンに杖を!」


 とララに言われ、リンのもとへテレポートする。リンは、長いローブをずりながらも時折跳躍し、その糸を避けていた。


「リン、杖だ!噛ましてやれ!」


 リンに魔法の杖を渡す。

 どこまで威力が発揮されるのか。果たしてリンの小火に、意味はあるのか。色んな疑問があったが、蜘蛛の弱点の火をリンに託す。


「う、うん!」


 リンは、杖を持ち、一度目を閉じる。かっと目を開き、唱えた。


『エターナル・フレーム!』


 悲鳴のなかにあって、リンの精一杯張り上げたかわいい声が響く。

 おお、またも大きくなっている。小から、中に近い火ぞ!しかし、魔法で出す分にはめちゃくちゃ小さく見える。ゆっくりとだが、火は絡新婦のほうへと向かっていく。これでもスピードもあがったものである、なんてしみじみしている場合じゃねえ。しかし、リンの火に慌てふためいたのは、絡新婦ではなくエルフたちであった。


「ひいいいい」


 とそのリンの火に怯え逃げる。糸からも逃げ、火からも逃げ。火の魔法は忌避されていると言っていたが、これほどとは。

 絡新婦は、現れた火に一度びくりと反応したが、鼻でその火を笑うと、さっと横へと避けた。

 リンの放った火の延長線上に、向かってくる火にか、絡新婦の糸にか、腰のぬかしたカホ様、トモ様がいた。ノアはというと、二人の間にあって、平然と事態を見ていた。

 蜘蛛が火を苦手なのは間違いない。しかし、火が小さいのか。

 俺は、木の大盾を持ち、ノアのそばにテレポートする。


「ノア、これを持て!」


 と木の大盾を渡す。


「ユーキ」


 ノアは、俺を見上げるように見た。


「ノアさん、こっちへ来なさい!」


 ようやく腰を上げたカホ様が、ノアの裾を引っ張る。ノアは、カホ様に引っ張られる方向へ体を寄せながらも、困った顔で俺を見た。


「ノア、お前は、俺たちのパーティの、グレートシールドだろう!」


 俺は、カホ様もおかまいなしに、ノアに大盾を持たせた。 

 リンの火が、ちょうど良くノアの大盾に当たる。

 火が、大盾を燃やす。うわ、結構熱いな。しかし、火はすぐに消えそうになる。そのとき、小さく風が吹いた。その小さな風は、大盾についた小さな火を大きく燃え上がらせる。これは、ノアの風魔法。ノアの、その燃える大盾を見る目が、爛々と燃えている。そして、いつものノアに戻り、カホ様の手を振りほどくと叫んだ。


「燃えよ、大盾ええええええ」


 と大盾なのに、絡新婦に突っ込んで行く。


「ノアさん!」


 カホ様が叫んだ。ノアには届いたのか届かなかったのかわからないが、もうノアが振り返ることはなかった。

 燃える大盾に、「な、なんだ」と絡新婦は後ずさるが、ノアはおかまいなしに、その体ごと絡新婦に大盾をぶつけるように突進した。


「うぎゃああああ」


 断末魔が、壇上にあった。

 蜘蛛の体が燃えて行く。もがくように、絡新婦は這いずり回る。


「帝、苦しむ命、早々に救いを」


 とララは、帝の方を見ずに剣を構えた。


「うむ。頼む」


 まだ顔の見えぬ帝は、その高貴な、落ち着いた声で言った。

 ララは、絡新婦の首をすぱりと切った。 

 ことりと、エルフの頭が落ちた。蜘蛛の足は少しの間蠢いていたが、ゆっくりとその動きを止めた。

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