表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/46

エルフの森へ行く。

「で、伝聞よ伝聞。おほほほほ」


 こいつの出自が一番怪しいな。不審の目を向けていると、ララは「さあ、勇者組合についたわよ!」とどかどかと扉を入って行った。

 バンフレートの勇者組合とは違って、小さく質素な部屋だった。お土産コーナーなどもなく、デスクカウンターに事務員が2人と、あとは依頼の貼付けられたボードがあるのみであった。

やはり、バンフレートほど依頼の数は多くない。俺たちのレベルも低いので、選べる依頼もかなり数が限られてくる。「うーん」とララも頭を悩ませていたとき、事務員の一人が、新しい依頼をボードに貼付けた。俺とララは、ぬっとその依頼を見る。まあ俺は字が読めないんだが。リンも、なになに、とララの後ろからひょこひょこと覗く。


「なんだ、依頼の用紙の色が違うぞ」


「限定依頼ね。ジョブ指定があったりする」


「で、これは?」


「ヒーラー必須ね。それもヒーラー検定3級以上、と、火の魔法を扱うもの。かなり限定しているわね」


「じゃあ無理か」


 と俺が他を探そうとすると


「なんで無理なのよ!ここにいるでしょう!」


 とララはその大事に梱包されたロッドを突き出した。


「いや、まあそうだが。火の魔法も」


「う、うち使えるじゃん!それに、これ、エルフの森の近くだよ!ノアを向かいに行けるじゃん!」


 と依頼書を読みながら、リンがぴょんぴょんと跳びはねて言った。分厚いローブが上下に揺れる。鼻の上に不安定にかかっている丸めがねは意外と落ちない。悲しいときも喜ぶときも、リンは感情表現が真っすぐである。


「一石二鳥とはこのことね。これにしましょう!」


 とララは依頼書を手に取った。

 ヒーラー必須、火の魔法使用者。おい、大丈夫かこれ。

 しゃかりきに組合を出るララとリン。ノアに渡された木の大盾が、結構重い。邪魔だな。けど、捨てたら、怒るだろうな、ノア。仕方なく背負い、二人に続く。


 馬車に揺られると、いつの間にか寝ていた。


「ユーキ、ついたわよ」 


 とララの声に目を覚ます。同乗していた客はすでにおらず、幌のなかは俺たちだけになっていた。馬車を降りる。薄暗い雲が空全体を覆っていた。傘をさすかどうか迷うほどの雨が、小さくあった。時間はわからないが、昼過ぎぐらいだろうか。馬車が轍を作りながら去って行く。道の向こうは崖になっていた。崖下には細く急な川が流れている。緩やかな勾配を上流へと歩いてく。苔の所々に生したケヤキが太く伸びている。それが所々にあり、ケヤキは時には岩に絡み付くように生えている。顔に、不快な柔い線が触れた。さっと手で払う。蜘蛛の糸だ。手に絡み付いた糸を振り払うが、うまく取れない。なんだろうな、不快な粘着感みたいなんがあるんだよな、蜘蛛の糸って。

 ばさばさと、左手にある森から鳥が飛んだ。そのとき、森のなかから荒い足音が近づいてくる。


「なんだ!?」


「ボアよ!」


 とララが前に立った。

 森の中を、腰丈ほどのボア、つまり猪が、突っ込んでくる。いつもなら真っ先に突っ込んで行くノアはいない。


「ララ!」


 と俺は持っていたノアの片手剣をララに渡そうと手を伸ばした。が、ボアってのはこんなにも早いのか。凄まじいスピードですぐ近くまで来ていた。


「避けて!」


 横っ飛びでなんとか避ける。その反動で、片手剣を離してしまう。


『エターナル・フレーム!』


 リンのかわいらしい声が森に響いた。

 小さな火が杖より発火されると、ゆっくりと突進を終えて姿勢の崩したボアの方へと向かう。


「なんか、リンの火、前より大きくなってねえか」


「そうね」


 なんてララと暢気に話していると、その小火がボアの鼻先に当たった。ボアは、「ふがっ」と鼻を詰めたような声を出すと、目を剥き、どすんと倒れた。


「や、やった!やった!」


 リンが飛び跳ねる。


「やったわねリン!」


 とララとリンが抱き合う。嘘だろ、あんな火で倒れるなんて。めちゃくちゃ弱いのかボアってのは。

 なんて唖然としていると、再び傾斜を下りる荒々しい足音が響いた。

 もう一体いたのか、と振り返る。さっきのボアよりもでかい。胸丈の大きさ、しかも、さっきよりもさらに速い。


「ユーキ!」


 ララが叫んだ。

 まずい、もうそばまで。咄嗟に、ノアの木の大盾を構え、目を瞑る。

 どしんと、倒れる音がした。

 ゆっくりと目を開ける。何が起きた、と大盾からそっと覗く。ボアが倒れていた。鼻には横から弓が刺さっていた。


「大丈夫であったか」


 渋く落ち着いた声が、矢の飛んできた方向からした。

 小柄な老人が弓を携え立っていた。口元は白い髭で覆われており、頭には黒い手ぬぐいを巻いている。白くなった眉は目を隠すようにあり、しかしその眉から覗く眼光はきらりと鋭い。飛び出た耳は、ノアと同じように尖っている。


「ボアの弱点である鼻と、そしてちょうど倒せるだろう魔力を加減した火。素晴らしい攻撃であるな」


 と老人は、リンの倒したボアを見て言った。そうか。道理でリンの火でも倒れるはずだ。そんな弱点が重なるミラクルが起きてたとは。


「ケロスに依頼を出したが、お三方は勇者様でありますかな?」


「ええ。助かりました。依頼主様で?」


 とララが丁寧に答えた。


「うむ。さっそくじゃが、見てほしいものがある」


 老人の先導のもと、俺たちは従った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ