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ノアは要領がいい。

 バンフレートに戻り、クエスト達成の報告、そして次の旅の準備にと二日過ごす。


「ほら、リン。起きなさい。朝食を食べたら出発するわよ」


 ララのことばに、リンは「うーん」と布団にくるまっている。

 出会ってそんなに経ってないが、なんとなく人となりが見えてくる。リンは、朝に弱い。そして、要領が悪い。外食ばかりもあれだからと一昨日は宿のキッチンを借りて調理をした。ララの手伝いに息巻いていたリンだが、切り方は歪だし、色々と大雑把というか。ノアは意外にもララの助手として役立っていたので、リンがさらにしょげる。「リン、買い出しを頼んでもいいか?」と俺が頼むと、「うん」とやややる気を持ち行ってくれたのはいいが、このぐらいの量、という見当がつかないらしい。野菜も肉も、4人前を超えた量を買って帰ってきた。もっと細かく数字を書くべきだったか。「いいのよいいの、パーティよ、パーティ」と空気を読んでララが盛大に料理をつくったが、もちろん大量に残り、翌日のお昼ご飯にもなった。「リンが、たくさん買ってきたから」とノアがぽつりと追い打ちをかけると、やはりリンはぐずりだしたので、「こら、ノア!」とララが叱る。

 一方で、ノアは意外と点を抑えている。リンにちょっかいをかけること以外は。

「あら、タオルはどこかしら」とララがタオルを探そうとする。「はい」と持ってきてたりする。ノアは、基本無表情というか、表情に乏しいが、ララに褒められたときだけはその大きな目をにこりと細め、無垢に笑う。ララにはなぜか従順だが、俺やリンにはいたずらしたり、飯をとってきたりと、傍若無人だ。

 朝食時、ノアが無言で俺の卵焼きをとった。とにかくこいつは小さな体の割に食欲に忠実だ。


「こら、俺のだぞ!」


「交換」


 ノアは、人参を俺の皿にのせる。


「等価になってねえだろ!」


 俺のことばもなんのその、にへらと意地の悪い笑みを浮かべ、俺の卵焼きを食う。

 なんだこいつ。と思いながらも、30歳にしてそんな怒ったりはしない。ノアのいじらしいのは、何かいたずらを遣り過ぎたと思うと、「怒った?」と伺うように聞いてくるところだ。「怒ってねえ!」と言い返すしかない。すると、そのときはララに見せるような、無垢な笑いを俺にも向けてくる。怒れるはずがねえだろ!

 朝食を終え、ララが地図を広げる。


「トンボイに行くまでに、ケロスを経由する必要があるわ。今日の夕方にはケロスに付けると思う。ケロスからは、翌日の昼の馬車で半日のって、トンボイに入ることができるわ」


 バンフレートから森を超え、南に向かうとケロスという町があるらしく、さらに南へ向かうと王都トンボイがあるとのことであった。


「ケロス」


 とノアが、ぼそりと呟いた。


「エルフの森もそう遠くないわね。ノアの故郷よね?」


 ララの問いに、ノアは頷く。


「寄ってくか?家族にも顔見せといたほうがいいんじゃねえか」


 言いながらに、ノアの家族のことは何も知らないなと思った。

 ノアは、無言で首を横に振った。

 リンはおおっぴらに家族と喧嘩して出てきたと自分のことを話していたが、ノアはそもそも無口なこともあって、自分のことを話そうとしない。エルフはあまり森からでないらしいので、ノアがこの歳にして職業勇者になったのも訳ありなのだろう。

 出発直前、身支度をして宿を出ようとしていたときであった。


「おい、ノア、そろそろいくぞ、って、お前」


 ノアの顔を見て飽きれる。自らのその透明感のある白い頬に赤いペンで渦巻く丸を描き、その少し尖った耳と美しい金色の髪を隠すように頭巾をすっぽりと被っていた。


「何してんだ?」


「いいえ、なにも」


 となぜか敬語で、相変わらずの無表情でノアは答えた。


「ぷぷぷ、ははは、ノア、何それ!?」


 リンが高笑いする。

 ノアがむっとリンの方を睨むと、手をかざす。

 風が、リンの足下より沸く。


「ちょ、」


 とリンは、はっと高く跳ぶと、宙返りしてベッドの上に立った。

 そのとき、ばりんと天井のランプが割れた。

 宙返りしたときにリンの足が当たったようであった。


「あ」


 唖然とリンは俺とノアを見た。


「そろそろ行くわよ、って、何よこれ!」


 トイレに行っていたララが、部屋の惨状に声を上げた。やべえ。


「何が、どうなったのか、説明なさい!」


 ララの怒号が響いた。


「ノ、ノアが」


 とリンが言うと「知らない」とノアがそっぽを向いた。

 ララは俺を見た。

 リンとノアも、願うように俺を見た。

 おいおい。とにかく事実を話そう。


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