感動の再会を果たす。
道中お日柄もよく、リンも段々と気持ちを持ち直したようで、途中買ってきた弁当を食べては、のんびりとした行程を行く。なんだか見覚えがあるなと思っていたら、
「ここ、最初に来たところか」
とその森のなかを歩きながら、繁々と辺りを見渡す。
「そうよ。依頼場所の通り道にあったから」
とララは答え、道から外れ、草をかき分けて行く。薄くだが、音が聞こえる。機械が稼働している。さらに茂みの奥に向かう。
「おおお」
機械、ともに地球よりこの世界へ来た自販機との感動の再会に涙がでそうになる。すぐに抱きつきに行く。ごつりと固い。
「ちょ、な、なにやってんの?」
とリンが引き気味に言った。
ノアも目を細めて一歩引いている。
「優しい目で見てあげて」
俺に理解のあるララはうんうんと頷いている。
「ああ、こんなにも懐かしく感じるとは」
人目、というか3人の目も気にせず、俺は自販機をほおずりする。たった数日ぶりだが、いや、自販機って、30年本当に変わらないな。ううう。
「まあ、無事で良かったわ」
とララも、にやりと笑った。
「ば、お前、まだこの子をどうにかしようとしてんじゃねえだろうな」
俺は、自販機を守るように立った。
そうだ。最近のやたらとマザー的な行動に勘違いしそうになるが、ララはもともと自販機に金の匂いを嗅ぎ付けていたのだ。修道女なのに豪華絢爛な教会をつくるとか、倒した野盗から金をとったりと、こいつは元来金に関してはやばいやつなんだ!
「この子って。んなことしないわよ。ほら」
とララは大きな紺色の布をばさりと自販機にかける。
「なんだ、これ」
「音も小さくなったでしょ。ちょっとはばれにくくなる」
「ララ、お前って」
両膝をつき、ララを見上げる。そうだ、こいつは、マザー、おお。
しかし、やはりララの口角は下品に上がっている。
「お前、やっぱりこの子をどうにかしようとしてないか?」
俺は目を細めてララを見た。
「してないわよ!ていうか、この子って何よ!」
「自販機ちゃんだ」
「あんたも大概ね。ほら、行くわよ」
「へい」
と懐かしき自販機ちゃんに名残惜しくも背を向けた。なんだか、リンとノアが俺に一定の距離を開けているような気もするが。自販機ちゃんとの感動の再会には、背に腹は代えられなかったんだ。
森を抜け、いくらか歩いて行くと小さな町があった。ここで一泊し、目的地のダンジョンに向かうという手はずになっている。夜、明日のこともあるので酒も飲まずに就寝する。夜半もいかない頃、扉がぎいと開く音に目が覚める。向こうのベッドを見やる。リンがいない。そーっと扉を出る。ぶるっと風が冷たい。パジャマの上から、ララに買ってもらったジャケットを着る。温かい。色濃く空が大きくあり、雲がそれに囲まれるように小さくあった。いや、反対だ、と気づく。色濃い雲が一面に広がっており、その隙間に、淡く薄く色のかかった空が覗くようにあった。雲のうすら影より、月がつつと空に現れた。なだらかな丘の上、その間もない月明かりの下に、リンの姿があった。杖を持ち、魔法を唱えている。ローブをはためかせ、杖を持った腕を振る。芳しくないようで、ふしゅうと肩を落とす。再度、同じ動きをし、腕を振る。ぷすりと、やはり種火程度の炎が現れる。
「なかなか、難しいわね」
と背後の声に、俺はびくりと振り向いた。
「ララ。起きてたのか」
リンにばれないように、二人家影に潜む。
「にしても、絵本の影響があるとはいえ、ソーサラーへのこだわりがすごいな」
「獣人族には珍しいわね。彼らのほとんどは魔法を不得手としているから、妬みからかソーサラーを蔑むも
のも多いわ。リンも、ソーサラーへの憧れを小さい頃に抱いたらしいけど、仲間や、家族にすら無下にされて、親と大げんかして出てきたって」
「まあ、親の気持ちはわからんでもないが、というか、パーティの一員として、俺はそっちよりの考えなんだがな」
「まあね、でも、好きなことがあるなら、させてあげたいじゃない」
とララは優しいまなざしを月明かりの下杖を振るリンに向ける。
「まあな」
と答えながら、小さな違和感を覚える。
「いや、お前もあのロッドじゃなくて常に剣を持て!」
「いやよ!何回も言ってるでしょ!あのロッドは高いの!私が持つわ」
「自分は棚上げか!」
「棚上げって、いつだれがリンを否定したのよ!」
「ああ、そうか。それもそうだな」
と頷く。
はっと、家影に隠れる。結構な距離があるのだが、リンがこちらを見たからである。そうだ、リンは特に5感が鋭い。
こっそりと部屋に戻りながらに、ララが訊ねる。
「ユーキ、テレポートの方はどうなの?」
「ああ、まあ」
と頭を掻く。
書物を読んで、移動すること自体はできたのだが、しかし集中力もかなりいるし、指定場所に正確に移動できない。実践で使えるとは思えない。
「次のクエスト、大丈夫かな」
俺は、クエストを自分で選んだこともあって、弱音を吐露した。
「ユーキ、あんた、誰と一緒だと思ってんの。大丈夫に決まってるでしょ」
とララはずこずことベッドへ向かった。
ララのこの妙な自信は、出会ってからずっと変わらずあった。しかしその一言だけでも安心したりするものである。
部屋に戻ると、ノアが大の字で眠っていた。本当、図太いなこいつ。早く寝ようとベッドに潜ると、間もなくリンが戻ってきた。何か様子を伺っているように見える。やばい、特訓風景を覗いているがバレたか。
狸寝入りに目を瞑る。うつらうつらとしていると、いつの間にか朝陽に目が霞んだ。




