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初クエストをこなす。

「クエストよ!稼ぐわよ!」


 と秋の薄い太陽に向かって歩いていく。


「うん!」


 とリンが続き、ノアもまた続く。

 暗いよりは随分いいな、と俺も続いた。


 勇者組合にて、ボードに色とりどりの紙が貼付けてあった。どれも依頼、つまりクエストである。魔法使いの老婆を探す、薬草を取ってくる、荷物運びの警備、などなど。必要レベルが色分けしてあり、白色の紙が、レベル1〜7の勇者が受けることの出来る依頼であった。色々あるなと眺めていると、


「これいいわね」


 ララがそのなかの一枚を手に取った。

 覗き見る。


『締め切り間近! 中規模クエスト 冬の訪れを告げる『マッド』襲来!賞金は山分け』


 とあり、細かな情報がさらに書かれている。中規模クエストというのは、参加パーティが複数いるということだ。他のパーティもいるなら安心感もある。今日中に終るので、すぐにお金も入る。


「いいんじゃないか」


「決まりね」とララは紙を片手に受付へ向かった。


 受注を済ませ、組合を出た。

 平原の奥にある古い屋敷のそばが集合場所になっており、4人で向かう。ふむふむ、とララが、受付でもらったクエストの詳細を読む。


「『マッド』古の魔法使い、スピリタスが、常世を恨み死に際にかけた大魔法により生まれたモンスター」


 スピリタス。酒臭そうな名前の魔法使いだな。


「古?」


 と俺が訊ねる。


「ええ。その魔法使いは、人を恨み、ある魔法をかけた。それは、毎年の秋と冬の間の月が半分になる頃に、泥状の人型のモンスター『マッド』が現れ、街を襲うというものであった」


 なんという迷惑な魔法使いだ、スピリタス。

 さて、勇者になって初の実践である。俺の腰にはショートソードが差してあった。「ユーキ、あんたにも武器がいるわね」と集合場所に向かう前に武器屋を物色していたのだが、何分金がほとんどないので買えない。そのとき「ん」とノアがことば少なく自らのショートソードを俺に差し出した。「いいのか?」と訊ねると、「使ったことないから」とノアは平然と答えた。そういえば大盾もって突っ込んでるところしか見たことないな。にしても、ならなぜショートソードを装備していたんだ。

 バンフレートを出て、平原をいくらか歩く。

 集合場所が近づいてきた。

 改めてパーティの3人を見る。やはり大事そうに梱包されたロッドを持つララ。大盾を常時浮遊魔法で背負うノア。分厚いローブに鼻にかけた丸めがねと、オールドスタイルの魔法使いファッションのリン。


「なあ、武器をさ、プレゼント交換みたいにシャッフルするってのはどうだ?」


「何馬鹿なこと言ってんの。行くわよ」


 とララに言われる。

 リンは、べーっと俺に舌を出すと、ララに続く。

 ノアも、論外です、といった様子で歩き出す。

 俺は、一度屈伸をした。


「何してんのユーキ。早く来なさい」


「おう」


 今日もたくさん走ることになりそうだ。



 小高い丘の上に、古い館があった。薄日が不気味にその館を照らしている。見るからに幽霊が出そうである。

 リンの耳がぴくりと動くと「くる」と館の方を見て言った。

 泥状の大きな人型モンスター『マッド』が、何体も、それは何体もゾンビ歩きをして館から現れる。 

 他のパーティを差し置いて、「うおおおおお」と真っ先に飛び出した小柄な影。大盾を構えたノアである。


「ば、バカあいつ!」


 しかしノアの動きが合図のようになり、他の勇者たちも続々と続く。

 ノアは、案の定マッドの右パンチに「ぐへえ」とあっさりと飛ばされる。

 勇者とマッドの乱戦になる。こうなればパーティうんぬんじゃなく、個人戦である。


「こ、今年は多いな」


 とそばにいたアーチャーの男が言った。そうなのか。実際、勇者側が押され気味である。

 そのとき、リンが杖を構え、目を閉じた。

 その確かな魔法使いとしての出で立ち。丸めがねはあらゆる魔法に精通しているだろう博識さを醸し出している。周囲の勇者も、くるぞ、くるぞ、とリンの周りを避け、その様子を期待の目で見た。

 リンは、かっと目を開き、唱えた。


『エターナル・フレーム!』


 ぶすりと、やはりキャンプで火をつけるための火種のような、くすぶったような小さな小さな火が放たれる。みなが、その今にも消えてしまいそうな、ふらふらと飛ぶ火の行方を目で追う。ぷすぷすと、完全に消えいく前になんとかマッドのお腹部分に当たる。じゅう、と情けない音をたて、その小さな火は消えた。

 どこか遠くの方で鳥の鳴き声が聞こえたような、そんな静けさが、一瞬あった。

 大きなため息が、勇者側からする。


「な、なんでえええええ」


 とリンは、膝を折り泣き出す始末。


「うおおおお」と威勢良く突っ込んでは再度飛ばされるノア。

 ララはというと、怪我をした勇者に「大丈夫、今治してあげる」と修道女モードで近づき「お、おう、ありがとう!」と感謝する勇者にヒールをかけようとして、結局全く治らず「おい、治らねえぞ!」と言われ「気よ、こんぐらいの怪我、気で治しなさい!」となぜか切れ気味に返している。

 少しずつだが、乱戦にあっても、他のパーティたちは気づき始める。無能で、むしろ邪魔をしているパーティがいるな、と。かくいう俺も、様子を見ているだけで何もしていない。

 やばい。とにかく、倒さないと金にもならない。


「ララ、これもって前線いけ!」


 と俺はララのもとへ走ると、ショートソードを渡す。


「はよかせそのロッド!あと十字も渡せ!」


「いやよ!あんた投げたりするでしょう!このロッド高いのよ!」


「なげねえよ!そんなの持ってたら戦えねえだろ!それより、マッドを全滅できなかったら報酬0だぞ!」


 俺のことばに、ララは渋々ショートソートを受け取り、その大事に梱包されたロッドと十字のブレスレッドを手放した。

 俺はロッドと十字を受け取り、リンのもとへ。


「おいリン、泣いてる暇はねえぞ!ほれ、これ持てこれ!」


 と十字を渡す。


「う、ううう、なんでええ。なんで魔法でないのおお」


「今日は調子悪いだけだ。ララも前線に向かったぞ。ほら、ララの十字だ。ララも、お前に戦ってほしいって俺にこれを託したんだ」


 俺のことばに、リンはようやく顔を上げ、十字を受け取った。


「ローブは破れたらだめだろ、だから、脱いで、ほら、で、杖持ってるとララの十字を持てないから、杖は俺が持つ」


 と姪っ子にご飯の支度をさせるときのようになんとか誘導する。リンは、ぐすぐすと鼻をすすりながらもローブを脱ぎ、魔法の杖を俺に渡すと、ララの十字を持った。


「さあ、行けるか?ララも戦ってる」


「う、うん。ララちゃんのためなら」


 リンは、その真っ赤に腫らした目を擦り、走り出した。めんどくせえ。

 さて、「ぐへえ」と飛ばされる小さな影が秋の薄暮にあった。


「ノア!」


 と駆け寄る。

 ノアは立ち上がり、「ノアが、もっと、引きつける」と『ターゲット・オン』と唱える。大盾が薄く光りだす。マッドがのそのそとノアの方に近づいてくる。


「バカ!お前に集めてどうする!」


 と大盾をノアからぶん取ると、野原に投げた。

 むっとノアが俺を見た。


「今はとりあえず金だ!あいつら倒して稼いだらたらふく飯が食えるぞ!」


 ノアは、ふんと不満げに鼻から息を出しながらも、俺の差し出したリンの杖をぶん取った。 

 これで大丈夫だろう。

 ララが、鮮やかにマッドを倒して行く。リンも、ララの補助をしながら自らも跳梁跋扈し、マッドに致命傷を与えていく。

 ぞわりと、背後でただならぬ気配が。

 ノアが杖を構えている。

 今度はがちだ、と他の勇者たちも場所を開ける。


『サイクロン』


 とノアが唱えると、渦巻いた風が幾体ものマッドを飲み込んでいった。

 時間もそう経たないうちに、マッドは全滅した。


「初めからしてくれてたら」


 とどこかで声がした。

 その通りである。

 ララに魔力贈与しながら、二人で怪我をした勇者たちにヒールを施す。一段落すると、みなで組合に戻る。

 結果、「ありがとう!助かったぞ!」とみなに感謝されることに。なぜなら、賞金は山分けだから。


「なんか納得いかないわね」


 とララは不満げに組合を出る。そりゃそうだ。大半を俺たち、というかこの三人が倒して、賞金は参加者全員で山分けである。まあ、レベル1〜7のクエストに参加していいメンバーではないが。


「まあいいわ、飯よ飯!」


 といつもの切り替えの早さで、ララは歩き出した。

 賞金山分けで一パーティ8万ゴールド。4人で割り、ララの懐にはリンとノアに借金を返してもいくらか余ったようである。ちなみに、俺のゴールドはララに握られている。異世界で結婚もしていないのに財布の紐を握られるとは。

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