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最弱のパーティ。

 木々の合間を縫うように走る。

 汗が首筋につつと流れる。

 高木の影が、はたとなくなる。

 森の中にあって、ぽっかりと開けた場所があった。


「こ、これは」


 と俺は、その場所で倒れている受験者たちに、足を止める。一様に腕や足を切られ、「ううう」と呻き声を上げている。致命傷は受けずに済んでいるのか、まだみんな息がある。


「ひ、ひいいいい」


 先から、悲鳴が聞こえた。

 西日は、剣を振り上げる緑髪の男を不気味に照らしていた。1500メートル走の前に、ララと喧嘩していた男であった。その後ろには、妹の姿もあった。緑髪の男の足下に、悲鳴の主、きらびやかな鎧を着たオールバックの男が震えていた。そのすぐ後ろで、長髪の女もまた、震えていた。緑髪の兄妹の様子は、明らかにおかしかった。血管は浮き上がり、目が尋常じゃないほどに見開いている。二人とも、口の端よりよだれが垂れ出ていた。妹は、異常な様子ながらも、心なしか兄の方を心配そうに見ているように見えた。

 緑髪の兄が、人ならぬ声を上げると、オールバックの男に向けてその剣を振り下ろす。

 ララはすでに駆けていた。左腕に巻いた十字のブレスレッドをほどき、震えるオールバックの男をかばうように立った。

 カキンと、鉄と鉄がぶつかる音が響いた。

 ララの十字と緑髪の剣が、ぎりぎりと競り合っていた。ララがやや押されたように、つばぜり合いを嫌い後ろへ下がった。緑髪の男は、さらに追い打ちをかける。二度、三度と打ち合う。


「ひょええええ」


 とオールバックは、へっぴり腰で逃げてくると


「あ、あの田舎者の修道女、な、なにもの、だ。剣術Dの俺様が、簡単にやられたというのに」


 と相変わらずの傲慢な物言いはありながらも、ララと緑髪のその打ち合いを驚いたように見ていた。ララは、剣術Bか。


「俺もよくわからん」


 実際なぜララがあんなにも剣術が使えるのか。

 押されているように見えたララであったが、鋭さは一枚上手のようで、緑髪の男に浅くはあるが傷をつけていく。しかし、ララに戸惑いが、微かに感じられた。たぶんだが、致命傷を与えることへの。

 緑髪の剣を、カキンとララがその十字で払った。


「お、おおお、お、お兄、ちゃん、おにいいい、ちゃんん」


 と後ろにいた妹が、声にならぬ声をだすと、両の手を地面に付いた。その地面が、薄く光る。


「あの妹、召還士か。やばいぞ」


 とオールバックが暢気に言った。


「何がやばいんだ?」


「緑髪ってのはもれなく俺様と違って田舎もんだ。なんで緑髪が田舎もんってわかるっていうとだな、ド辺鄙な場所に緑髪の一族があるんだ。その一族はその昔ーー」


 オールバックの話が終らないうちに、妹が両の手をつけた地面から、もくもくと蒸気のようなものが発生する。その小さな霧が晴れると、人の3倍はあろうかという影が2体現れた。頭部に角が生えている。一本角と、二本角。その手にはそれぞれ、大きなこん棒を持っている。


「鬼を使役して世界を制圧しかけたことがあるんだな、これが」


「お前暢気だな!」


 さっきまでひいひい言ってたのに。


「まあ、都会生れだからね」


 とオールバックは白い歯を見せた。その同じ都会生れの長髪の女のほうは、こちらは正常なようで、ちゃんとこの状況に震えていた。

 一本角が、ララに向かってこん棒を振り下ろす。

 ララは横っ飛びでなんとかそれを避ける。

 二本角の鬼が、ララに向かって、やはりこん棒を振り下ろそうと構える。小さな十字じゃ受けきれない大きさとパワーだ。

 やべえ。何かねえか。

 パーカーのポケットにあったコーヒー缶を鬼に投げる。

 二本角の方の鬼の頭部に当たると、視線がこっちに移る。


「おい、来るぞ」


 オールバックのことばに「なんもできねえぞ、俺」と俺は、オールバックの方を見た。

 オールバックは、飽きれたように肩をすくめた。


「なんでお前はそんなに余裕なんだよ!」


「これだから田舎育ちは」


 なんてやってるうちにも、二本角の鬼がどすどすと走ってくる。 


「ユーキ!逃げなさい!」


 ララは、一本角のこん棒を避けながらも、俺の方を見た。

 近づいてきた二本角のこん棒が、大きな影となって振り下ろされる。


「ユーキ!」


 再度、ララの声が聞こえた。

 その大きな鬼を、迫り来るこん棒を見ながらに思う。

 簿記か、小説か、勇者か。

 なんて究極の選択をしてる暇はねえ!

 そのとき、小さな影が、横を通り過ぎた。


「うおおおおおおおお」


 といつもは無口なエルフの女の子が、大盾構えて走っていく。


「ノア!」


 二本角のこん棒が、ノアの大盾とぶつかる。


「うへえ」


 とノアが大盾ごと脆くも吹っ飛ばされる。


「だ、大丈夫か!?」


 とぶっ飛ばされたノアに心配を向けながらも、様子を見に行く暇を与えてくれることもなく、二本角は改まって俺に向かってこん棒を振り上げる。


「うちに任せて、後ろへ下がって!」


 リンの声が、背後から響いた。二本角も、そのただならぬリンの魔法使い的な格好にか、注意がリンの方に向く。

 俺とオールバックは、長髪の女を抱え後ろへ下がる。

 リンは、そのかわいらしい星型の杖を構え、目を瞑る。

 そのわかりやすい魔法使い衣装。鼻の上にのっかるようにしてある小さな丸めがね。謎の重厚感のある星形の杖。

 リンは、その大きな瞳をかっと見開き


『エターナル・フレーム!』


 と力強く唱えた。

 どこかで鳥が鳴いた。

 間髪の平和であった。

 星型の杖の先から、ぷすりと何かが焦げたような音がしたかと思うと、小さな、キャンプで火を起こすための最初の種火ほどの火が、二本角にむかって放たれた。

 時が止まったように、二本角でさえも、その火が自らに当たるのをじっと見ていた。もしかしたら、対象にぶつかった瞬間爆炎に変わるのかも、みたいなわくわくがなかったとは言えないが、二本角の膝元に当たったその火ともいえない火は、ぷすんと情けない音を立てて消えた。

 困惑しているのは、俺たちばかりではない。当の二本角ですら、きょとんとしている。


「おい、リン」


 と俺は唖然とリンを見た。


「な、なんでだろ、もうちょっとだと思うんだけど」


 とリンの頬が、その自らが放った火よりも赤く染まる。

 二本角は、少し熱かったらしく、その膝をすりすりと擦ると、役割を思い出したのか、気を取り直したように俺たちを睨んだ。


「うおおおおおお」


 とノアが再び立ち上がり、普段では絶対出さないような大声を上げながら再び大盾を構え二本角に向かっていく。俺はなんとかノアの首元の襟を掴んでそれを止めると、一緒に後ろへ下がった。


「お前ら」


 と俺は、リンとノアを見た。

 なおも大盾を構え、二本角に突っ込もうとするノア。


「も、もう一回!」


 と、再び杖を構えるリン。

 そんな二人に向かって、俺は叫んだ。


「ふざけてんじゃねえええええ!」

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