ex-その後(霞の嗅覚)
何かが違う。今、霞はそう感じていた。
何時もの朝、何時もの登校ではある。
毎度の如く、陽一が馬鹿な事を言い、楓がソレに突っ込みを入れる。そして、健太があわあわと二人の間でフォローに入る。
そう、何時もの朝だ。しかし何かが違う。
「むむむ……何かな、この違和感」
「かすみん如何したの?」
「うーん、わからない。わからないんだけど、何かが変なの」
霞の変だという言葉を聞き、紬もまた周囲を見渡す……が、何もおかしく感じるモノなど無く。
「気のせいじゃなくて? こう、何か具体的な事とかは無いのかな」
紬に具体例は何かと問われ、うぅん……と頭を捻る霞。
しかし、その具体例など出てくるような事も無く。ただただ、何時もの様で違う感じがするという時間が過ぎて行った。
「ねぇ渡。キミは何か感じるモノがあるかい? ボクには思い当たる事が何も無いのだけど」
「そうだな……あえて言うなら、陽一のボケが何時もより味気ない事だろうか?」
「な、なんだって!? 俺はボケてなんて無い……と言うか質が落ちただと! 楓、これは由々しき問題だ!」
「ボケてないと言った口で、直ぐにボケてるって自白してるじゃないか!!」
渡も特に思い当たるものが無く、なんとなく陽一をやり玉にあげ……陽一もまた乗っかる。
「渡……キミと言うやつは」
「紬、良い朝じゃないか」
何をやっているのか……と、非難に近い視線を渡に送る紬と、その視線をどこ吹く風と言った感じで受け流す渡。
そんな二人の距離が、実は前よりもほんの少しだけ近く、それが違和感の正体だったりするのだが……周囲の者は全く気が付いていない様で。
「うーん……やっぱりわかんないなぁ」
「かすみんの身長がぐーんと伸びたとかじゃない?」
「いやいや、数日で違和感を感じるほど伸びる訳ないよね!?」
何やら陽一と楓のノリが、紬と霞にでも移ったかのようなやり取りを開始しだし、その頃には霞もその違和感を意識しなくなった。
とは言え、霞の嗅覚は化け物だろうか? と勘ぐってしまうものが有る。何せ、渡と紬の物理的な距離が縮まったとは言え、その距離は……一センチ前後と、どう考えても察知できるとは言えないようなものだから。
「うーむ……霞は鍛えたら達人クラスになれるかもな……」
ただ、渡だけは霞の気が付いた事を察していて、鍛えたら面白いのでは? などと、実に物騒な事を考えていたりするのだが……此方の平和な世界で霞を鍛えるなどありえない話で、渡はその様な考えをポイっと捨てるのであった。
健太の方が気が付きそうですけどね。名前とかキャラ的に……ワンちゃんですし。
とは言え、彼女が気が付いたのは紬の隣に何時も居るからでして。周りをよく見ていると言っても良いでしょうね。
てか、お前ら……たった一センチ程度しか距離が縮まってないのかよ! と言いたくもなりますが、前話のあとがき通り、漸くスタートした幼児レベル? ですのでこれでも、偉大な一歩ではあるのですよw
だと言うのに、意識自体は……異世界感覚で言うと、婚約者レベルなんですよねぇ。
第四部ラストで言った様に、渡と紬の感覚ですと〝大切な相棒〟と言うやつですから。何だろう? 結婚を約束した園児とでも言えば良いのだろうかw
ただ、高校生になっている分、ある意味かなり質が悪いような……何せ、恋人やら結婚と言うものは、情報として確り理解している訳ですから。




