地球はやっぱり平和だ!
渡と紬は研究室へと転移した後、直ぐに研究室から出て待って居る家族達の元へと移動をした。
「紬! 無事だったか!」
「お父さん! 大丈夫だよ。ほら、怪我もしてない」
「紬ちゃん……あぁ、本当に良かった!」
「お母さんも……うん、ただいま!」
がっしりと抱き合う三人を見て、渡はなんだかいいモノをみてるなぁ……とほっこりとした気分に。
「兄さんお帰り、無事救助出来たんだね」
「ただいま。まあ、当然だろう。その為に色々と準備をして来た訳だからな……っと、ほら武お土産だ」
帰還の挨拶をしながら、渡は武にお土産だと手に持った物をポンっと武へ投げ渡した。
「ん……んんん!? 兄さんこれって……」
「あぁ、彼方の世界にあるお宝の一つだな。国宝と言うやつだ」
「こ……国宝!? 確かに、凄い装飾がされている豪華なナイフだけど」
「他にもこんなものもあるぞ?」
そう言いながら、空間から取り出した物……それは〝王笏〟と〝王冠〟であり、どうやら渡はあの王から慰謝料としてそれらの品を貰って来たらしい。
「ふむ……これはまた実に拘りを感じるな」
「父さん正解だ。ソレは王位継承の為に使う品々だからな」
カランカランと王笏が床に転がり落ちた。
「わ、わ、渡!? お前、なんてものをお土産にしたんだ!」
「いやいや、盗賊からお宝を少々頂いた程度だ。彼方では盗賊を討伐したら、盗賊の持ち物は討伐者の物として認められているからな」
「こっちでは認められてないからな!」
「ソレは解ってる。だが、それはこっちのルールで、彼方の世界のルールでは無いから大丈夫だろう」
あぁ、なんて事を……と思いつつも、確かに渡のやった事など此方の世界で証明など出来ない。世界を渡ってまで証拠をと言う事が出来るはずも無いのだから。
「父さん安心してくれていい。此方ではやらないというか、そもそも魔法使用は原則禁止だろう?」
「あ、あぁそうだな。うんまぁ、やらないなら良いんだ」
もし、渡があちらの世界で〝バンカーバスター〟を撃ち込んだと言ったら、この父の髪はハラハラと舞い散るのではないだろうか? 父の頭の為にも、渡は彼方の世界でやって来た詳細を伏せる事にした。
感動の帰還後、渡達は無事に紬を救助出来た事でお祝いだ! と騒ぎ始めた。
そして、其処には武が買って来た巨大なホールケーキやら寿司やらお肉が並べられており……。
「直ぐに戻って来る事を想定していたのか」
「兄さんが自信満々だったからね」
「ま、ありがたい話だが……お前、受験勉強大丈夫なのか?」
「い、今ぐらい良いだろう!? 俺だって紬姉の事が心配で、勉強に手が付けられなかったんだよ!」
「あー……そうか。そうだな、なら明日から俺と紬で確りと勉強をみてやろう」
「わ、わーい……ウレシイナァ」
食事をしながら、異世界はどうだったのか? どうやって紬を救助したのか? と、質問が飛び、ある程度ボカシながらも内容を話していく渡と紬。
ただ、途中で紬が渡の二つ名を皆に暴露し、渡が自分のケーキに顔からダイブするなどといった事があったモノの、この場には笑顔で溢れていて……。
「ま、大団円と言った処か」
クリームを顔にべっとりとつけながら、渡は平和だなぁ……と呟くのであった。
「クリームだらけの顔で、まったくしまらないからね?」
「ソレは言うな」
そう言いつつも、甲斐甲斐しく紬は渡の顔を拭いてあげるのであった。
パーティーも終わり、渡と紬は二人で静かに縁側へ腰を掛けていた。
「それにしても、紬はこんな気分を十年も味わって居たんだな」
「む、君にも僕の気持ちが理解出来たのか。ふふーん、どうだ凄いだろう?」
「あぁ、凄いな」
「素直にそう返されると逆に恥ずかしいんだけど……ま、君の方が凄いと思うよ。だって、世界を渡ってまで助けに来てくれた訳だし」
パタパタと足をばたつかせながら、照れつつ紬は渡に感謝の言葉を告げた。
「ま、こういう事もあるかもと思って準備していたからな……準備が無駄になるのが一番だったのだが」
「でもそういうモノでしょ。使わないに越した事は無いけど、こうして可能性が有るから必要だもん」
今回の事について、あれやこれやと取り留めなく話していく。
戻って来た他の二人は大丈夫かな? とか、あちらの世界に残った一人はどうなったのだろう? など。ただ、国に対しては実に辛辣で……「クーデターにでも有っていれば良いのに」なんて言葉すら飛び出た。
「そう言えば、彼等に言ってたよね「俺の大切にー」って」
「あー、そうだな。確かに言った」
「大切なの後に続く言葉は?」
空気が変わった。そして、こっそりとそんな二人を見守る者達もドキドキワクワクが止まらない。
「そうだな。今回紬が異世界に行った事で色々と気が付いたんだ」
よく言う、無くして初めて気が付く。渡は今回取り戻す事が出来たのだから実に幸せな結果と言えるだろう。
「俺にとって紬は」
「僕は?」
「大切な」
「大切な?」
壁の陰で紬と同じように復唱している者達が居て、渡と紬もそのことに気が付いてはいるものの、今はそれを気にしない事にした。
「相棒だ」
……復唱が無い。
と言うよりも、全員の目が点になっている。そして、時間が経つごとに「此処でソレか!」と怒りに似た感情すら沸き出てくるのだが……。
「相棒か! ふふ……渡らしいね」
「おう、これからもよろしく頼むぞ」
ただ、言われた当の本人が何やら実に満足していて……出歯亀な皆さんは風船が萎んだように、その感情が消沈してしまい……そのまま、やけ酒だ! とでも言わんばかりに宴会の再会だ! と、リビングルームへと戻って行った。
誰も背後に居なくなった事で、紬は何やら決心したかのような表情になり、渡へと意を決して話しかけた。
「ふっふ、そんな相棒からヒーローな君にお礼が有ります」
「ん? もう沢山お礼は言って貰ったぞ?」
「いいからいいから」
そう言いながら、紬は渡の頬へと……。
「救助されたお姫様からお礼はコレが定番でしょ?」
「お、おう……物語あるあるだな」
などと言ってはいるが、二人の顔は真っ赤で……そんな照れた二人を見る者は誰も居なかった。
きっと月ぐらいは見ているでしょう。
ふぁぁぁぁぁぁ、やっと此処までたどり着いた……コレで二人の関係がグッと近寄らせる事が( ;∀;)
渡の感覚からして、これぐらいの事が無いと紬を意識するっての厳しいのですよね……本当、長かった。
ま、この二人は此処から糖度が高めになるはず……いや? 案外普段通りか? まぁ、意識はガラリと変わるので……とは言え、ピコハンは振り乱れるでしょう。
少しネタバレ。
紬が楽しそうに受け入れた理由。それは、異世界的感覚を理解したから。
だって、冒険者で男女間での大切な相棒と言えば……ね。行き着く先は? えぇ、それしか無いのですよ。
しかし、他の家族は余りそのことを理解していない……っと、随分と認識がずれております。
という事で、第四部完!




