もう、いいかい?
ま~だだよ。と答える人は居ない。どちらかと言えば、待ってました! と答える人なら居る。
「あ、やっと来た!」
「おう、すまん少し遅れた」
待っていたのは紬。追いかけて来たのは渡……と、渡は見事〝界渡り〟に成功した。
「時間は? 紬がこっちに来てどれぐらいたった? ってか、なんで鉄格子なんだ?」
「えっと、時間はそんなに? 多分、一週間は経ってないと思う。鉄格子の中なのは……僕が反抗的だったからかな」
因みに、今会話している場所も鉄格子の前と中で、実にシュールな状況だ。
「とりあえず出すか」
「えっと、この鉄格子凄く硬いよ」
「あー、大丈夫この程度の術式なら何ら問題無く壊せる」
そう言いながら、渡は鉄格子に手を掛け……ピシピシと音を立てたと思えば、鉄格子はその次の瞬間メキィ! と、大きく歪み、人ひとりぐらい簡単に抜け出せる隙間を作り出した。
「わぉ……普通に考えたら飛んでも無いレベルの怪力だね」
「魔法を使えばこの程度は出来て当たり前だ」
その魔法って渡基準だよね……と、紬は思ってしまう。何せ此方の世界に来て以来、渡程の術師を見た事が無い。
魔術師団の団長と言う人も目にしたが、紬からして彼は全く脅威に感じなかった。なので紬はこう考えた、〝魔力や魔法には可能性がある、しかし渡ほど極めている者は限りなく少ないのだろう〟と。
「そうだ。紬以外にも此処に来た人は?」
「僕以外だと三人ほどいたよ。……ただ、少し様子がおかしかったかな? 何というか、洗脳? 意識が薄い? よくわかんないけど、判断力が鈍ってるって感じだったかな」
「……ほぉ」
紬の話を聞いた渡から、濃厚な殺気と魔力が漏れ出した。
理由は単純で、魔法によりその三人は自己判断能力を削られていると察したから。そしてそれは、当然紬にも魔法を掛けようとしていたはずで。
その事を理解した渡は実に良い笑顔でキレている。しかし、そんな状態でも冷静で入るのだろう。その魔力と殺気は一切紬に触れる事すらしていない。
「わ、渡? 君、ちょっと笑顔が怖いよ?」
「ん? そうか。あぁ、少し漏れてたか。ま、今は他の三人をどうするかだな。俺としては置いて行っても良いが……」
寧ろ置いていく方が楽だとすら渡は考えていたりする。
何せ、このまま地球へ戻しても、此方で手にした力をつかって馬鹿をやる者も居るのでは? など、不安要素がある訳で。
「でも、洗脳でもされてるなら解除してあげた方が良いんじゃないかな? それに、帰りたいと思う人も居るだろうし、そもそも帰宅を待って居る家族だって居る訳だし」
ただ、紬の言葉を聞き、確かにそうだなとも思う渡。
今この場が地球であるなら、渡もそんなこと知った事では無いと割り切れる。
しかし、此処は異世界だ。
少し足を延ばせば救助できる場所に、その三名入ると言う事になる訳で……。
「ま、ついでってやつだな。少し魔法を解いた後に話を聞くとするか」
最悪、魔力に関して覚えた事は全て封印して仕舞えばいいやと考え、渡は早速三人を探すために行動をしようとする……が、どうやら侵入した事がバレたらしい。
「侵入者だ!! 捕らえよ!!」
何やら豪華な装備を身に纏った男が、牢屋の入り口前に仁王立ちをしながら部下へと指示を飛ばしていた。
渡君、紬の救助を優先している為に随分と冷静を装っていますが、内心はマグマの如く怒りが煮え立っております。
ぶっちゃけ、何時噴火するか解らないレベル。……それを、紬の前だから抑えていると、随分と感情のコントロールが出来る様で。




