抜かりなど無いから
一向に帰って来ない紬に不安を覚えない両親では無い。
当然、何かあったのでは? とまず最初に話を聞きに来るのは鏡宮宅だ。
「紬ちゃんが戻って無いの! 何か知らないかしら!!」
扉を開けての第一声。しかし、渡の両親も知って居る事など無い訳で……紬の母である鈴と共に「警察? それもと親しい友人宅に連絡?」と言いながら右往左往。
そんな中、一仕事終えて秘密の研究室から出て来た渡は、そんな両親達の姿を見て「あ……」と一言呟いた。
(しまったな。説明を行うのを忘れていた)
渡も渡で慌てていたのだろう。事件現場である教室から出た後、直ぐにゲートの完成を急いだことで両親にすら説明する事を怠ってしまった。
これでは友人達に告げた言い訳が意味をなさない可能性も出てくる訳で……。
「あー……そのなんだ、少し話が有るんだが良いだろうか?」
慌てる両親に対して、冷静とも言える態度で言葉を掛ける渡に、両親達はピタリと静止。
ただ、何故こんなにも渡が冷静なのか不思議で仕方なく、怒りすら沸いてきそうな感覚に襲われる紬の親だが……此処は一旦、渡が何を言いたいのかを聞くために、深呼吸をして気持ちを少し落ち着かせた。
「この場に居る全員が紬の事で慌てているのは察した。それでだ、その紬についてなんだが……」
淡々と紬に起きたであろう事を説明して行く渡。
当然、紬の両親はその様な与太話とも思える話など信じれるはずも無いのだが……修一や奈々が真剣に聞いているのは何故か? と不思議に思い、渡にその根拠を聞くことにした。
「根拠か……根拠はこれだな」
そう言いながら、渡は例によって例の如く魔法を疲労。
何も無い空間から水が、氷が、鉱石が現われ、更には空間が歪んだかと思うと、その歪んだ空間へと渡が手を突っ込み……ドラゴンの頭蓋骨を取り出したでは無いか。
「な……な……」
「…………!?」
パクパクと口を開いたり閉じたりする紬の両親。余りにものショックで言葉が出ないらしい。
ただ、何を言っているかは理解しているようで、言葉を掛けると頷いたり首を横に振ったりと意思疎通は可能。なので、話を此の儘進める事にした渡達。
「で、紬ちゃんは無事なのか?」
「今のところ、マーキングの魔法は途切れていないから大丈夫だ。それに、既に転移した先も割り出した」
「なるほど……で、助けに行けるという訳だな?」
「父さん、こんな時の為に準備はして来たんだ。問題は無い……ただ、素材が足らなくてな、武……悪いんだが、お前が残してと頼んだものは全て使った」
「あ……あー、うん。それは仕方ないよ。だって紬姉の救助に係わって来るんだろう? なら、我儘なんて言えないよ」
聞き分けのいい武に、ほっこりとした気持ちになる渡。これは、異世界へと紬を救助に行った際、何かお土産でも回収して来るべきだななどと思ってしまう。
「という訳で治夫さん鈴さん、紬は必ず連れて帰ってきますから」
「鈴さん大丈夫よ。うちの子も異世界帰りなんだから……間違いなく戻って来てくれるわよ」
まだ言葉が回復していないのか、首を縦に振る紬の両親。キャパシティオーバーからの回復と言うのは中々時間が掛かりそうだ。
「準備は万全で抜かりなど無い。後は救助しつつ相手を潰すだけなので、皆さんは此処でどっしりと構えて、紬が戻って来るのを待って居てください」
そう告げた渡は、あれやこれやと準備を行う為に自室へと一度入って行き、出て来たかと思うとその足で研究室へと直ぐに移動。
どうやらこのまま直ぐに転移を行うつもりの様だ。
「だ、大丈夫ですよね? と言うか、渡君の秘密ってこの事だったんですね」
「あー、鈴さん。魔法の事は一切他言無用で」
「分かってますとも。紬ちゃんも知っていたのでしょう? でも、あの子は自分の判断で誰にも言わなかった。私達にたいしても」
「そうだな。信用してくれなかったのか? と少し寂しい思いもするが、紬の判断は間違ってはいないからな」
紬の両親も、なぜ紬が自分達に黙っていたのかを察した。
内容が内容なだけに、誰に何処まで話して良いのか判断を行うのが難しい問題だ。それなら一切誰にも話さない方が良い。そう判断した紬に治夫も鈴も、紬に対して関心してしまった。あぁ、あの小さかった子が大人になって……と。
「ここは、渡が言う様にお茶でも飲みながら信じて待ちましょう」
「だな……あ、俺ちょっと兄さんや紬姉が戻って来た時の為にケーキ買ってくる!」
気が早くないか? とも取れる武の行動。しかし、それだけ渡の事を信頼しているのだろう。アレだけ反抗的だったり、距離感が掴めずツンデレっぽい行動をしていた事を考えればかなりの変化だ。
そうして鏡宮と宮入の両家は、リビングにて渡達の帰還を祈るように待つのであった。
宮入家へ魔法のカミングアウト。
緊急事態という事も有り、紬の両親も結構流されてしまっています。




