例外
紬と他の三名を呼び出した者達は、今の状況に焦っていた。
それは何故か、呼び出した内の一人である紬が一向に反抗的な態度を改めないからだ。
「魔法師団長よ、何故あの者には此方の魔法が通用しておらぬのだ?」
「謎としか言いようが有りませぬ。儀式は滞りなく終わらせましたゆえ、この様な者が現れるなど……過去の事例を確認しましたが、此度が初めてでありまして……」
「では、お主等の力が足りなかったのではないのか?」
「いえいえ! 滅相もございませぬ。過去に行ったのと同等レベルの魔力の持ち主、道具全てを揃えておりました」
「では何故だ! 本来であればこの様な者など現れるのであろう!」
「その通りで……召喚された者は徐々にその意識を奪われていき、最終的には隷属の魔法を受け付けるはずなのですが。実際、他の三人は此方の言う事に疑いもしておらず……」
「よい! 問題は一人でも例外が居ると言う事だ!!」
言い争い……と言うよりも、一方的に言葉をぶつける陛下と呼ばれた男と、その言葉を受け必死に弁明をしようとする魔法師団の団長。
しかし、彼等が言い争った処で事態が変化するはずも無く、ただただ時間を無駄に浪費。そして、そんな彼等を止める様な者はこの場に一人として居なかった。
「このままでは、隣国の制圧もままならん。一人欠ければそれだけ戦力が大幅に激減するのだぞ」
「勇者の力は一騎当千……いえ、一万以上と言っても良いモノといえましょう。三人でも十分だとは思いますが……やはり全員揃って居る事に越したことはありません」
「でははよあの女を何とかするが良い! 周囲の制圧が終われば、今度は勇者の血を残す作業があるのだぞ」
人を人と思っていない言動。
しかし異世界であれば、基本的に自国の民以外は畜生と変わらない扱いだ。寧ろ、自国の民ですら家畜同然だと思っている者すらいる。
であれば、異世界から呼び出した者など、ただの道具としか見ていなくて当然と言えるだろう。
勇者! と言っているのに、なんとも可笑しな話である。
陛下と呼ばれた男が一通り騒ぎ立てた後、魔法師団の長は深く溜息を吐いた。
何故なら何の解決方法を見つからないのだ。いくら解決方法を探した処で、過去にそういった事例が無いのだから。
「魔法の……また陛下の無理難題か?」
「あぁ、騎士のか。あの女子を何でも良いからどうにかしろと言われたのだ」
「……拷問じゃぁダメなのか?」
「それをやったら勇者としての戦力はダウンだぞ? 何故無理な隷属を行わない様にしていると思っている」
「そういえばそうだったな……無理にいう事をきかせたのなら、リビングデッドと変わらんのだったな」
ただ命令をこなす人形では意味が無い。勇者の力を十全に発揮してもらうには、自分の意思で動いてもらう必要が有る。
その為に、様々な認識や意思を逸らしつつ、ゆっくりと国側の言っている事に疑いを持たないようにしている。そして最終的には、進んで国へ隷属する……と言う形を取りたいのだ。
「だと言うのに、なんだあの女子は! 異世界の人間にどうして魔法抵抗力がある!!」
「……それほどまでに抵抗しているのか?」
「あぁ……全く此方の魔法を受け付ける事が無い」
何やら紬の魔法抵抗力は恐ろしい程高いらしく、その理由に関して彼等は全くもって思い当たる者が無い。
「異世界の者達は魔力の無い世界で生きていた……と言うのは過去の事例で解っている。であれば、本来魔力を持つことも魔法に抵抗する事も出来ないはずなのだ」
「だと言うのに、その女は抵抗してみせていると?」
「本当に訳が解らん。このような事は例外中の例外だ」
彼等がそう考えるのは当然だろう。
何処の地球に、異世界産の高級な肉や果物を食べた女子が居ると言うのか。そんな事を想像できる者など居るはずもない。
そして、紬が食べた食材というのは、それこそ一国の王ですら早々口に入れる事が出来ない物ばかり。何せ、ドラゴンの肉、アンブロシア、蟠桃、ネクタルなどなど、どこぞの神話などで聞いたことがるような物がこっそりと使われて居たりしていて、紬の身体は何時の間にかに魔改造されていた。
とは言え、魔力の使い方などを学んでいないので、表向きの変化は余り無かったりする。良くて少し若く見えるとか、身体能力が少し向上したとかその程度だ。
だが、異世界においてはまた別の話。
魔法に対する防御能力。これが何もしていないにも拘らず超一流レベルへと変化していて、その結果紬は彼等の魔法を知らず知らずとレジストしていたのだ。
彼等の失敗。それは、馬鹿なのか? と言われる様な答えを思いつかなかった事。それ以前に紬を呼び出してしまった事だろう。
そんな彼らがその答えを知るのは……鬼と化した者がこの世界にやって来た時だろう。




