本当に起こった……
神隠しが起きた。
しかし、渡に隠された相手を助けるなどと言う義務も義理も無い。無いのだが……もし異世界が関わっているのであれば、何らかの魔力的な残存があるのでは? と考え、少しだけ調査へと乗り出すことにした。
とは言え、表立って調査を行えば怪しまれること間違いなし。それならばと、渡は自分の力をフルに使うべく家族や紬に魔法を使う許可を求めた。
「……と言う訳で、俺は魔法を使うのがベストだと考えている」
「ソレは解った。だが、どんな魔法を使うつもりだ? 直ぐにバレる様なものであるなら反対だぞ」
「そのことについては問題無い。まず使うのは遠見の魔法だ。こっちの言い方だと〝クレアボヤンス〟や〝千里眼〟と言った方が良いだろうか」
「おー、という事はのぞき見したい放題だ!」
「やったら紬に怒られるからやらないがな。というか興味が無い」
血みどろの戦場を渡り歩いた事で絶食系となってしまった男子ここに極まれり。
そんな渡を両親は少し悲しそうな目で見るのだが、こればかりは時が解決してくれるのを待つしかない。それに、今の渡には紬が居る。きっと二人で一歩一歩確実に進んでくれるはずだと、彼等は信じている。という訳で今はその事について、一旦考えるのを止める修一と奈々。
「しかし、それだけでは何も解決しないのでは?」
「あぁ、魔力の残り香が有ればある程度確定出来るが、それでどこの世界にどうやって飛ばされたかまでは解らないし、もし残り香が無ければそれこそお手上げだ……という事で、併用して過去視も使う」
「さいこねとりー! すげぇ! 魔法ってそんな事も出来るのか! 超能力者でもあるんだな!」
「いや、弟よ……ねとりーじゃなくメトリーだ」
そもそもサイコメトリーですらないのだけど……と、話を黙って聞いている紬は思ったのだが、今は話しを折る必要もないとスルー。
ただ、この遠視と過去視の併用については物凄い便利だと考え、もしかしたらこれまでの神隠しに関しても分かるのでは? と思ったのだが……此処で紬は首をぶんぶんと横に振った。
何故なら、こんな裏技で過去の事を確認した処で証拠が無いし、一体どこでそんな情報を手に入れたのだと突き上げられるだろう。それなら黙っていた方が良いに決まっている。
そう思考を一気に加速させていた紬は頬をパンパン! と叩き、一度脳内をリセット。今は渡がやろうとしている事に許可を出すかどうかが優先だ! と切り替えた。
「で、僕としてはそもそも魔法の許可はしたくないかなぁ……まぁ、報復にアレな呪いにゴーサインを出した身で何をって話なんだけど。こう、事ある毎に使って居たら魔法のハードルが下がりすぎる気がする」
今でも十分下がっているのだけど……と、紬は続けた。
そして、その意見には皆「確かに」と頷けるもので、許可を出すかどうかという話は一度振出しに戻る。
「最近少し気が緩み過ぎてるのは間違いないな……」
「だが、此処で調べておかねばと俺は考えている。異世界が理由にしろ、此方の世界に元凶が有るにしろ、神隠しに遭った者の末路はその殆どが悲劇だ」
そして、それは遭った者だけで無く残された者もまた同じで、残された身である家族や紬もまた……その言葉に重いモノを感じ、結局とでも言えば良いだろうか調査に魔法を使う事にゴーサインをだした。
神隠しが起きた場所については、紬の兄である隆治から聞いているので問題は無い。そんな訳で、渡は二つの魔法を同時に使い何が起きたかを徹底的に調べ上げて行く。
そして、渡が魔法を使いだしてから一時間程経った頃、渡の閉じていた目がスゥと開かれた。
「あ、お疲れ。何か解った?」
「あぁ……悪い情報と悪い情報が有るのだが、どちらが聞きたい?」
「……悪い情報しかないじゃないか。まぁ、比較的ライトな方からで」
「オーケーだ。まず、魔法の残存は無かった」
「お! という事は異世界転移では無かったのだな……それならその消えた子達を見つける事も出来るという訳だ」
魔力自体この世界には無い物。ただし、異世界転移のような事が起きれば、異世界側から魔力が流れ込む事で一時的にこの世界にも魔力が残る。
だがそれは、時が経てば自然と消滅して行くもの。何せ、魔力を供給する者が無いのだから。しかし、それでも魔力は結構な時間その場に残る。何故なら存在する為のエネルギー以外はその力を消費するものが無いから。
なので、神隠しが起きてからの時間を考え、ある程度は魔力が残存しているはずだと渡は考えていて、ソレが無いのであれば……神隠しに遭った者が異世界へと行った事は限りなくないという事に他ならない。
そしてその前提の元、渡はもう一つの可能性を考え遠視先の周囲を徹底的に調べ上げた。
「で、もう一つの悪い情報は破落戸による誘拐と言う事が確認出来た。しかも背後は色々と面倒な相手の様だ」
「……それって権力者が居るとかそういう事?」
「ま、その通りだな」
調査に時間が掛かった理由。それは、その背後関連を徹底的に調べ上げていたからだ。
渡からしてみれば、ならず者達がバレる事無く行動出来るというのは、必ず背後に権力者の存在が有ると考えている。何故なら異世界では貴族が賊を囲うなど当然の様にあった話だから。
「割と此方の世界も安全では無いという事か」
「いやいや……本当、そんな馬鹿な事が可能とか例外中の例外だと思うがな」
人間である以上闇を持っていて当然だろうと考える渡。そして、そんな事が出来る人間は例外だという修一。完全に育った環境の違いによって意見が分かれてしまった。だが、それで言い争いになる事など無く……。
「渡どうするつもりだ? その情報を手に入れたとしても、公にすることも難しいし、警察等に相談するのも無理だろう?」
「そうだな……それなら自首する方針で行くか」
「……何をするの?」
「そうだな……男のプライドを潰す程度では意味が無い。秘密裡に行えば、他の者達が辞めるなんて事も無いだろう」
あちらの世界では真っ先に命を奪いさらし首にして警告としたのだが……此方の世界ではその様な真似など出来ない。
肉体的に殺すのが無理なのならどうするか。渡はクズ達に行った紬のアイデアで色々とその手の札を大量に創り上げていた。
「身体的な殺しがダメなのなら、精神的に社会的にやってしまえば良いのだろう?」
にやりと、とても迫力のある笑みをみせた渡。
家族はドン引きである……が、紬は平然とそれを受け入れ「頑張ってね!」とまで言う始末。どうやら紬はかなり渡に毒されている様だ。
〇●〇●〇●〇●〇●
某県の警察署に駆け込む数人の人間が居た。
彼等は全員同じような顔色と表情をしており、まるで生気が抜けている様にすら警察官達は感じたという。
そして、そんな彼等の話を聞いたところ……出るわ出るわ犯罪の数々。
中には大物とも言える人物も居り、その話はとてつもない大事件へと発展した。
しかし何故そんな自供を? と警察官が彼等に聞くと……。
「猿だ……猿が電車の中で殺しに来るんだ……」
「学校が……学校に居るんだ。扉を開けるとトイレに引きずり込まれて……」
「電話が……嫌だ! 電源を切っているのに電話が鳴るんだ!!」
と、まるで都市伝説を実際に体験したかのような話を大真面目に話し出す。
これには警察官もどう答えれば良いかわからず、ただただ呆れるばかり。何せそんな話が実在する訳が無いだろうと、実に現実的な考え方をしていたから。
とは言え、彼等が体験したモノは全て〝本物〟だ。
というのも、渡が都市伝説を利用し、魔法でソレらを再現したのだから……そして、その呪いはなるべく軽くしたモノの、本気を出せば命すら奪える代物。
それゆえに、その体験した恐怖などは全て彼等にとっては現実のものであり、そんな恐怖から言われた「全てを公の元に晒せ」と言う言葉は、彼等に唯一の救いと感じるほどの物。
それが今回の自首に繋がったという話なのだが……ソレを信じる者はこの世界には居ないだろう。
都市伝説の再現。まぁ、内容は端折りましたが……実際に体験したら最悪でしょうねぇ。




