変化の……
うぅむ……と唸るように渡は悩んでいた。部屋の中を落ち着きのない様子で、左へ右へとうろうろと。
何を其処まで悩んでいるのか、それはここ最近感じる自分の変化について。
事の発端は、何時ぞやに紬がクズ達から殴られた事だろうか。
渡はその時、ブチ切れ相手を殺そうとすら考えた……まぁ、その時は紬が冷静に行動し渡を抑えつつ、報復案をしっかりと考えてくれたので行動に出る事は無かったのだが。
「とは言え、どうしてあそこまでムカついたのだろうか? あんな小競り合い、冒険者なら日常茶飯事だったが」
頬を叩かれたのなら頬を叩き返す。
そんな目には目をと言ったやり取りをするのが冒険者間でのセオリーであり、その様な世界で過ごして来た渡からしてみれば、その時の行動は明らかにやりすぎと言える事を行おうとして居た訳で……渡からしてみれば、ありえない自分の行動だ。
それゆえに、渡は冷静に対処出来なかった自分の変化に疑問を覚えた。
後は其処からなし崩し。
一つ疑問を覚えれば、次に次ぎにと色々渡は「ん?」と思ってしまう事を思い出していく。
「そもそも、仲の良い相手とは言え、此処まで魔法の事を普通ならばやらないよな」
渡の師匠は口を酸っぱくしながら、渡に対して常に「技術と言うのは広めるべき物、広めても構わない物、広めるべきでない物が有る。お主に教えているモノの大半は広めるべきモノでは無い。それをゆめゆめ忘れるでないぞ」と、子守歌の如く毎晩渡に言い聞かせていた。
しかし、今渡がやっているのは? 紬が隣に居るというにも拘らず、気にせず魔法の研究を行っている。いや、寧ろ彼女とどうするべきか話し合いすらしている。
これでは師匠の言っていた事と全く違うでは無いか。
しかし、渡はその状況を今まで疑問に思うことなく、自然とも言える形で受け入れていた。
「むむ……紬はアレか? 魔法が使えないが、俺の弟子と言う事に? いや、違うか」
魔法の事を告げる相手は確り選び、その相手を弟子にする。
家族だろうが友人だろうが、技術を見せ教える相手は選ぶのが異世界のセオリーで、其の事を基準とすれば渡にとって紬は弟子と言う事になる。が、渡が呟いている様に紬を弟子だとは更々思っていない。
「……俺にとって紬はなんなんだろうな」
すぐ出てくる言葉は、仲の良い隣人・友人。少し考えて、十年間自分の生存を信じてくれていた相手。
そんな言葉が渡の脳内にぽつぽつで現われ……。
ポン! と手と手を打ちながら口に出した言葉。
「……信頼できる相手か」
ズコッ。と、家族の誰かが聞いていたら滑りこける様な動作をしていただろう。
とは言え、渡は割と本気でその答えが正しいのではないかと考えている。
どうやら友人達が進めている恋愛関連の小説やら漫画やらは、今のところ渡の身になって居ない様だ。
だが、こうして疑問に思い考える。その様な変化は間違いなく渡にとって良いもので、実に価値のある第一歩だろう。




