転移実験
魔法陣の上からポン! と、ターゲットが居る場所へモノを送る。そして、正確にモノが飛んだかをチェックしてもらい報告を受ける渡。
「よしよし、距離は短いが間違いなく紬の部屋の机にリンゴが飛ばせたか」
『ばっちりだよ。机に埋まるとかリンゴが破損しているとかそう言った事も無かったかな』
そう言いながら、紬は渡とスマホで会話しながらリンゴの映像を送った。
そしてその映像には、リンゴがそのまましっかりと机の上に落ちるシーンから、紬がそのリンゴをカットして中にも変化が無いという事を示すシーン。
「念のために聞くが味は?」
『だいじょーぶ! 甘くて瑞々しいよ』
味の比べる対象は既に紬のお腹の中に入っている。既に味見をしていたという訳だ。
味比べに使った物は産地や収穫時期が同じリンゴだ。個体差は有るだろうが、其処までの差は流石に無いだろう。そして、そのリンゴと大差無しと言う事でリンゴでの実験は問題が無いと言っても良い。
「じゃぁ次は……其処らで捕まえた虫でやるか」
『む、虫かぁゴキ的な奴じゃないよね?』
「コオロギだな」
『……それならまぁ、許容範囲かな。で、カゴごと飛ばしてくれるよね?』
「そのまま飛ばしたら、コオロギが部屋の何処かへ逃げて大変な事になるだろう?」
命あるものでの実験。とは言えいきなり人体実験を行う訳にもいかず、先ずは虫でと言う事らしい。
そして選ばれたのはこの時期そこいらですぐ捕獲できるコオロギ。
そんな訳で、渡は次から次へと何度も転移の魔法陣について検証をして行く。
因みに、渡自信だけなら個人で転移魔法が使えたりする。
ではなぜこんな事を? と言うと、他者を飛ばす為に必要だからだ。しかも、異世界間の転移ともなると渡の処理能力では足らない。そして、その不足分を補うために必要なのが魔法陣。
「魔法陣は今まで手掛けて無かったからな、師匠は研究してたみたいだが……」
渡は師匠が残した研究メモを片手にあれやこれやと試行錯誤して行く。
先人が残した情報が有るとは言え、渡にとっては新規開拓と言っても良い技術。当然ミスも沢山起こる訳で……。
『わ、渡! 君が送って来たコーラが破裂したよ!』
「あぁ……掃除が大変だ」
『大変とかじゃないよ! 僕がべとべとになっちゃったじゃないか!』
これではまだまだ人と言うか、自分で試す事は無理だなと肩を落とす渡。
紬の部屋で起きた惨劇を他所に、渡はその手に筆を持ちノートに実験の結果を記入……と同時に、改良点を考えながら書き足していく。
『渡? 聞いてるの? ちょっと! このままだとお母さんに怒られるから助けてくれないかな!!』
そんな紬の言葉をラジオに渡はせっせと思いついたモノを記入する事を優先した。
結果、この後に少し頬を膨らませた紬からピコピコと叩かれる事になるのだが……思いついた事を忘れる前に処理しないといけないから仕方ないよね! という事で。
どこぞのゲームみたいに「壁の中に居る!」なんてなったら最悪ですからねぇ。
検証実験は必須です。




