母親達
学校の二学期が始まると、休みの間は賑やかであった家の中は正に正反対。実に静かな空間となっている。
そして、そんな室内にて家事を終わらせ本日の予定が無いからと、鏡宮宅のリビングにて集まる存在が居た。
渡の母の奈々と紬の母の鈴である。
彼女達はあらあらうふふとテレビを見ながらお茶をしつつ、子供達が居ないという事で最近の状況について話し合っていた。
「奈々さん、渡君が帰って来て随分と紬が元気になったのですけど、少しばかり元気になり過ぎな気がするのですよ」
「そうですか? うちの子なんて紬ちゃんのお陰で随分と助かってる部分がありますから」
別に探り合っている訳ではない。本気でそう思って言葉を交わしている二人。
というのも、今までこの二人はお互いの子供の事で余裕が無かった。それゆえに、探ったりオブラートに包んだりとするよりも、はっきりと言葉を交わす方が手っ取り早いという事で、ストレートに情報を交換し合っていた仲だった。
そして、その延長線上とでも言うべきだろうか、今もまた遠回しに聞くぐらいなら直接聞けばという態度で会話をしている。
「あの子が何か隠しているんですよね。ただ、問題があれば必ず私達に相談すると思うんです。ですが……危険があるかどうか心配するのは別問題で」
心配するなと言う方が無理な話。親心なんてその殆どが心配で出来ている。
とは言え、これについて奈々は質問されても困る立場にある。
何故なら、その〝秘密〟についてがっつりと知っているからだ。いや、寧ろ秘密の中心地に居ると言っても良い。なので、奈々は鈴の言葉に対して曖昧な返事しか返せないでいる。
「多分なのですけど、渡君と何かやってると思うんですよ。で、奈々さん何か知っているようでしたら内容を教えて欲しいとは言いません、ですが危険かどうかだけは」
因みに、鈴が疑っているのは非合法の事やらファンタジーな事では無い。
渡が早朝パルクールにて、地元一帯で割と有名になっている為に、紬ももしかしたら同じことをやろうとしているのでは!? という物。
確かに、あんな走りは普通に考えれば危険極まりない。なので、もしそうであればやって欲しくは無いと言うもの。
渡に関して言うのであれば、あれだけ完成されているのだ。言った処で今更と言う話である。
「危険は無いと思いますよ。どちらかと言うと室内で本を片手に楽しんでいるみたいですから」
「本を片手に!?」
思春期の男女が室内にて本を片手に何を楽しむと言うのか! と言わんばかりに食らいついた鈴。
いやいや奥さん、貴女の考えているような事では無いですよと言う話だ。
「ほら、小説? ライトノベルでしたっけ? あの手の物を読み合ってあーでもないこーでもないと語ってるみたいですよ」
「へ……あ、あぁそういう事ですか。あはは……もしかしたらおばあちゃんになっちゃうのかと」
気が早いとしか言いようがない。
とは言え、若くしておばあちゃんになる。実はこの二人の共通認識である……と言うか、願望だったりする。
「そうなったら良いんですけどねぇ……でも、まだ早いかと」
「ですよね。それにしても、渡君ってあれだけ鍛えてるのに案外インドア派なんですね」
「楽しければとなんでもと言った感じですかね」
パリパリボリボリとポテトチップスとお茶を楽しみながら二人の会話は弾んでいく。
鈴の深刻そうな雰囲気は何処へ行ったのやら……彼女の心配がある程度解決したとはいえ、随分と軽い空気になったモノだ。
まぁ、この二人付き合いだけで言うならもう二十年近くなるのだから、それだけ信頼関係が有るというかスイッチの切り替えが早い。
と、両家の母親による付き合いは、大抵このような感じで時間が流れている。
案外、渡がどうこうという前に、外堀が完全に埋まってしまう方が早いかもしれない。
お母様たちのお茶会。
と、この二人はかなり仲が良かったりと……ある意味レールが敷かれていると言っても過言ではないでしょう。




