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いかさま品

 渡は研究室で黙々と作業をしており、その手には銀が握られていた。

 何をしているのか? それは、シルバーアクセサリーを作る為に銀を用意している……と言う訳では無く、ちょっとした錬金術に挑戦をしているのだ。


「で、一体銀をどうするんだい?」

「あぁ、どう考えても物資が足らないからな……此処はミスリルを自作しようと思っている」


 ミスリルの自作について、以前にも作れると渡は言っていた。

 しかし、今まで一切自作に手を出そうとしていなかったのにも拘らず、何故今やろうとしているのだろうか? 紬はそのことに疑問を覚えた。


「あぁ……それはだな、ミスリルにはランクがある。先ず一番上に天然のミスリル、次にダンジョン産のミスリル……と、このダンジョン産にもかなり質の幅が有るがそれは今は良いとして、最後に錬金ミスリルまたは人工ミスリルと呼ばれるものが有る」

「へぇ……で、その錬金ミスリルを最後に持って来たって事は、相当質が悪いって事?」

「そうなるな。一握りの錬金術師しか作れないとは言っても所詮は人工品。その質はダンジョン産に比べても格段に落ちる」


 ダンジョン産のミスリル。これはダンジョンがダンジョンで生成される魔力を使い造り上げるという、なんとも特別な方法で作成されている為参考にはならない。なので此処では少し横に置いておくとする。


「天然のミスリルが最上位とされる理由は、その生成過程と魔力の保有量や通しやすさにある。どのミスリルよりも見た目も質も良いんだ」

「へぇ……って事は錬金製はその模倣?」

「かなり劣化した……と言って良いけどな」


 天然のミスリル。

 渡が居た異世界では、太古に存在した強力なモンスターの死骸や魔石が地中深くに埋まり、その埋まった側に銀が有る事で初めて創り上げられるモノ。

 地の底で魔石と銀が接触し、溶け合いながら圧縮されて行く。それも、地中と言う訳だから地属性の魔力を浴びつつだ。それも恐ろしい程の長い年月をかけて。


「そんな天然のミスリルを模倣して作るんだ。劣化品しか作れないのは当然だろうな」


 当然の話だが、地上でソレを模倣するのだ。

 他の魔力がそこら中に漂っている中での作業。時間は天然ミスリルを造り上げる程の時間から見ると刹那と言っても良い。

 そして、使う魔石もまた……強力なモンスター、例えばドラゴン等の魔石が使えるはずも無く。

 条件的にどう考えても、天然ミスリルを造り上げるなど夢のまた夢という話。


 そういう訳で、渡が今までミスリルを作ろうとしなかったのは、相当な劣化ミスリルしか作れないというのが理由であった。



 因みにこれは余談だが、渡は紬達に合わせて〝錬金術〟と言っているが、元々の異世界では〝錬銀術〟と言われていたりする。

 理由は単純。ミスリルという魔法銀を如何に作り出すかが至高とされていたから。ミスリルに比べて金など全く価値何て無いという世界だったという事。

 まぁ、対モンスターにはただの銀でも金より有効なので、その点でも銀を上に位置付けても当然と言える。



 それはさておき。



「という訳で、この錬金ミスリルは現状だと〝水増しミスリル〟だの〝いかさまミスリル〟だのと言われていてな。無いよりマシ程度のモノだ」

「へぇ……でも今回それを作ろうしているんだよね? なんでかな」

「彼方の世界であれば、こんな錬金ミスリルを使うよりも魔鉄と言われる物を使った方が良いのだが、此方の世界には魔力を含む物など無いだろう? であれば、数が足らない以上は作るしかあるまい」

「その、魔鉄を作るのは?」

「錬金鉱石は全て劣化品だからな。錬金魔鉄は錬金ミスリルよりも下だ」


 魔鉄もミスリルと生成原理は同じ。なので、結局錬金製は劣化品しか作れないという事になる。


「師匠はそれに挑戦しようとしてたんだけどな……結局最後まで天然品どころかダンジョン産にすら追い付かなかった」

「人の限界?」

「だろうな。天然もダンジョン産も、神の御業と言われている様なモノだからな」


 人が神を真似しようとしたところで限界がある。とは言え、渡の師匠は随分と錬金製の物の品質を向上させる事には成功していたりする。


「要は、魔力の量と属性に圧縮率。時間だけはどうしようもないから目を瞑るしかないが……師匠はその三つを重視したんだ」


 魔力の量は魔石の大きさ。魔力の属性は如何に閉鎖された空間なのか。まぁ、空気に接触しない地面の中で生成される訳だから。そして圧縮率。これも当然地中であれば高圧縮されるのは当然の話。


「せめてこれらの条件だけでもカバーする事で、錬金ミスリルはその質が向上すると師匠は気が付いた」

「はぁ……なんというか、君の師匠は異端児だったって事だけは理解出来るよ」


 科学的検証など無い世界。地面の中などどうなっているのか全く解明などされていなかっただろう。そんな世界で、渡の師匠はおかしいレベルで周囲のモノより先を進んでいた。

 渡の師匠は、錬金術で作られる鉱石などよりもよっぽど〝いかさま(チート)〟ただのでは? そう感じる紬であった。

世界が変われば物の価値が変わるっと、希少性よりも如何にモンスターに通用するかが大切な世界ですからねぇ。

それに、埋蔵量ももしかしたら違うかも? まぁ、その点は誰も調べてはいませんので分かりませんが。


因みに、オリハルコン辺りに関しては錬金術で作る方法など全く発見されていません。故にミスリルが至高……と。

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