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ソルト

「此方に戻ってから一年経つが……未だに物の価値には慣れんな」

「そうなのかい? でも、平然としているじゃないか」

「いやいや塩なんて恐ろしい安さや量だ。正直頭が可笑しいのではないか? と疑うレベルだぞ」


 渡と紬は現在二人でお買い物中。

 一年の間に随分と、渡もこの世界に適応して来た。来たのだが、やはり価値観という違いはどうしてもその差を比べてしまう。


「彼方だと国が利権を握っていてな、海や岩塩がとれぬ国など奴隷みたいな状態だ」

「それはまた……でも、この世界でも似たような歴史は有ったはずだよ」

「生命に必要だからな。そう考えると、塩や水を手にさえすれば全てにおいて有利に物事を進める事が出来ると言うモノだ」


 渡達の住む日本においても、塩の権利が国から離れ民間に委ねられたのもここ五十年以内と歴史は若い。

 それを考えると、異世界で王権制度な国において塩が民間の手になどと言うのは、まずありえない話だろう。何せ人の命に関わる物ほど金になるのだから。


「はぁ……本当安いなぁ。この塩を一袋向こうに持って行ってみろ。金貨数枚は貰えるぞ」

「えっと、金貨ってこっちだとどれぐらいの値段になるんだっけ?」

「物価が全く違うから何とも言えんが……凡その感覚で金貨一枚で一万円以上だろうな」


 塩一袋に数万円の価値とは実に恐ろしい話である。

 とは言え、塩自体の質が良いというのも考慮されている。よく見かけるスーパーなどで売られている塩でも、あちらの世界では高級品。

 どれだけ技術が停滞しているんだよ……と思わなくもないが、理由はその技術を秘匿し占有しているが為の弊害と言っても良い。


「あぁ……砂糖が安い、胡椒も安い、本当にこちらは食の天国だな」

「あはは……でも、素材はあっちの世界の方が優秀だよね」

「あぁ、特に肉や魚はな。モンスターのモノであれば調味料を使わずとも美味しいからな……まぁ、調理を行えば更に旨くなるのだが」

「だね……あのお肉はまさに極楽だったよ」


 二人で食べている異世界の食材。まぁ、渡の家族もご一緒していたりするが、渡が保存している量を考えても大量に残っているとは言えない。なので、ちまちまと特別な時に少量食べていたりする。


「猛烈にモンスター狩りをしたい気分だ」

「……この世界にモンスターは居ないよ」

「あぁ、其れだけがこの世界における不満点だな」

「いやいや、モンスターなんて居たらこんなに平和な生活を謳歌出来ないよ」

「む……それもそうか」


 モンスターの居る生活。ソレはメリットもデメリットも相応に大きい。

 食材としての質は高級品以上、資源としての素材も相応に使えるモノは沢山あるが……まぁ、隣人が殺人鬼みたいな生活を強いられるという事を考えれば、どちらの環境が良いとは言えないだろう。


「って渡! 君、買い物カゴに塩を入れ過ぎだよ!?」

「おぉっと……こんな話をしていたらつい塩を確保せねばという思考になっていた」

「全く、塩は戻しておくよ」

「あぁ、そうだな。こんなに必要では無いよな」


 そもそも家にまだ塩は有るのだから一袋たりとていりませんと言う話だが、渡がカゴに居れた数は六袋と一体何に備える気だ! と言いたくなる量だった。


 根付いた価値観。それは無意識に使う魔法と同じで中々に抜けきれないモノの様だ。

個人的な考えですが、違う世界もしくは国で生活した場合、一年ぐらいでは頭で理解出来ても何だか違う……と思うんじゃないかなと。

割り切れない訳じゃ無いけど、体は反応してしまう……みたいな感じですかねぇ。

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