ん? そう言う事か
夏休み。ソレは宿題さえ終わらせてしまえば自由に使える時間がたっぷりとあると言う事になる。
当然、渡や紬はそれぞれの能力を無駄と言える程に発揮し、一週間経ったかどうかという内に終わらせてしまっている。なので、渡達が使える時間と言うのは一月以上まるっと残っているという訳だ。
さて、それだけの時間がある渡達。一体何をしているのかといえば……研究と実験三昧だ。
偶に友人達からのお誘いでプールやらゲームセンターなどにも足を運んでいるのだが、基本的には秘密の研究室で魔法陣に向き合いながら、淡々と実験データをノートに記入している。
「渡君。どう見ても失敗じゃ無いかな」
「そうだな。まさか転移先が水中とはな」
渡達の目の前に有るのは、ずぶ濡れとなり使えなくなったカメラ。
ただし、濡れただけならどれだけ良かったか……所々罅が入って居たり、レンズは割れていたりとどんな衝撃を受けたんだ!? と思うような結果だ。
「これは転移先を選べないのが問題だという事か」
「難問だね。こう、飛ばす先を限定出来ないのかい?」
「うーむ……簡単の様で難しいな」
限定するにしても、〇〇の様な場所とするのか、水中は除くと否定的な文にするべきなのか、はたまた両方をとすべきなのか……どちらにしても、それだけ魔法文の量が増え魔法陣が巨大化しかねない案件だ。
「あぁ、だからこそあのダンジョンに在った魔法陣と門はあれだけ巨大だったのか」
「そんなにも?」
「ただのオブジェだと思っていたが、恐らくそれらにも意味があったのだろうな。こう星の形や海にドラゴンなどを象ったモノが門にあった」
「うわぁ……其処まで行くともう何がどう作用しているのか解らないじゃないか」
「何かの形を使う事で文章を省略する……なんとも解読が難しい」
しかもそれらはミスリルやオリハルコンなどが使われている。これらを全て解読するとして、スーパーコンピューターを使っても無理では無いだろうか。まぁ、魔力を認識出来ない次点でどうしようもないのだが……認識しても無理じゃないかな? と渡は思っている。
「ダンジョンの奇跡と言うべきか、神の軌跡と言うべきか……どちらにしても人の埒外としか言いようがない」
「むぅ、それじゃ諦める?」
「いいや、続ける。そもそも、この術式の問題はランダムだからだ。であれば、何か誘導するようなモノが有ればそれらの問題は解決する」
「誘導するモノ?」
「紬、俺達は何故この研究をしている? それを考えれば答えは簡単だろう」
渡が研究している理由。ソレは渡の身内や友人が渡と同じように異世界へと飛んでしまった時の為だ。
「あ、そっか。うん、目的は救助だよね」
「その救助者が飛ばされたと直ぐ発見出来れば……その通った道はまだ認識出来る状況で残っているはずで、飛ばされた相手が身内や紬ならば、魔法でマーキングしているから追う事は可能だ」
後は、こちら側にビーコンを設置して置けば救助後に帰還する事も可能になる。
問題は時間軸や座標が解らない事なのだから。
「あれ、でもそれならこの研究はやらなくても良いんじゃ?」
「いや今話をしていて気が付いた内容だからな。後、本当に飛べるのかどうかは実験をしないといけないし、これにも問題が無い訳じゃ無い」
「どんな問題?」
「実際に誰かが飛んだ訳じゃないからな。検証しようにもぶっつけ本番になる」
「あ……」
今実験しているモノにマーキングをしてそれを追ったとしても、飛んだ先が破損したカメラの様になる場所であればと考えると、簡単に実験に踏み込む事など出来ない。
なので出来る実験はといえば、この地球上でマーキングした相手や設置したビーコンに向かって飛ぶ事ぐらいで、世界間を飛ぶ実験までは出来ない。
「ま、お祈りするしかないな。誰も転移しませんようにと」
「またそれは……神頼みだね」
とは言え、ある程度の方針は決まったとも言える。後はソレを魔法陣として確立させるだけ。
「ただまぁ、本当使わないと良いのだけどな」
「……便利では有りそうだけどね」
ぶっちゃけ転移ゲートとしても使える。それがどれだけ便利なのか……それは言わずもがな。
とは言え、魔法など無い世界でそんなモノを使う訳にもいかず、このゲートの魔法陣は造り上げたとしても塩漬けにされる結果となる。実に勿体ない。
答えの一つに気が付いた……とは言え、それで完成ではありませんが。
素材の問題やら巨大なゲートをどう作るのかというのが残っている訳で。




