ルール
この世界において、何か物事をする時には全てルールと言うモノに縛られている。
試験であればカンニングをするな、武道であれば髪を掴むな金的を狙うな……と、公平性の為などの理由で。
と、この様に縛りに縛られた在り方は、生き難いかもしれないが、逆にある程度は守られているとも言える……が、渡から見ればどうだろうか?
「むむ、意味が解らん。自力救済がアウトとは……」
「まぁルールだからな。個人が力で解決するなどと言う事があれば法治国家でなく放置国家になってしまう」
「しかし、そんな悠長な事を言って居たら、やりたい放題やられるだけだろう?」
「確かにそうだが、それを認めてしまえば無法地帯の出来上がりになる」
鏡宮家の親子の会話がこれである。
と言うのも、渡からしてみればもどかしいったらありゃしない話だらけだからだ。
殴られたら殴り返す。殺されかけたら先に殺す。奪われる前に相手をふるぼっこにする。異世界ってそんな修羅の国だったりする訳で……身を守る為、安全を確保する、そう言ったモノの前提条件が違い過ぎるのだ。
で、今まで渡が問題を起こさなかった理由。ソレは単純で、常に渡の傍で誰かがストッパーをしていたから。まぁ、主に紬なのだが。
紬ちゃんの言う事は素直に聞く渡君なのです。
さて、何故この二人がこのような会話を始めたかなのだが、元は武に関する事から始まった。
と言うのも、修一がテレビで柔道の試合を見ていた事が切っ掛けで、修一が盛り上がる中、渡は何で殴ったり相手の骨を折ったりしないのだろうか? と疑問に覚え修一に質問をしてみた。
すると、修一の口から出たのはルールだからという言葉。渡からしてみればさっぱりわけわからんとなる。
これもまた、常識というか意識の違いと言う事なのだろう。
渡からしてみれば、武と言うのは弱いモノが強い者……渡の場合で言うなら、人間がモンスターと戦う為の術。そして、そうである以上ルールなんぞと言って居られないだろうと考える訳だ。
逆に、修一からしてみればその考え方は蛮族的なモノである。ま、如何に平和を謳歌して来たかと言う証拠でもある。
そして、この意識の違いが……どう説明したら良いんだろうか!? と、修一の頭を悩ませる結果になる訳だ。
で、ルールとはなんじゃらほい? と言う話が盛りに盛り上がって、力の行使やら法律にまで足が少し掛かっている内容になったと……まぁ、話題飛びすぎぃと言っても良いだろう。
「難しいな……こう、すぱっと解決してしまえば良いモノを」
「人の柵と言うのはすっきりと行くようなものじゃないからな。渡の言うやり方を通せば、行く末は報復合戦だぞ」
「報復の仕返しか、そんなモノはやられる前に潰せば楽なんだがなぁ……」
「本人に来るならそうかもしれんがな。身内や友人の中で弱い者が狙われてしまえばどう仕様も無いだろう?」
「まぁ、弱い場所を突くのは当然の戦術ではあるが……」
うぅむ……と悩む渡。そもそも、異世界に居た時は渡にとって失う者も物も無かった。ぶっちゃけ、守るべきものは自分の命のみ。なので防衛と言う事を言うなら実に楽な物である。
では、今はどうだろうか?
「渡……もし、渡がやった事で紬ちゃんや武に何かあったらどうするんだ?」
「全力で相手を殺す」
「いやいやいや! 殺すとかそう言う前に、何もされないような状況を作ろうと思わないか?」
「あぁ……と言う事は、相手を全力で脅す?」
「……いや、まぁ、確かにそうだが、その脅し方をルールに則ってやろうと言う事だ」
国家権力を使いましょう! と言うお話。まぁ、ソレが通用しない相手もいるのだがソレは横に置いておく。コレは渡に対して常識を教えている状況なのだから。
「時間が掛かりすぎる」
「掛かるがソレが一番無難なんだよ。下手に行動を起こせば、渡は捕まってしまうだろう。そうすると、悲しむのは家族の私達や紬ちゃんだぞ?」
「むむ……面倒な事が多いな」
「ま、ソレがこの世界で生きていくと言う事だ」
「戦い方が変わると言う事か……」
剣を見に、盾を言葉に、手に取る武器を法と言うモノに変えて戦う。それ自体は理解出来ない訳では無い。
ただ面倒で納得が出来ないだけ。
渡はそんなチグハグと言っても良い思考を、何とか飲み込もうと父との会話をたっぷり時間を掛けて行っていった。
渡君……と言うよりも、この手のモノは誰しも一度は思った事かと。
まぁ、大きくなるにつれそう言うモノだと納得するものですが……まぁ、彼の場合は異世界にいたのでw




