喧嘩上等!
争いは何も生まない……なんて綺麗ごとで話を纏める物語がある。
本当に? 本当に何も生まない?
そんな事は無い。意見をぶつけ合うのも一種の争いだ。技術競争にしてもその一旦と言っても良い。
人が成長する為には、争うと言う行為が必要不可欠。そんな状況など沢山ある。
とは言え、平和なんて糞くらえ! なんて考えをしている訳では無い。平和と言う休息は間違いなく人にとって必要で大切なモノだから。
さて、何故こんな事を? と言うと、争いもせず沈黙を保つのは不味いと言う事が在るからだ。
言いたい事を言わずに我慢する。やりたい事をやらずに本心から目を逸らす。それも、争わない為に。
鬱憤が溜まるよね? イライラするよね? 自分自身を殺して最終的には生きる人形の出来上がりだ。
そうならない為にはどうしたら良い? そんなの簡単だ、適度に争えば良い。
ぶつかり合うとまでは言わないが、自分の意見を言って、相手の意見を聞いて、一番良い落としどころを見つける。妥協すると言っても良い。
ただ、この時の妥協は何も言わずに我慢するよりも、遥かに生産性がある。
そう、争いは様々なモノを生む可能性を持ち合わせている。
〇●〇●〇●〇●〇●
「と言う事で、喧嘩をしようと思う」
「は?」
「ひ?」
「え?」
行き成りこいつは何を言っているのだ。紬と両親からそんな視線が渡へと突き刺さった。
「いや、武の事は気が付いているのだろう?」
「あー……うん、それは何となくだけど」
「武か、あいつも自分の心を素直に受け入れたら良いのだが……まったく」
「でも渡、喧嘩ってなんで喧嘩なの? 普通に接したら良いじゃないの、そもそもあの子は受験なのよ? 下手な事をして失敗したら」
「母さん……武の為でもあるんだ。何せあいつは悩んで勉強に身が入っていない。このままいけば失敗する可能性の方が高い」
そんな渡の話に、全員思い当たる事があったのか「あぁ……」と納得してしまう。
「それに、殴り合いをしようと言う訳じゃ無い。そもそもそんな事をしたら武は再起不能になってしまうぞ」
異世界育ちの渡による一撃。そんなものを喰らって再起不能で終われば儲けものだろう。
下手をしたら塵すら残さないのではないだろうか。と、そんな事を想像した三人は力に物を言わせると言わない渡に
安堵した。
が、それで良いのかとも考えたのだろう。修一は渡にそれで良いのか? と話を続ける。
「力でと言わないのは解ったが、ソレで大丈夫なのか? ほら、殴り合った方が心が通じ合うとかあるじゃないか」
「父さん……それ、何時の時代のドラマだ? 此処は誠心誠意言葉を交わすのが正解だろう」
異世界にて力に物を言わせてきた渡の方が正しい事を言っている。その事実に、紬と奈々は目を剥くほどの衝撃を受けた! 渡が成長している!! と。
そして、修一は(俺って古いかなぁ?)と考えつつ、確かに渡の言う通り言葉で殴り合うのが最初か! と、納得をした。
そんな訳で、武の事を渡に任せる事にした両親。紬は本当に大丈夫かなぁ? と思いつつ、鏡宮家の事なのだからと、余り口出しをしないまま経過を見守る事にした。
その後の話。
武は少しだけ渡に対する態度が変化した。
顔を見れば挨拶をし、確りと「兄さん」と呼ぶ時に言える様になっている。
そのきっかけとなった渡の言う喧嘩だが……内容は二人の秘密らしい。
何やら両親には、闘論でもしているのかと思うような雰囲気や、バシッ! と何かを叩く音が聞こえたそうだが……別に怪我をした跡も無く、二人揃ってリビングへと来たので問題無いだろうと判断したようだ。
何はともあれ、少しだけ兄弟の仲は改善したようだ。
一歩進んだようです。




