兄と呼べずに
鏡宮 武。中学三年生……と、現在受験に向けて猛勉強中。
のハズなのだが、現在彼は違う事が気になって仕方が無い!
「くっ……あの二人、こっちが受験勉強中と言うのを忘れて無いか?」
リビングから聞こえてくる楽し気な会話。今日が休日と言う事も有り、両親も混ざってその音量は何時もよりも増し増しだ。
そして、自室に居る武は気が立って居る為か、普通なら聞こえないだろうそんな声を拾ってしまっている。
ただこれに関しては、受験と言う事だけが問題では無い。
本人は気が付いてないが、彼は人一倍兄の渡の事を気にして居た。まぁしょうがないよね、上手く話せないまま後少しで一年が経ちそうなのだから。
そんな、何か話さなくては! という思いが、余計彼等の会話に対して無意識に耳を傾けており……聞くつもりが無いのにも拘らず、会話を盗み聞きしていると言う訳だ。
「でも、せっかくの休日な訳だし……此処で怒鳴り込むのも何か違うよな」
兄が戻って来てからもうじき一年。とは言え、まだ一年も経って居ないのだ。
そりゃ、色々と両親も話したい事が山の様にあるだろう……と、武は自分自身にも言えよ! と言いたくなるような配慮。
そして、なら自分が聞こえない様にしたらいいのかと考えるが。
「耳栓は無いし、音楽を掛けるってのもなぁ……音が外に漏れたら、何事!? って皆が来る可能性もあるし」
ヘッドセットを使えよ! と言う話なのだが、色々考えすぎて頭が回っていない様だ。
しかしこの手の悩みは今回が初では無い。
何かと兄を気にする武だ。さり気なく何を話しているのか? など、こっそりと自然な動作で聞き耳を立てている。
ついこの間もラッキースケベな話を耳にし、自分の妄想を垂れ流した何て過去がある。……まぁ、その妄想が渡達に聞かれていたなど武は知りもしないのだが。
「うーん……なんかもやもやするなぁ」
そのもやもやは幼少期に構って貰ったと言う過去が、覚えて無かったにしても思い出させているのだろうか。
元々、お兄ちゃん大好きっ子だった武なのだが、その記憶が無い為、上手い具合に整合性が取れずバランスが崩れているのだろう。実に不憫である。
「会話に混ざれば良いのか? だが、何を……」
弟君ソレが正解だ。だが、それを教える人は此処に居ない。
「ま、まぁ受験勉強があるしな!」
そして、受験を理由に棚上げを使用とする武。それでは余計に拗らせていくのだが……嫌な事は後回しに使用とするのは人の常。
この弟の武は誰かに背中を押されるか、何か大きな衝撃でも無い限りは前に進めないのではないだろうか? ここら辺は、兄が消えてから過保護になり過ぎた両親の失敗と言えるかもしれない。まぁ、過保護になるなと言う方が難しい話だが。




