夜の廃墟
夏と言えば? そう怪談だ。
とは言え、怪談話は暑さに対して少し涼しくなろう的なモノ。大抵の場合は諺にもある〝幽霊の正体見たり枯れ尾花
〟だ。
ただ、それだけでは証明できないモノもあるのだから、怪談話が無くなるなんて事が無い。……何時か全てが解明される日もあるのだろうか?
さて、そんな怪談だが渡達の地元には廃墟の亡霊と言う怪談がある。
夜中にこの廃墟の前を通ると不思議な音が聞こえる、割れた窓ガラスに影が映る、風も無いのにカーテンが揺れる……と、何処にでもあるような話。
ただ、そんな廃墟なので地元では肝試しの場として使われていて……まぁ、その肝試しをしている人たちが幽霊の正体なんてパターンも有ったりする。
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「で、此処がその廃墟か」
「うん、何か如何にも! って感じじゃないかな」
渡と紬が目の前の廃墟を見て、なんら普段と変わらない感じで会話をしている。
ただ、何故こんな場所に居るのかと言うと、いつものメンバーで集まり夜中に肝試し。まぁ、こんな企画をしたのはメンバー1のお調子者の陽一だ。
ただ、彼は「肝試しやろうぜ!」と言っただけで、日程やら時間など色々調整したのは楓だったりする。楓は陽一の補佐役になってしまったようだ。
「うー……なんかもうすっごく不気味」
「そうよね……あぁ、もう何か動いた様に見えちゃったじゃない!」
そして、まだ廃墟に入っても居ないのに怖がっているのは健太と霞。
いつも以上に近い距離でお互いをフォローしながらふるえている姿は……子犬がくっ付いてプルプルしている様にも見える。
そして、そんな美味しい状況をこの男が見逃す訳が無い。
「わっ!!」
そんな二人を後ろから奇襲。ご丁寧に背中を軽くトンっと押している。
「「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
そして、肝試しが始まっても居ないのに叫び出す二人。それを見てニヤニヤする陽一。
「全く……この阿呆は」
そこでやれやれと言った態度を取りながら、陽一を回収し窘める楓……と、まぁある意味いつも通りの行動ではある。
「しかし……ふむ、肝試しか」
「ん? 渡どうしたんだい何か気になる事でも?」
渡にとってホラーと言えば、異世界で討伐して来たゾンビやらゴーストなどのモンスター達。
古い屋敷や城に墓地などで、夥しい程のスケルトンやリビングアーマーとやり合ったのは、今となってはいい思い出……いいのだろうか?
と、そんな思いでは今は置いておくとして、そんな〝本物〟を知る渡だ。肝試し! と言われても怖いなどと言った感想が出るはずも無い。
「いや、此方のホラーは可愛いなぁと」
「か、可愛いのかい? えっと、それは何と比較して?」
「ん? あぁ、此方の世界には魔力が無いだろう? だから、その手の類のモノが恐ろしい行動に出ると言う事が無いんだなと」
ぼそぼそと頬を寄せ合っての内緒話。ただそれを見た友人達はと言うと……何やらもにょりとした顔になった。
まぁ、これも最近よくみる光景。渡は恋愛を良く解ってないくせに、天然でいちゃつきやがって! と、まぁそんな感じだ。
「ん? ちょっと待って、さっき魔力が無いからって言ってなかったかな?」
「言ったぞ。こう、恨み辛みが籠ったモノはこの場にあるみたいだからな。魔力がソレと一緒になれば、晴れてアンデットモンスターの誕生だ」
数秒の間紬がフリーズした。
そして、紬は理解してしまう。あ、この世界にもお化けって本当に居たんだ……と。そんな事を理解した瞬間、紬の正気度は一気に急降下した。
「みゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
不思議な叫びをあげる紬。そして、そんな紬をどうしたんだ? と不思議な表情で見る渡。
友人達も紬が突如叫んだ事で逆に冷静になり……肝試しは開始される前にクライマックスを迎えてしまい、その場で解散となった。紬ちゃんその場で失神してしまったしね。
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後日、この廃墟にて新しい怪談が増えていた。
何やら、猫の様な叫びが聞こえると言うもの。なので、もしかしたら猫又でも居るのでは!? などと、話題があちらこちらで聞こえる様になり、肝試しをする人達も増えているのだとか。
ただ、その様な話を聞いた紬はと言うと……。
「穴があったから入るね……」
と、何やら布団に頭を隠して恥ずかしそうにしていたとか。
「いや、紬……それは穴では無く布団だろう?」
「いいの! 気分の問題だからね! と言うより、渡の所為でもあるんだよ!」
「そ、そうか? なんだか良く解らないが……すまない」
「うー……いいけど、いいんだけどぉ」
もぞもぞと頭を隠して動く紬。その姿は猫が狭い場所に潜ろうとしてる、そんな姿と同じように見えてしまうのだが、ソレに気が付かないのは本人のみだ。
渡と居ると、肝試しすら普通にはならない('Д')




