さっぱりわからん
「むむむ……」
渡が唸る。何だか見ていたら、頭から煙でも出ているのではないか? と思うぐらいに悩んでいるようだ。
そして、そんな渡の様子を苦笑して見守る十の瞳。まぁ、紬達が近くに居ると言う事なのだが。
「難しいぞ……どうしてこうなる」
「渡君にも難問って言葉があったんだね」
「珍しいものをみたな! しっかし……実は俺も良く解らん」
霞が意外だねと言い、陽一が実は……的な感じで独白。
そんな陽一に対して楓がやれやれと言った雰囲気を醸し出しながら、「お前も読んでおけ」とそっと本を差し出した。
「あはは……渡君と同じで僕にも難しいかなぁ。だって何時も揶揄われる側だし」
少し寂しそうな目で遠くを見る健太。えぇ、君は子犬ちゃんと女子生徒に可愛がられているからね……と、陽一が半ば羨ましそうな目で陽一を見た。
しかし、本人からしてみれば、ソレは羨ましいなんて思われたくない内容。男に向かって可愛いって言うな! 小動物じゃないもん! と言うやつである。まぁ、その反応も可愛いから余計相手に火をつけているのだが……知らぬは本人ばかりなり。
と、此処で注目する相手を渡に戻すとしよう。
彼が何を悩んでいるのか。ソレは友達に勧められた小説を読んでいるから。
ただし、その内容はファンタジー物ではなく恋愛物。少しは女心を知れぃ! と言う訳だ。
しかし、渡にとってこの小説の内容は完全に未知の世界。
なんでこんな風に思うんだ! いや、遠回り過ぎだろう! 相手を試すとか阿呆か!? と、突っ込み要素満載。駆け引き何それ? そんなもん戦闘だけで良いだろう。
「渡には厳しい内容だった? まぁ、僕も駆け引きとかはしたくないけど」
紬はストレートだ。恥ずかしさとかは有れど、馬鹿をやって手が離れるそんな真似はしたくない。
十年の間一緒に居れなかった思いがそうさせているのか、それとも紬の素がそういう性質なのかは解らないが、彼女としては思いはそのまま伝えた方が良いと考えている。
……ただ、渡に対して素直に伝えても、渡自身にその概念が生まれてないのか、結構滑り気味だが。
そんな渡と紬を見て、親友達がこうしてあの手この手で渡に恋愛とは! と教えようとしている。実に美しい友情と言えよう。
ただまぁ、それすらも渡の天然要素で、思惑がヌルリと外れている状況なのだが。
「こりゃ、まだまだ先は長そうだな」
「……陽一が言えた事ではないでしょうに」
「おま! そう言う楓だって彼女いねーじゃねーか!」
「自分は出来ないじゃなくて作らないだけで、一応この間告白もさr「なんだと!?」っと、大声を出さなくても」
何かと騒がしいのだが、そんな賑やかなやり取りも今の渡にはただの音でしかない様だ。必死にウンウン……と頭を抱えて唸っている。
因みに……西野 楓。
彼は一部の女子から鬼畜眼鏡! と不名誉な呼び方を影でされている。それも、陽一に対する突っ込みが実に毒を含んでいるから。いや、本人達はいつもの事なので気にもしていないのだが。
ただ、その毒を含んだ言葉がツボに嵌っているらしく。特定の女子に人気なんだとか……あまり覗きたくない闇がそこに有りそうだ。
渡君勉強中……と言うにはいきなり恋愛小説ってハードル高くね? と思わなくも無い。




