目が離せない
渡がこの世界に戻って来てまだ一年と過ぎてはいないが、それでもソコソコの時間は経過している。
しかし、しかしだ。
渡が無意識にポンと魔法を使ってしまう、もしくは使いそうになる癖が一向に直る気配を見せない。
「むぅ……アレだけ言ってるのにどうして君は魔法を使うのかな」
「すまない。どうしても魔法の方が楽だからな」
実際の話。紬にも魔法を使ってしまうと言うのはどうしようもない事だと言うのは理解している。
長年の癖だ。寧ろそれをやらねば生きていられなかった。なので、今更使うなと言われても難しい話。
とは言え、魔法の危険性は話した通りで、渡もまたその話を聞いた際に魔法を使わないと同意している。まぁ、例外は幾つかあるが。
なので、渡もこうした無意識下で使ってしまった時など、実に気まずそうな表情をしていたりする。するのだが……まぁ、今のところお察しの通りと言う訳だ。
だからと言う訳では無いが、紬は何度も言う必要があるんだよな……と考え、とりあえず致命的な事にさえならなければ! と、長い目で治していくかと言う気持ちではいるのだが。
「うーん……ただ、亀の一歩も進展が見えないのはどうかと思うんだ」
「意識している間は大丈夫なのだが……」
「その時点でダメだったらもう絶望だよ」
紬の言う通りである。
寧ろ意図的に魔法を使っていますとなれば、お前は何の話に了承したんだ! と言う事になる訳で。テロリストか? 愉快犯か? と問いただしたくなるレベルだ。
まぁ、現状の渡を見てその様な気配は無い。だから紬もその点については安心しているのだが。
「こう、方法を変える必要があるかな」
「ん? どうするんだ?」
さてどうしようか? そんな事を考えながらぐるぐると部屋の中を回りつつ周囲を見渡す紬。
そして、とある物にが視界の中に入った。
「スパーンと一発入れる……うん、これなら衝撃もあるけど痛くはない。傍から見てもただの突っ込みじゃないか」
ぶつぶつと考えを纏めながら、部屋の中にあるモノを見つめる紬。
「うん、これでこう! よし行ける!」
「つ、紬?」
紬は何か決定したようだ。実に声が弾んでいる。
だが、渡はと言えばそんな紬に言いようのない不安を覚えた。
「大丈夫だよ渡! 僕が! 確りと! 渡の無意識を直してあげるからね!」
「お、おぅ……何だか凄い迫力だな」
紬の勢いに押され、渡は内容も聞いていないのに紬の言葉を肯定してしまった。
そんな渡の様子に紬は満足し、グッと両手に力をいれてガッツポーズ。これからがんばるぞー! と気合をいれている。
こうして紬による渡矯正計画が少し変化を見せた。
次の日の朝から響き渡るピコーン! と言う打撃音。どうしてそこに有ったのか、何故ソレに紬の目が行ったのか、実に謎ではあるが、紬は渡への突っ込みアイテム「ピコハン」を手に入れるのであった。
突っ込みアイテム「ピコハン」を手に入れた(≧▽≦)
何故あったかは……不明。
因みにこの話はプロローグより少し前になります。




