世界が少し遠く感じる
中学に通うのも後少し。
学校では卒業する生徒を送る為の準備で大忙しの中、あちらこちらで青春やなぁ……と思う光景がちらほら。
そして、その様な光景の中に「おいおい、それは良いのか?」と言いたくなるような内容まで。
「先生勝負だ!」
「お! やるか!」
などと、謎の勝負を仕掛ける生徒。その手には何やらカードの様なモノが……先生それで良いのか?
「先輩! あの技を教えてください!」
「おいおい、もう部活を辞めてからどれだけ立ってると思ってるんだ」
部活の先輩に最後の教えを! と縋る後輩。
そして……。
「お姉さま! 熱いベーゼを!!」
「やめなさい! 私はノーマルと言ってるでしょう!!」
周囲の目を気にせず、一方的な百合の花を飛ばす女子生徒まで……。うん、コレは見なかった事にしよう。
ま、まぁ、各々が終わりまで後わずかと言う時間を満喫するかの如く過ごしている。
そして、その様な光景を見ている渡は……少しばかりの疎外感を感じていて。
「この空気を理解出来ないのは、俺が此処で過ごした時間の短さゆえだろうな」
「あー……でも、僕はこの半年間すごく楽しかったよ」
「紬にそう言って貰えると嬉しいが、周りと共感出来ないと言うのはな」
最後だからとみんなで楽しむ。そんな感覚を共有出来ないのはどうなのだろう? と悩む渡。
と言うのも、渡にとって最後だから盛り上がろう! と言う場面は、大抵の場合死に直結する可能性がある時が多かった。
街にモンスターの波が襲って来た時、ドラゴンタイプのモンスターと戦う必要が出来た時。そんな間違いなく誰かが死ぬだろう状況だ。
だからこそ、渡も基本ソロで行動していたとはいえ、そう言う時ばかりは他の冒険者たちなどの輪に混ざり、馬鹿食いだ! 飲めや歌えや! と言った騒ぎに参加した。ま、士気向上の一手でも有るのだが。
そして、そんな渡だからこそ、死なないのだから最後とは言えないだろう? という気持ちが何処か片隅にあり、この〝最後の学校生活を楽しもう〟という空気に馴染めないでいる。
「ま、ソレに僕達の場合は友達が皆同じ高校だしね」
「それも有ったな」
クラスメイトの中でも特に仲が良くなった紬以外の四人。彼等は皆同じ高校に進学すると言う事で……ぶっちゃけ、高校も今の延長という感覚があったりもする。
実際にはクラスメイト全員と言う訳でないので、全く違うと言うのは渡も紬も理解して居るのだが。
「まぁ、地元だし何時でも会えると言うのも有るからな」
「そう言えば前に、卒業した先輩が先生に会いに来たなんてのも見た事あったね」
結局は狭い空間だと言う事だろう。異世界とは言え世界中を渡り歩いたのだ。渡と周りでの感覚が違うのは仕方の無い話。
「とは言え、この空気に水を差すのもなんだしな」
「僕らは教室の片隅でゆったりとしていようか」
「だな」
この様な事を言っている二人だが、この後いつもの四人に襲撃され、更にはクラスメイトが集まり大ゲーム大会になるのだが……それもまた良い思い出になるのではないだろうか。
卒業前の一コマと言うやつですね。
ちなみに作者は……ぽけーと外を見ながら脳内で物語を考えている口でした。




